愛と欲望の雑談 (コーヒーと一冊)

  • ミシマ社
3.85
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  • Amazon.co.jp ・本 (96ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903908809

作品紹介・あらすじ

女性性とうまく向き合えない自身を描いた『女子をこじらせて』で、世の女性の心を鷲掴みにしたライター・雨宮まみさん。日常に転がる「分析できないもの」を集めた『断片的なものの社会学』で、社会学の新たな扉を開いた岸政彦さん。活躍する分野も性格もまったく違うお二人による「雑談」、もう、止まりません!

私たちはときには譲り合うことなく対立しな がらも(例・浮気の是非)、他者を信頼したい、他者とともに在りたいという思いについては、共有していたと思う。――「あとがき」より

感想・レビュー・書評

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  • 『断片的なものの社会学』の、岸政彦先生と、『まじめに生きるって損ですか?』の、雨宮まみさん、二人の、対談ならぬ雑談本という趣旨が面白く感じ、雑談だからこそ出てくる、パーソナルな本音の数々も読むことができて、楽しかったです。

    そもそも、岸先生によれば、日本に恋愛は根づいておらず、これまで日本人は、言語によるコミュニケーションをしてこなかった、いや、してはいるんだけど、どこかで苦手なところがあるらしい(できる人とできない人の差が極端化している)。

    それの根拠として、例えば、日本は、会ったばかりの知らない他者に対する「信頼」が、治安が日本ほどよくないアメリカやヨーロッパより、はるかに低いのは、「和を尊ぶ」と言われている日本人のそれが、「安心」だからであり、安心に対する志向性は強いけれど、一般的な他者に対する信頼はものすごく低いからであり、よく、何か起こったときに、「そんなことするお前が悪い」って言い方をされる、『犠牲者非難』が強いこと。

    また、夫婦、家族関係など、親密な領域では、言わなくてもわかってくれる、という変な感覚というか信仰があることや、満たしてほしい気持ちがあって、それを言葉で伝えて満たしてもらうと、嬉しさが減るみたいな考え方もあり(察してちゃん)、それらは、『言語化すると価値が減る』ということに繫がるのではないかと。

    他にも、お互いの関係性についてのことなのに、どちらかが一方的に決めつけて、押し付けていることに対して、言うと関係が壊れる恐怖があるからと、言えないでいる事など(自分の希望は言わないと通らないのに)、改めて、言葉で伝えることの大切さを、実感させてくれます。


    他に気になったこととして、

    『しんどい方が偉い』という考え方。

    昔は、「持ってない」ことをバカにされるのが一般的だったが、今は『持ってない者が持ってる者のことをバカにする』といった、差別のあり方の逆転。

    攻撃的な人は、収入とか関係なく、あらゆる層にいて、パーソナリティの問題なのではないかということ(ヘイトスピーチも恐怖感の裏返し)。

    等は、他人と比較することでしか、ものごとを見ていなかったり、自己肯定感が足りなかったりと、満たされたいけれど、それが出来ないし、どうすればいいのかも分からないといった、現状を感じさせられる。

    岸先生は、個を確立して交渉して、というのは必要だが、その社会ってものすごく流動性の高い社会で、格差が広がる社会であり、それこそ二極分化していく社会なのに、そこを個人のスキルに任せていいのか、ということを気にされていて、雨宮さんも、一部の人は余計に生きづらくなるのではと、心配されており、難しい問題だと思いました。


    また、女性の話で印象的だったことは、

    女性が「自分」になるときに、何かを差し出して、引き換えにしないと「自分」になれないということがすごくあり、そのままでは「自分」にはなれなくて、何かを我慢したりしないといけない。

    男が男に惚れる「男惚れ」は普通なのに、女性の、性的な眼差し以外の「好き」に対して、世間の了承ってめちゃくちゃ狭い。

    ちなみに、前者が岸先生、後者が雨宮さんです。
    雨宮さんに関しては、「アカデミズム○○野郎」なんて、屈託のない痛快な言葉も素敵。


    そして雑談は、「浮気」のテーマでヒートアップし、

    岸「でもね、僕はそこは絶対に譲らないですよ!」
    雨宮「おお! いい試合になってきましたね、私たち(笑)」

    と、それぞれの人柄も窺えて、テキストコミュニケーションとはまた違った、人間同士のコミュニケーションの面白さを感じさせられ、『おわりに』で、雨宮さんが、「実際に会ってする会話には、無駄も危険も多いけれど、そこにはまだ、そこにしかない豊かさがある」と、書かれたのも肯ける内容でした。


    最後に、私は社会学というのが、実はよく分かっていなかったのだが、雨宮さんの、「岸先生の文章は、むしろそうした『まとめ』から抜け落ちてしまうニュアンス(個人的なもの)を掬い取っておられるように感じます」や、岸先生の、「自分の中での『ロマンチックに語ること』に対する反発が、仕事をする上での核を担っているんです。何気ないもの、世俗的なものや普通の統計データを基に、普通の物語を書きたくてやってるんですよね」のお言葉に興味を持ち、『断片的なものの社会学』も読んでみようと思いました。

    ちなみに、ミシマ社の本は、初めて読んだのですが、本の角が丸く加工されているところに、細やかな気遣いを感じさせられ、印象的でした。

  • もっともっと雨宮さんの考えを知りたかった、雨宮さんの書く文章を読んでみたかった。。。

    p44 自分が何に苛立っているのかを正しく分析する
    p81 体目当ての何がダメ?顔が好き、体が好きと言われた時に初めて、何もしなくても愛されることを実感できた

