移動図書館ひまわり号

著者 :
  • 夏葉社
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本棚登録 : 131
レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904816202

感想・レビュー・書評

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  • 現在私たちが当たり前のように利用している図書館。
    その礎を築いたひとたちがいたことを、ご存じだろうか。
    日野市の移動図書館「ひまわり号」から全てがスタートしたことを。
    1988年ちくま書房から刊行されたものを、2016年に夏葉社さんが復刊した実話。
    この名著を生んだ著者の前川恒夫さんは、今年の春に亡くなられている。

    1965年、日本の図書館の貸し出し数は現在の100分の1だった。
    受験生の勉強の場としての認識が強く、閲覧室は彼らで埋め尽くされていたという。
    利用者が少ないのは市民が本を読まないからだと思い、市民に本を読む習慣をつけさせるために読書運動をするか、一般の人々の利用を諦めて一部の人だけにサービスをしていた。
    利用の少なさを市民のせいにして、誰もそれを疑問にも思わなかったのだ。
    それに真っ向から反論したのが本書の著者。
    図書館がすべきことは、市民が本来持っている向上心と知識欲にこたえられる本を揃え、求めに応じて本の案内をすること。
    現在では当たり前の、図書館相互の貸し借りや予約サービスなどを始めたのも著者だった。
    これは、図書館サービスのあり様を変えようとした前川さんの、奮戦の記録である。

    イギリスの図書館で半年間研修した著者は、蔵書の豊富さと新鮮さに圧倒され、館外にまで続く利用者の長い行列に衝撃を受ける。児童室のない図書館も皆無だった。
    日本の社会と制度には図書館を育てる土壌がない。
    そう思い、一度は諦めた図書館建設だったが、日野市教育委員会に配属されたとき図書館設置を懸命に願い出る。しかし提案は受け入れられず、あえなく却下。
    辞職さえ頭に浮かぶ中で、考え続ける。
    そして企画したのが移動図書館という手段だった。。

    この先は、信じがたいほどの苦難の嵐である。
    図書費の交渉をする著者に対し「みんなをあんまり賢くしてもらうと困るんだよなぁ」という議員の言葉がある。人びとが賢くなり知識を持つことを恐れる者たちが、図書館づくりを陰から妨害する。嫉妬による嫌がらせも。
    反面、苦労を厭わず働く良いスタッフに恵まれる。
    信念を曲げない誠実な姿勢が良い人間を呼ぶのか、感動的な出会いもいくつもある。

    やがて、昭和40年9月に、一台のマイクロバスで移動図書館ひまわり号がスタート。
    たった6人の職員だが、緊張感と期待とが伝わってくる。
    無料で借りられることさえ知らない子ども。遠巻きに眺める大人。
    徐々に人々の利用が増え、バスを待ちわびる人も次第に増えていく。
    自分の仕事の意味を、利用者の笑顔が示してくれる。職員も利用者によって育てられていく。

    46年4月に児童図書館建設。
    48年4月に開館した日野市図書館は、午後からのサービスにも関わらず2900冊も貸し出したという。蔵書をほめられた時が一番嬉しかったという言葉にはついもらい泣きした。
    中央図書館が出来ても、主役は移動図書館であり続けるという。
    現場の声が一番、図書館と職員の成長に繋がるからだ。

    「本当に感謝されなければならないのは本そのものである。私たち図書館員は、人々を励まし慰め、人を作っていく本を提供する自分たちの仕事に誇りを持つべきである。
    そして図書館には、人々の知的好奇心に火をつけ、その可能性を引き出すような本を置かなければいけない」

    魯迅の言葉に「もともと地上に道はない。歩く人が多くなればそれが道になるのだ」というものがあった。その言葉のままに、ひまわり号から日本の公共図書館の道は作られていった。
    後を追うように次々に図書館が各地に建てられ、今では本好き・読書好きな人々の暮らしに欠かせない存在になっている。
    今もなお図書館を取り巻く問題はあるというが、私たちに出来ることは、図書館を利用すること。読みたい本を、リクエストしてみること。知りたいことを、聞いてみること。
    当たり前だけど、ルールは守ること。それだけが、明日の図書館を明るくするのだ。

