昔日の客

著者 : 関口良雄
  • 夏葉社 (2010年10月発売)
4.33
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  • 81レビュー
  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904816011

作品紹介

尾崎一雄、尾崎士郎、上林暁、野呂邦暢、三島由紀夫…。文学者たちに愛された、東京大森の古本屋「山王書房」と、その店主。幻の名著、32年ぶりの復刊。

昔日の客の感想・レビュー・書評

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  • 私から言わせると、この本の内容は、昭和30年代から40年代にかけて東京郊外にあった“古本屋のオヤジ”の“ざれ言”である。でも通読すると、なぜかほっとする。思わず笑みがこぼれる。
    でも、なんでほっとして笑みがこぼれるんだろう?それは息子の関口直人さんが復刊に際して寄せた一文にある「古本屋にとって、面白い時代を生きられた」という点につきるのでは。

    自分の好きなことを言って、書いて… もちろん今もそんな生活をしてる人はそれこそごまんといる。けれど今とちがって、このスッキリとした感じは何だろう?って、ちょっと真剣に考えて、自分なりに出した結論は、今と違ってイヤミがない、ということにつきると思う。好き放題言ってても、毒がないし攻撃的でない。頭ごなしに怒る感じじゃない。また何より否定的でない。
    今じゃ、たとえばツイッターやブログにちょっと自分の考えを載せたら、それを否定し、さらにその人の人格全てを否定するくらいの勢いの口汚いコメントで毒づかれる時代。作家も古本屋も、そしてあらゆる人が、そんなのにいちいち晒されたら、正直やってられないと思う。

    そうではなくて、自分の趣味をさらりと示して、ちょっと言い過ぎ、やり過ぎても、それを軽く笑い飛ばすような雰囲気が、時代のなかに、人々のなかにあったとしか言いようのない描写がこの本にはあふれてる。
    (実際、著者の関口良雄さんも、他人へ話すのが好きで、時に商売そっちのけであること(ないことも?)話し込んで奥さんにアキレられたり、飲むのが好きでお酒が入ると民謡を大声で歌いたくなり、高名な作家の前だろうとお構いなしで“いなかっぺ大将”状態になったり、という場面が一度ならず出てくる。)だから、ほっとするんじゃないかな。

    時代を時計の針のように巻き戻すことはできないけど、ああいう楽天的な空気って決して悪くないと思うし、他方で、なんでこんなに老若男女すべてがギスギスした攻撃的で排他的な社会になってしまったんだろ?って考えてしまう。だからもし、著者のようなタイプの人が今も「現役」で活躍しているのであれば、批判は可、ダメ出し可、今の常識から照らして疑問の提示も可、だけど「否定」はしないでおきたい。
    他人の言うことやることを誰もが徹底的に否定してかかるようになってから、こんな嫌な空気が支配する今の世の中になったとしか思えないから。

    著者の関口さんは上林暁さんから「本を愛する人に悪人はいない」と言われ、「こりゃあ悪人になれないぞ」って瞬間に頭に浮かんだって“正直に”書いてる。関口さんのそういう一見、外連味溢れる文章に「それは違うぞ」って思っても、否定から入るのはやめようよ…そういうスタンスならばこの本の外連味が深味となって素直に染みてくるはず。
    自分の主張や好みに合うか合わないかってだけで、なんでも物事を二元論で切り分ける時代の空気に息が詰まりそうになってる人に、特におすすめします。
    (2015/5/23)

  • 美しいのです。
    本そのものの佇まいも、もちろん帯も栞紐も、その他すべてが。
    このような本の中に、素晴らしいことが書かれていないわけ、ありません。
    大事に大事に、大事にしたい。

  • うぐいす色の布貼りの表紙。
    中身にふさわしい布貼り装幀で、本は目で読むだけでなく、手で触って読むものだな、と思い出させてくれる。
    手渡してくれた書店主さんは、「汚れやすいからね、早く何かカバーをかけたほうがいいですよ」と一言添えてくれたけれど、この布の手触りもまた中身への期待をほくほくと掻き立ててくれるようで、手をきれいに洗ってからちょっと撫でてみる。それからカバーをかける。カバーはかけたけれど、また読む時には手をきれいに洗って、やはり一度は撫でてみてから、読む。

    東京大森の小さな古本屋「山王書房」店主が綴る、作家さんたちとの交流、古本の話は愛情に溢れている。

    見知らぬ大きなお宅の朴の落葉がほしくて、すみませんが少し下さいませんか、と頼む話がある。「落葉はいくらでもあげますが、一体あなたの職業はなんですか」と聞かれて、「ハイ、私は落葉屋でございます」と。
    いいな、落葉屋。
    落葉も、古本に似ているかもしれないな。新刊本には決してない渋いようなほろ苦いような、でもどこかなつかしくて温かいような感触。

