いちべついらい 田村和子さんのこと

著者 :
制作 : 武田 花 
  • 夏葉社
4.04
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本棚登録 : 106
感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904816141

感想・レビュー・書評

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  • 最近、『必要な依存』という言葉を知った。

    本書は戦後詩を代表する詩人、田村隆一の妻であり、同時に詩の雑誌『荒地』の同人であった北村太郎の恋人でもあり、人を巻き込む名人でもある田村和子さんの晩年のスケッチ風エッセイ。

    著者である橋口幸子さんは当初生活の為に田村家の二階に住み始める。すぐに和子さんに「巻き込」まれ「友人」「親愛」「絶交」と進む。でもそれが依存なのか依存されてるのか判然としないまま疲弊し、破綻していく。
    恋愛の構造にも似ていて苦しい、解決しない。

    でも生きるためにはやっぱり『必要な依存』だったのかも、、と思わされる一冊でした。

  • 生きていくことは、美しいことばかりではない。どんなに美しい言葉を紡ぐ人であっても、それは変わらない。

    醜く、情けなく、頼りない、人間の生。
    日常のなかで、それらは時に人の心を蝕み、思い悩ませるものとなる。あるいは、のちに後悔となって立ち表れることもある。

    人の生を語ろうとするとき、思い浮かぶのは、案外そういったもののほうが多いのではないだろうか。
    愛憎入り雑じった、しかし純度の高い感性がそのまま文章に込められていて、それがとても人を惹き付ける。

  • 私は不勉強なので田村隆一さんも北村太郎さんも知らないし、ねじめ正一さんの「荒地の恋」も読んでいない。田村和子さんのことももちろん知らなかった。
    知らなくても、この可愛らしくて、料理も掃除も完璧で、風変わりで、強く(じゃなかったら誰が誰かの7番目の妻になんてなれる?)、脆い和子さんと著者との友情にしてはかたくて奇妙な関係の物語は強く響いた。

  • blackbirdbooksでパラパラとみて、こりゃすごいわ……とレジに持って行ったら店主にこれすごいですよ、と言われて、そうですよね……となった。同じタイミングで買った、植本一子『こころはひとりぼっち』でこの本について言及されており、もちろん知らずに買ったので本に呼ばれていたのかと思ったりした。
    不倫とかドロドロの三角関係とかそういった言葉で語ることもできるんやろうけど、個々の事象はそれぞれにとって必然の運びやったんやなと感じた。すれっからし。

  • なんか、すごく個人的な話ではあるけど、リアルで惹き込まれる。こんな生活にも憧れる。

  • 一別以来 いちべついらい って旧海軍用語なんだ。

  • 彫刻家の父を持つ詩人の妻、その不倫相手も詩人。そして、校正の仕事をする隣人の私と夫。
    当時の空気感と一緒に和子さんのあけっぴろげでちょっとへんなひと、という感じが訥々と語られる。
    和子さんが夜中に急にオルガン弾いて大声で歌い出したりするけど、「…だから、どこからも苦情がくることはなかった。わたしたちは二階にいたわけだから、突然でいつもびっくりした」ってだけ書いてあって、あ、ほんとにびっくりしただけで受け入れてるんだな、と思って可笑しくなる。
    やがてかれらの関係は壊れてぐずぐずになり、和子さんも私も精神を病むようになる、不倫相手も猫も亡くなる、それでもそこにあるはずの愛憎や寂しさ、息苦しさはさらりとかわして、上澄みをすいすいと泳いでいくように思い出が綴られていくのが不思議と心地よい。別に潜ってもいいけど、隠してるのではなく今はただそうしないだけ、という感じが和子さんのお話なのだなと(会ったこともないけど)思う。読み終わると和子さんの輪郭が確かに心に残っていて、知り合いを亡くしたような気持ち。

  • やっぱり、こういう昔話みたいなのが読みたい。
    夏葉社の本は、本当に昔話みたいで、まぁ昔話なのだが(いや、そこまで昔ではないか)、本の世界の中に入り込んでいくのが楽しい。

    カラッとしていて、自分に厳しく気骨のある(あー読んでる最中に思い浮かんでいた形容を忘れてしまった)、そしてたまに人間らしい和子さん、いい意味で昔の人って印象かな。

    和子さんのあの感じ、なんとも可愛らしい。

    2019.1.30.

    なんだか不思議な小話。
    そっと聴きたいお話。
    ぜんぜん知らない方たちの人生を覗き見た感じ。

    嫌なところも、いいところも。

    2020.11.19.

  • ご存命の時に「荒地の恋」は書かれていたのか。ひでえな。

  • 誰ひとり、知らないのだけど(いばって言えない)、
    どことなく身近な狂気の世界。

    愚かで、獰猛で、制御不能な恋心。
    いくつになってもそれに忠実に突き動かされている登場人物たちの日常。

    実存の、しかも文化人や彼らを取り巻く人々ってのが納得だし、
    ノンフィクションというか、このエッセイのおもしろさ。


    思想家の吉本隆明が「人間は孤独でかわいそうなもんですよ」と言っていた、その本能ばっかりで動くとこうなるのかな。


    詩人・田村隆一と妻和子。和子の恋人(恋人ってなんだよ)の詩人・北村との不思議な関係。彼らのそばで長きに渡り、和子を支えた著者、橋口幸子。
    この本は、橋口幸子の筆力により、惚れっぽい和子が実にさわやかに描かれている。普通なら、カオスダークネスですぞ。

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著者プロフィール

橋口幸子(はしぐち・ゆきこ)
鹿児島生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。退社後はフリーの校正者として六十歳まで働く。著書に『珈琲とエクレアと詩人ースケッチ 北村太郎ー』(港の人・2011)。『いちべついらい 田村和子さんのこと』(夏葉社・2015)。

「2020年 『こんこん狐に誘われて 田村隆一さんのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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