    1番大笑いして首もげるぐらい頷いたのはここ。笑
    p88 アカデミズムクソ野郎、ただのヤリチンのくせに威張れる神経どうかしてますよね。それで性とか語っちゃうんだけどしょうもないことしか言わないんですよ

    ワードチョイスも話題の展開の仕方も、聡明で、豪快で、でも繊細で、とっても好き

  • 面白かった〜。
    分析することが体に染み付いている人はこんなにも深くまで物事を掘り下げられるんだな。
    交わされる言葉がなんともクリティカルで、人の業を的確に言い表している。でも人のダメさ加減に気付いているから自分は特別な存在であるとは思っていなさそうなところがいい。
    自分の分析は奇抜なものではなく普遍的なものにしていきたいと言っていて、言葉への信用度が上がった。

    ーーーー
    ・「誕生日を祝ってほしい」と口に出して祝ってもらうよりも、相手が自発的に祝ってくれたことの方が価値が高い
    ・最近は自分のしんどさを聖化する流れがある。そこは不可侵であると譲らないところはある。だから「あいつは実は貧乏らしい」よりも「あいつは実は金持ちらしい」の方が悪口になりうる。では、どうしたらお互いのしんどさを分かり合えるかと言うと、今は無理。かなりポジティブな感情が底流にないと不可能。
    ーーーー

    この辺りがかなり良い。
    人々の中で「正解」とされる振る舞いが年代によって細かく変化をするのに興味があったが、そういうのは社会学で知れるらしい。えー読んでみようかな。

  • 『女子をこじらせて』の雨宮まみさんと『断片的なものの社会学』の岸政彦さんの対談集。どちらも気になりつつも手を出せずにいた本なので、取っ掛かりを得られて嬉しい。前者は表紙が下品なんだよなあ… と尻込みしていた(というかグサグサきそうな予感がしてたから避けてたのが本音だ)けど、本作を通して雨宮さんの素敵さを垣間見れたので、いつか読みたいなと思う

  • 対談本というものを初めて読んだ。
    対談に臨むのは、エッセイストの雨宮まみと社会学者の岸政彦。

    僕は雨宮まみが大好きで、そのネームバリューだけでこの本を購入したようなもの笑

    だけど対談本だから話し口調なのだ。雨宮まみのいつもの研ぎ澄まされた文体は登場しない。
    雨宮まみがとても活き活きと話しているのを同じ場で見ているようで、終始ニヤニヤしながら読んだw
    やっぱりこの人は魅力的!

    岸政彦に関しては勉強不足で知らなかったんだけど、本書を読んでいるうちに気になる人になった。
    社会学的な見地から語られる考察は非常に面白く、それでいてユーモラスでもあって、魅力的な大人の男性という印象を持った。
    「断片的なものの社会学」ちょっと読んでみようと思う。

    「愛と欲望の雑談」というタイトルに反して、対談内容はもっとマジメだった。
    人と人のコミュニケーションの重要さを説き、社会の断絶に警鐘を鳴らすような箇所もあり非常に面白く読んだ。

    とりわけ「不幸自慢」のような最近の現象は、そういうのあるよな〜と共感。「より不幸な人が偉い」みたいな風潮は全く好きではない。


    この本はミシマ社の「コーヒーと一冊」というシリーズの本でもある。
    装丁が可愛く、同じテイストの栞まで封入されている。
    100ページ足らずのささやかな本だけど、非常に好きな一冊になった。

  • 風邪でちゃんと読めなかった、再読棚

  • (アナーキーな欲望ほど偉いみたいな雰囲気があった90年代サブカルについて)雨宮「本当にあのときは、文化系って脆弱だなって思いました。みんな身体性にすごく弱いから、体験主義に弱すぎるんですよ。」

  • ライターの故・雨宮まみ氏と社会学者 岸政彦の対談。タイトルの通り、雑談かもしれませんが。

    100ページに満たない頁数で、コーヒーを飲みながらサクッと読める一冊。でも中身はかなり濃厚。

    途中で出てくる「欲望は他者の欲望の模倣」とはよく言ったものだなあと感心。でも後で調べたら、ジラールという人が言ったのですね。

  • 本のあとがきで雨宮さんが書いた「話すだけで、世界は豊かになる。自分の世界も、他人の世界も。」という言葉をしっかり握りしめていきたい。

  • とりとめのない雑談。ゴールが見えないので、読みながら少し戸惑うかも。お二人のテンポ良い会話が頭に浮かぶようで、確かにコーヒーを飲みながら読むに合う気がする(わたしはビール片手に読んだけど…)
    雨宮さんの、希望を持たない方が楽、でも美しくないというくだりが好きです。欲望とか赤裸々に語るんだけど、美しさとは何か、考える軸があるから言葉が下品でなく響くのかしら。とかとか。

    ブクログのランキングで知った本。サクッと読めました。

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著者プロフィール

ライター。エッセイを中心に書評などカルチャー系の分野でも執筆。著書に『女子をこじらせて』(幻冬舎文庫)、『まじめに生きるって損ですか?』(ポット出版)など。

「2016年 『愛と欲望の雑談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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