さよならのあとで

  • 夏葉社 (2012年1月1日発売)
4.31
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  • 本 ・本
  • / ISBN・EAN: 9784904816042

作品紹介・あらすじ

死はなんでもないものです。私はただとなりの部屋にそっと移っただけ。-永別のかなしみをいやす、42行の言葉。

感想・レビュー・書評

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  • ヘンリー・スコット・ホランドさんの詩編ですね。
    ヘンリー・スコット・ホランドさん(1847~1918、イギリス生まれ)神学者、哲学者。
    絵は、高橋和枝さん(1971年。神奈川県生まれ)
    イラストレーター、絵本作家。
    訳は、『ある方から多大なご協力をいただきました。』と記されているだけです。

          『さよならのあとで』

         死はなんでもないものです。
             私はただ
        となりの部屋にそっと移っただけ。
           私は今でも私のまま
         あなたは今でもあなたのまま。
            私とあなたは
          かって私たちが
          そうであった関係のままで
          これからもありつづけます。
         
         私のことをこれまでどおりの
         親しい名前で呼んでください。
         あなたがいつもそうしたように
         気軽な調子で話かけて。
         あなたの声音を変えないで。

           重々しく、悲しそうな
         不自然な素振りを見せないで。
         私たち二人が面白がって笑った
         冗談話に笑って。
         人生を楽しんで。
         ほほえみを忘れないで。
         私のことを思ってください。
         私のために祈ってください。

         私の名前がこれまでどおり
       ありふれた言葉として呼ばれますように。
         私の名前が
         なんの努力もいらず自然に
         あなたの口の端にのぼりますように。

         私の名前が
         少しの暗いかげもなく
         話されますように。

         人生の意味は
         これまでと変わってはいません。
      人生はこれまでと同じ形でつづいています。
         それはすこしも途切れることなく
         これからもつづいていきます。

        私が見えなくなったからといって
        どうして私が
        忘れられてしまうことがあるでしょう。

        私はしばしばあなたを待っています。
         どこかとても近いところで。
         あの角を曲がったところで。
           すべてはよしです。

     とても、清々しい感銘を受けます♪
     宗派を越えて、受け継がれてきたレクイエムです。
     英語の原詩も巻末に添えられています。
     高橋和枝さんの、想いの込められた優しい柔らかな絵が詩編を飾ります♪
     死と向かい合う心に染みる詩編ですね(=^ェ^=)
     




  • 死はなんでもないものです。
    私はただ となりの部屋にそっと移っただけーーー

    永別を経験し、悲しみに暮れているひとに手渡したい、42行の短い詩。
    冒頭に記した詩のことばが気になって読む。

    先日祖母を亡くしたのですが、いまだ実感が得られず、どこかで祖母が生きているような気すらします。
    95歳の大往生。晩年は認知症を患い、寝たきりになり、半年ほど入院し、最期は家族に見守られ、眠るように病室で息を引き取りました。
    お医者様からも、高齢を理由に、覚悟をするように何度も促されていました。
    そのせいか、それとも私が薄情なせいか、悲しみはあまりなく、亡くなったときはホッとした安堵の思いと、人生を最期までやり遂げた祖母への畏敬の思いが入り混じっていました。
    認知症の症状なのか、それとも家族の対応がまずかったのか、家にいるときは自分の人生を悲観し、「わたしの人生なんだったんだ」「お前たちがいないときに火を付けて家もろとも燃やしてやる」「わたしが死んだら呪ってやる。覚えておけよ」などと、苛烈な言葉を毎日発し、家族や友人やデイサービスのひとを困らせていました。
    私はと言うと毎回、あ、おばあちゃん劇場始まった、と、冷静に、というか冷淡に受け止めていました。
    でも、祖母の胸の底からふつふつと湧いているであろう、さみしさや悲しさ、後悔は本物だろうと思ったので、何とかしたかったけれど、力不足でした。
    最後の方は、言葉を話すことができなくなり、顔を見ても、ただお互いに見つめ合うだけ、というときばかりだったのだけど、祖母はどんな思いで私の顔をじっと見てたんだろう、と、永遠の謎を、たぶん、私が死ぬまで持ち越すのでしょう。

    祖母が亡くなってから、仏間のライトがスイッチに触れてないのに、消えたりすると、私の母は、「もう、おばあちゃんたら!」と、言うようになり、私は、ああそうか、家族に死者が出るとこんな感じになるのか、と、思いました。

