〈アラブ大変動〉を読む――民衆革命のゆくえ

著者 :
制作 : 酒井 啓子 
  • 東京外国語大学出版会
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レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904575178

感想・レビュー・書評

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  • 中東をとりまく情勢を理解する上で非常に役立つ内容でした。

  • 酒井啓子さんと青山弘之さんの著述が、冷静、客観的でためになりました。

  • 背景にはもちろんSNSの普及はあったが、それ以前に1990年代後半以降急速に広まったアラビア語の衛星放送の存在が重要となる。p19
    これは情報統制に慣れたアラブ世界に情報公開(グラスノスチ)をもたらし、アラブ世界の人々は膨大な量の国際ニュースの波に全身浸かることになる。
    Cf. 「安楽椅子(arm chair)テロリスト」

    《要因》
    ・アルジャジーラ→情報統制を融解
    ・↑討論し、団結するプラットフォームとしてのSNS
    ・知識層の若者の失業率の高さ→実際の運動へ not 安楽椅子
    Cf. 米援助機関USAIDの資料 Introduction to Egypt's Population Demography

    【国境を越えた若者の革命】p26
    民衆の抗議行動がなぜアラブ世界の広い範囲で広がっているのか、という点を疑問に思う読者は少なくないだろうが、アラビア語という言語や文化の共有、歴史的な共通の経験という重要性は否定できないものの、むしろ民族、国境に限定されない、強権的な長期政権に不満を抱く若者世代のグローバルな傾向として「アラブの春」を捉えたほうがよかろう。ひとつの国で起きた出来事が、同じ言事文化のネットワークに乗って周辺国に広がったのではなく、世界中どこでも見られる政治へのフラストレーションが若者世代のファッショナブルな戦術に乗って、各地で同時多発的に噴出しているのである。
    <メモ>ファーストコンタクトのような地域で、このような胎動の伝播はまず考えられない。Cf. 『昨日までの世界』
    ・カントとマクルーハンの予言を想起

    【デモの組織過程で注目すべき点】p212
    ・平和主義
    ・非党派主義
    ・反宗派主義
    ・外国の関与の排除

  • (2011.12.19読了)(2011.12.06借入)
    【アラブの春・その⑧】
    2011年3月3日、東京外国語大学において公開ワークショップ「アラブ大変動を読む―エジプト、チュニジアの民衆パワーはどこに行くのか」が実施された。本書は、この公開ワークショップの報告を中心に、いくつかの論文を加えてまとめたものである。
    第一部は各研究者の報告を、第二部はその報告を踏まえた会場の参加者との質疑応答や意見を、討論としてまとめた形となっている。さらに第三部は、その後の情勢や都合で当日参加できなかった人の論文が収められている。
    中東諸国の情報が、それぞれの国の研究者が報告しているので、興味深い内容になっていると思います。いずれにしても、今後の動向が気になるところです。
    エジプト、チュニジアは民主化が進むのか? リビアは、主導権争いの内戦になってしまうのか? アメリカ軍撤退後のイラクは? シリアは、アサド政権がこのまま続くのか? レバノンは、古い調査の宗教による人口比率の配分に従った国家運営を続けるのか?
    この本の中で、イスラム教に基づく政治と民主化は、両立できるのかというという疑問に対する一つの答えとして、イスラムの教えの解釈には、柔軟性があるので、両立は可能である、ということだったので、そこに望みを託したいと思います。

    この本の章立ては、以下の通りです。
    序章、「恐怖の共和国」から「アラブの春」へ 酒井啓子
    第一部、アラブ世界で何が起きたのか
    第1章、アラブ世界の新たな反体制運動の力学 ダルウィッシュ・ホサム
    第2章、社会・文化運動としてのエジプト”1月25日革命” 山本薫
    第3章、エジプト政変をどう考えるか 松永泰行
    第4章、イスラームと民主主義を考える 飯塚正人
    第5章、アラブ革命の歴史的背景とレバノン・シリア 黒木英充
    第6章、シリアへの政変波及がこれほどまでに遅れたのはなぜか 青山弘之
    第7章、エジプトの「成功」とリビアの「ジレンマ」 酒井啓子
    第二部、新しい民衆運動をどう考えるか
    討論、アラブ、そして世界への波及をめぐって
    エッセイ、エジプト革命に寄せて エルカウィーシュ・ハナーン
    第三部、”革命”が持つ意味と世界への影響
    第8章、ヨルダン・ハーシム王国におけるアラブ大変動の影響 錦田愛子
    第9章、「革命」をハイジャックしたのは誰か 青山弘之
    第10章、バハレーン 酒井啓子
    第11章、イラク 酒井啓子