    それから、前夜失くした古本の包みを駅の遺失物係に探しに行ったら、中年のご婦人がこれこれの品物を主人が昨夜忘れて…と尋ねていて、同じような人がいるものだとふと見ると、自分の奥様だった、とは、オー・ヘンリーの「賢者の贈り物」をふと思い起こさせるようではないか。

    ああ、無用なものほどなんとうつくしい。
    ずっとずっと読んでいたい本だった。

  • 古本屋を営む作者さんが綴った随筆でした。有名な作家さんの名前が幾人も出てきて、作者さんも大正産まれのよう。2010年発行にしては古めかしいと思ったら、復刊でした。
    もともとは作者さんが還暦の記念に出版を目指したものの、大腸癌を未告知のまま59歳で逝去。その翌年に発行されました。息子さんが引継ぎ書いたあとがきが印象的でした。復刊に尽力した夏葉社の方と、方々で『昔日の人』を紹介した又吉さんのエピソードも良かったです。

  • 羨ましくなるくらい素敵な店主とお客の交流。「あしたから出版社」を読んでから読むことを心からおすすめします。
    http://www.ne.jp/asahi/behere/now/newpage208.htm

  • 大森の古本屋さん、文学・本への情熱がじわじわと伝わってくる
    文体が素晴らしい。

    当時の本好きとの付き合い方、シンプルで、かつどこか深いものが
    懐かしい感じでうらやましい。
    最近はどこの古本屋に行っても、手の震えるような本に出会わない、
    というあるお客さんの嘆き。
    棚を見て、手が震えるようにして取る、著者も上手い言い方と感心
    しているが・・・、確かにこういう衝撃は今は残念ながらない。
    (私は、昔ありましたが)

    当時を思い出させる描写も良い。
    藤澤清造の「根津権現裏」はやはり古書で高価な値がついていたこと。
    三島があの文章読本が、寝転びながら口述で作り上げたと告白
    してしまうところなどなど・・。

    もっと読んでみたい人だった。

  • 又吉さんが何かの拍子にお勧めされていたのをきっかけに拝読。

    おっしゃる通りの、すばらしい御本でした。


    「山王書房」の店主、関口良雄さんの本に対する深い愛情が、
    めらめらとした熱い炎のようなものではなく、
    その枝葉まで沁みこむような脈々とした愛情が、
    伝わってくるような、すばらしいお話でした。

    古本屋を営むことで繋がる縁、本が生む縁というものを、
    関口さんの随筆を読み、追体験することで、感じ入ることができました。

    又吉さんが、
    「著者の本への愛情を思うと、あとがきのところで泣けてしまう」
    というようなことをおっしゃっていて、
    それは、本当にそうだなと思いました。


    版元の夏葉社さんの「復刊」への思いも、とても伝わるような一冊。
    ていねいに、ていねいに、復刊までの道を歩んだのだろうな。
    布張りの装丁も美しく、手元に残しておくべき本。
    こういう本のありがたさ(まさに読んで字のごとく「なかなかない」という
    意味の有難さ、そしてこのような本に出会えたことへの「ありがたさ」)を、
    多くの人に知っていただきたいと思いました。


    本当に、愛おしくなるすばらしい本でした。

  • 図書館で借りたが、これは手元に置いておきたい一冊かもしれない。(追記)で、買ってきた。

  • この本が描く、恐らく今では取り戻せないだろうどこか温かい世界に思いが広がり、感慨深くしばし眠れなかった。昭和28年、東京都大田区に古書店を開き、多くの作家、学者らに愛された筆者による随筆集の復刊。多くの客の言動は、どこか奇妙で哀しいが、どんな理由であれ、本が好きだ、という心情を知る故か、描かれる姿はとても愛おしい。すべては30年以上前の物語。電子図書で騒がしい昨今、「本」の魅力を改めて感じるのに最適の一冊。

  • いや~、素敵な本に出会いました。

    触れるのもドキドキするような、布張りの手触りのよい装幀に、まずほっと心がなごむ。
    中を開けば、街の片隅のちょっとした風景が、穏やかな筆致で季節感たっぷりにつづられ、かと思うと、時折ぷっと吹き出したくなるような面白い話が、軽快に語られる。
    気取りがなく気負いもなく、でもどこか品の良さを感じさせる小気味よい文章、錚々たる作家たちとの心温まる交流や、本への惜しみない愛情など、とても一介の古書店主とは思えないほどの一級の随筆ばかりだ。

    文章からあふれてやまない著者のお人柄こそが、山王書房が多くの作家たちに愛された所以なのだということが、ありありと伝わってくる名著であった。

    時々手にして読みたいかも。買おうかな。

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