    この本の詩の冒頭、“私はただ となりの部屋にそっと移っただけ”という感覚も、実感として理解できます。
    気配はするけれど、見えない。でもそこにいる。
    科学の見解とは違うでしょうし、私も死んだら何もかもなくなると思っているけれど、生きている人は亡くなったひととの折り合いをつけ、これからも生活していかなければならないのです。

    この詩はヘンリー・スコット・ホランドさんという、1847年生まれの神学者で哲学者の方が書かれたそうです。
    訳者の名前は公表されていません。
    あとがきにかえて、では、その方が祈るように訳された、と、発行人の方が伝えてくれています。
    匿名性を保持することで、この詩が、あなたのもの、になるように願ったのかもしれません。

    生者のための死者の本です。



    私の長い、弔いの文章にお付き合いくださりありがとうございました。





    • 淳水堂さん
      5222さん

      お悔やみ申し上げます。
      5222さん

      お悔やみ申し上げます。
      2023/09/14
    • 傍らに珈琲を。さん
      お婆様、大往生でしたね
      ご冥福をお祈り申し上げます

      冒頭の詩にとても静けさを感じます。
      5552さんがあげて下さった詩の続きが気になります...
      お婆様、大往生でしたね
      ご冥福をお祈り申し上げます

      冒頭の詩にとても静けさを感じます。
      5552さんがあげて下さった詩の続きが気になります。

      私は今年の1月に父を亡くしました。
      去年の夏の大きな腰の手術が負担だったのか、秋に呼吸をするのが難しくなって、あれよあれよといった感じでした。
      「祖母はどんな思いで私の顔をじっと見てたんだろう」
      5552さんの言葉は、ある意味私の言葉でもありました。
      父が危篤で今夜にも…という時、私は自宅に居ました。
      コロナ禍で、前以て病院に登録を済ませた2名(母と弟)しか病室に入れなかったからです。
      いよいよ最後という時に、私はスマホ越しで父にお別れの言葉を伝えました。
      あの時は伝えなくちゃと必死でしたが、今は思うのです。
      父は、どんな思いで私の声を聞いていたのかなーと。
      もしかしたら、まさか自分が死ぬだなんて思っていなかったかもしれない。

      「もう、おばあちゃんたら!」これもまた、実家の、あるいは我が家の、一場面でした。
      「家族に死者が出るとこんな感じになるのか」
      これは私の思いでもありました。

      そして、私達はこれからも生きて生活してゆく。

      家族を亡くした者は皆、同じ思いを抱くんですね。
      私もこちらの本、読みたくなりました。
      2023/09/14
    • 5552さん
      土瓶さん

      ありがとうございます。
      先日といっても、もう半年くらい前なんですけどね。
      まだまだ実感しきれないでいます。


      淳水堂さん

      ご...
      土瓶さん

      ありがとうございます。
      先日といっても、もう半年くらい前なんですけどね。
      まだまだ実感しきれないでいます。


      淳水堂さん

      ご丁寧にありがとうございます。
      お言葉に祖母も喜んでいると思います。


      傍らに珈琲を。さん。

      そうですね。
      大往生でした。
      ありがとうございます。

      42行の詩を一篇だけの贅沢な本です。
      世界中で読まれているのだそうですよ。

      お父様、まだお若いだろうに、御本人も家族も辛い思いをされましたね。
      コロナ禍は、家族が最期に会う機会も奪っていったんですね。
      祖母の病院も制約があったんですが、危篤のときは制約外してもいいよとおっしゃってくれたので、総勢5人の看取りでした。
      それは幸運だったと思ってます。
      傍らに珈琲を。さんは、悔いが残るかもしれないけれど、最期に娘さんのお声を聴いて、お父様も安心したと思います。
      いつでも、娘の声は嬉しいものだと思いますから。
      ご冥福をお祈りします。

      私は、近い家族を亡くすのははじめてなのですが、思っていたのと何か違いました。
      縁も存在も、もっとスパンと切れてしまうものだと思っていました。
      死者と共に生きる、と言う言葉を、ここ最近良く聞くのですが、言葉の意味が腹落ちしたような気がします。

      2023/09/15
  • ▼「冬の本」「本屋図鑑」以来の、夏葉社さんのファンです。島田潤一郎さんのエッセイも読んだので、読んでみたかった一冊。

    ▼要は英語の詩を翻訳してイラストを付けただけの本なのですが、良いです。親しい人(やペット)と死去したあとの心の癒しの大事さが、最近「グリーフケア」というコトバも出来て地位を確立した感がありますが、その代表格のような一般書でしょう。