    ●政権維持(18頁)
    2011年2月、エジプトのムバーラク政権は、デモ隊の退陣要求に晒されるなかで、「自政権が倒れたら過激なイスラーム主義勢力が台頭する」と述べ、アルカーイダなどのような暴力的イスラーム運動を恐れる人々の危機感を煽った。リビアのカッザーフィーもまた、「反政府勢力にはアルカーイダがいる」と主張している。
    ●要求を絞る(27頁)
    チュニジアやエジプトでの民衆の抗議行動で目を引いたことの一つに、反米スローガンがほとんど見られなかった点がある。
    エジプト、チュニジアでのデモでは大統領退陣のみに要求が絞られ、国外の問題についてはほとんど触れられなかったのである。
    ●チラシ「エジプト人自己改造宣言」(54頁)
    「僕はこれから、わいろは払いません」
    「もうこれからは、道にごみを捨てません」
    「これからは不正を見ても、目をつぶらずに、抗議をします」
    「自分の権利や義務について、理解をします」
    「女の子には、もうセクハラはしません」
    「このチラシをコピーして、多くの人に見せてください」
    ●エジプト人民議会選挙・2010年秋(80頁)
    エジプトの人民議会選挙がどれだけ酷かったかといいますと、取材に行ったNHKや朝日新聞の記者によると、とにかく野党勢力が強そうな投票所ではだれにも投票させない、という暴挙に政府が出たのだそうです。野党支持者が多い地区にある投票所には誰も入れないように、会場の入り口を治安部隊の装甲車などを並べて封鎖してしまった。投票時間が終わる直前までは投票箱がほとんど空だったのに、いざ投票時間が終わってみると、先ほどまで空っぽだったはずの投票箱になぜかたくさんの票が入っていて、それが開票会場に運ばれていく。
    ●民主主義も正当化する(84頁)
    「イスラムの教義は社会主義と同じく資本主義も、宿命論と同じく闘争精神も、排他主義と同じく普遍主義も、それぞれ正当化するとみてよい」
    ●民主主義支持95%(86頁)
    現在、イスラーム教徒の中で民主主義を指示する人は95%ぐらいでしょうか。民主主義はイスラームとは相容れない、と考える人はせいぜい5%程度ではないかと思います。ですから、チュニジアでもエジプトでもイランでも、選挙で選ばれた議員が政治に携わることに国民は反対していません。
    ●政変が起きた理由(108頁)
    「独裁」体制が敷かれていた
    経済の困窮あるいは深刻なインフレによる高い失業率、等の経済的な側面にかかわる理由
    全人口に占める青年層の割合が高く、かつ彼らの多くが職を得られず疎外されている
    インターネットが普及したことによって、特に若者たちを中心とした不満を抱く人々のネットワークが構築された
    ●エジプトの体制は変わっていない(143頁)
    エジプトでは体制が倒れたとか革命が成功したとか、皆さんはおっしゃいますが、エジプトの体制は倒れていません。

    ☆関連図書(既読)
    「原理主義の潮流」横田貴之著、山川出版社、2009.09.30
    「現地発エジプト革命」川上泰徳著、岩波ブックレット、2011.05.10
    「革命と独裁のアラブ」佐々木良昭著、ダイヤモンド社、2011.07.14
    「中東民衆革命の真実-エジプト現地レポート-」田原牧著、集英社新書、2011.07.20
    「レバノン混迷のモザイク国家」安武塔馬著、長崎出版、2011.07.20
    「アラブ革命の衝撃」臼杵陽著、青土社、2011.09.09
    「グローバル化とイスラム」八木久美子著、世界思想社、2011.09.30
    (2011年12月21日・記)

  •  この本は、タイトルで購入。

     お手軽な紀行文ではなく、学会に入っているような、日本の中東研究者の発表論文を集めたような本。

     エッセイ的な文章をあることはあるが、かなり中東の知識がないと、十分に理解できな部分もある。

     自分は何度も最初のページにある中東の地図をみながら読んだ。

    ①松永:国軍が動いたからムバラクが追いやられたのであって、タハリール広場で抗議していた抗議していた人々がムバラクを追い落としたわけではない。(p73)

     これが一番納得できた点。チェニジアも同じく軍部がアリーを見限ったのであって、抗議デモが追い落としたのではないと思う。

    ②シリアが民衆暴動が遅れたのは、政権の予防的措置(アメ)、反体制派の分裂、政権への恐怖のため。(p112)

     今日時点では、シリアではアサド大統領が、民衆を弾圧しつつ、政権を維持している。

    ③リビアはカダフィの独裁体制で、軍部以外に民兵、傭兵、親政府部族をやとって体制を維持していた。(p131)

     リビアは欧米の空爆で、反政府がほぼ勝利を得たようだが、欧米がなぜリビアには軍事介入をし、シリアやバーレーンなどの民衆暴動を放置しておくのか。

     このダブルスタンダードは、いかがわしい感じがする。

     要は、カダフィ政権下では中国が進出していた石油利権に対して、欧米が巻き返したかっただけではないのか。

     中東全体の革命に一般的にいえることだが、特に、リビアの革命についてはもう少し時間をかけて冷静な分析をするが必要。

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著者プロフィール

1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科(国際関係論)卒業後、アジア経済研究所に勤務。24年間の同研究所在任中に、英国ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)で修士号取得。1986~89年、在イラク日本大使館に専門調査員として出向。東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授を経て、現在、千葉大学法政経学部教授兼同大学グローバル関係融合研究センター長。専攻はイラク政治史、現代中東政治。おもな著書に『イラクとアメリカ』(岩波新書、アジア・太平洋賞大賞受賞)、『イラク 戦争と占領』『イラクは食べる』(岩波新書)、『中東から世界が見える イラク戦争から「アラブの春」へ』(岩波ジュニア新書)、『<中東>の考え方』(講談社現代新書)、『移ろう中東、変わる日本 2012-2015』(みすず書房)、『中東政治学』(編著、有斐閣)など。

「2018年 『9.11後の現代史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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