    ▼歳を取ると「自分もいつか、親しいたれかよりも先に死ぬんだよな」という至極当たり前のことが腹の中で重さを増してきます。そういう自分の気持ちの癒しにもなりますね。

    ▼毎度、夏葉社さんの本は、とにかく「書籍」という物体としてココチヨイものばかりですね。それも素敵。

  • 詩集とは区分したけれど、
    これに収録されているのは一編の詩。
    そこにこめられた祈りを最大限届く余白に託した本だった。
    死というものがわかれだなどと思わないで、この名前をいつものように呼んでいて。
    思い出すまでもなく、日常にいることをわすれないで。
    そんな、やさしさの真実が描かれている一冊だった。

  • すごく短い詩だけど、余白も、スペースも、挿絵も、文字の配置も、紙の質感も、装丁も、全てがとっても丁寧で
    誰かを亡くした悲しみに本当にゆっくりゆっくり寄り添ってくれるような本だった。

    死は当たり前にみんなに平等にくるものだけど、それでもやっぱり人間にとって大切な存在の喪失
    はすごく大きなもので。
    その悲しみを受け止めながらも、死は特別なものじゃなくてこれからも大切な人やものは近くにいるよ、あなたの人生全てが変わるわけじゃないよ、大切に生きてね、とやさしく語りかけてもらえた気がしました。

    もっと早く出会いたかった1冊。
    夏葉社の本はどれもやさしくて大好きです。

  • 誰を失った悲しみも、慣れることはない。悲しみの形はいろいろで、麻痺することもない。
    いつだって悲しい。けれど避けることは出来ない。

    静かな本である。
    詩が一つ。
    どっしりと沁みてくる。

    まだ来ないその日を予測して怯えていても仕方がないけれど、でも、誰かを失う、その日は必ずやってくる。

    その時、心の、いつもは意識しない引き出しの奥深くに、そうだ、この詩がこの言葉がこの本があったんだ…と思い出したら、泣いたあとにきっと顔をあげられる。

    自分が生きている限り、どんな悲しみも、その悲しみと共に、また歩いていくしかないと、思うだろう。
    うつくしくひそかに、光り続ける一編の詩を胸に。

  • スーッとおちてきた感じがした、何かが。生活のそれが変わるわけじゃないけど、消えるものじゃないんだよな、なかったことに、聞かなかったことになんてできないんだよ。

    詩がとっても面白くて新年早々5冊一気に買ってしまったのは、ネガティブ・ケイパビリティ備わってる証だよな?
    詩って一般化されているから哲学に近い感じで、何言ってんのか訳わかんないんだけど、わかるんじゃなくて感じるものなんだよな、。そしてこの詩とイラストは、相関しすぎだろ...目から哀愁あるなにかがでてきてしまってたわ、出会わせてくれた本屋さんに感謝

  • ブクログスタッフさんのおすすめで知りました。

    なんて優しいんだろう。

    大切な人を失くした悲しみと絶望はどうしようもなくリアルで。
    自我を持ちながらその悲嘆を感じずにいることなんて到底できない時期があって。

    この世にはもういない愛しいあの人は、いつも一緒にいる、どこにでもいる、と今はわかるけれど
    悲しみの底に深く沈んでいる渦中にいるとき、その怒濤のような感情に寄り添い、ほんのりあたたかく、ふうわりと包んでくれるバイブレーション。

    年の初めにこんな大きな優しさに出会えたことに感謝。

    ゆうさんありがとう。



  • 大島梢絵さんが紹介していた中にあったもの。自分の体験から、こんなにその人のことを自然に名前を出して呼ぶのっておかしいかな?と思っていたことを適切だと断定してくれた1冊。このたった短くて少ない言葉の中に、哀しさを救う力を持たせているのがすごい。

  • 必要なときが訪れたら買おうと思っていた。

    9年3ヶ月もいっしょに暮らしていた文鳥を一昨日亡くし、喪失感に苛まれている中で。
    場所が少し変わっただけ。あなたとわたしは何も変わらない。悲しい思い出にしないで。
    まだしばらくは立ち直れないけど、、、目の前からいなくなっても、いっしょにいるんだよね。

    大切な何かを亡くしたすべての人に読んでほしい作品。

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