    島田さん、素晴らしい名著でした。ありがとうございました。

    • nejidonさん
      kuma0504さん、コメントありがとうございます!
      岡山県立図書館はもう長いこと貸し出し数がトップですよね。
      最初に入ったときどこを見...
      kuma0504さん、コメントありがとうございます!
      岡山県立図書館はもう長いこと貸し出し数がトップですよね。
      最初に入ったときどこを見るかと言うと、やはり書架の充実と新鮮さです。
      きっと職員さんたちが毎朝早くから、工夫を凝らして入れ替えているのでしょう。素晴らしいですね。
      往復2時間かけても、行く価値はありますね。羨ましいことです。
      資料集めの苦労は、この本の中でも繰り返し語られています。
      よく読まれる本とは何か。長く読まれる本とは何か。先見の明が必要とされる難しい問題です。
      よく生涯学習センターの中に図書館が組み込まれている例がありますが、あれだけは戒めてますね。
      必ず独立した建物でなければならない。
      複合施設だと、お互いに邪魔しあうからだと。私もその例はいくつも知っています。
      図書館はいつも片隅に追いやられて、遠慮しながら仕事をしている司書さんたちが気の毒でした。
      図書館が退行しないようにするには、利用者がいっぱいいた方が良いのだと思います。
      kuma0504さんもぜひ読まれますように。
      2020/08/19
    • goya626さん
      感動的な本ですね。私の市の本の充実度はどうなんだろう。運営が市から民間に変わったのですが、どうなんだろうなあ。
      感動的な本ですね。私の市の本の充実度はどうなんだろう。運営が市から民間に変わったのですが、どうなんだろうなあ。
      2020/08/19
    • nejidonさん
      goya626さん、こんにちは(^^♪
      はい、とても感動的な本で何度もぐっとこみあげるものがあって困りました。
      大変な良書なので、ぜひ機...
      goya626さん、こんにちは(^^♪
      はい、とても感動的な本で何度もぐっとこみあげるものがあって困りました。
      大変な良書なので、ぜひ機会がありましたらお読みくださいな。
      ええと、都道府県別ですが、貸し出し数と蔵書数と利用者数のランキングがありますよ。
      そちらは比較的高い方だったと思います。
      運営が変わるとそこが不安ですよね。
      私はリクエストすることが多いのですが、いつもすっかり忘れた頃に届きます。
      モチベーションを今一度挙げるのが大変だったりします・笑
      2020/08/20
  • フォローしている方のレビューを読んで、図書館ヘビーユーザーの自分としては、そのありがたい存在の道のりを学ばねば…と思い図書館で借りた。
    nejidonさん、いつも自分ではたどり着けない本を教えて下さりありがとうございます。


    あまりにも当たり前に利用している公共図書館。
    しかし、私が子供の頃は、今とだいぶ違っていたのだ…
    この本を読み、過去の記憶を辿った。

    40年ほど前、地元横浜市には県立図書館しかなかった。近場にあったのは、この本でも触れられていた青少年図書館。
    母に連れられてバスで行った記憶があるが、本の解説通り残念な図書館で、子供の本は少なく、あっても魅力を感じない本、しかもボロボロだった。
    仕方なく借りてはみたものの、読む気が起こらず、返却日に返しに行った後は行くこともなかった。
    静かに本を読むより、外で走り回る方が好きだったこともあり、読みたい本は地元では有名な有隣堂で買ってもらうか(今は大分寂れてきてしまったが、昔は本好きでなくとも心ときめく本屋だった)、学校で借りるかしていた。

    それが、10年ほど経ったころ、近所に素敵な図書館ができたのだ。
    高校の図書館がこれまた、あまり魅力的でなかったために…いつ行っても生徒は私の他に一人いるかいないか…この新しい公共図書館には大いにときめいた(割と建物フェチである)。
    受験もあってあまり通えなかったが、行くと必ず読みたくなる本があり、安心感と高揚感が合わさったもので満たされた。

    そんな有難い図書館の基礎を作り上げて下さったのが、この前川さんなのだ。
    今年の4月に亡くなられたそうだが、どんなに行政側にひどいことを言われようと、一歩ずつ地道な努力を積み重ね、市民に良書を届け、その実績と信頼を得て山を動かした。
    信念を貫いた前川さんと前川さんを支えた人々に、当たり前と思っていたことを申し訳なく思う。
    少子高齢化、電子書籍など、図書館のサービスもまた変化の時期を迎えているだろうが、前川さんの精神を受け継いでいってほしい。

    余談だが、件の青少年図書館は、この本にある通り「コミュニティハウス」に変身したようだ。ググって確認した。


    最後に印象に残ったフレーズを。
    なんか今話題の学術会議の任命拒否にもつながるような気がする…。

    「みんなをあんまり賢くしてもらうと困るんだよなあ」人々が賢くなり知識を持つことを恐れてる者たちが、図書館づくりを陰から妨害する。自分の貧しい精神の枠内で人々を指導しようとする者たちが、図書館の発展を喜ばず、人々を図書館から遠ざける。152p

    • nejidonさん
      ロ二コさん、こんばんは(^^♪
      こちらこそ、レビューにして下さってありがとうございます!
      読後の感動をふりかえり、今一度ジーンとしてしま...
      ロ二コさん、こんばんは(^^♪
      こちらこそ、レビューにして下さってありがとうございます!
      読後の感動をふりかえり、今一度ジーンとしてしまいました。
      当たり前のように恩恵に被っているけど、大変な努力をした先人たちがいたんですよね。
      夏葉社さんがこれを出したというのも、何だか納得です。
      え?建物フェチだったのですか?ふふ、私もです!
      とても素敵なレビューでした!
      2020/10/13
    • ロニコさん
      nejidonさん、こんばんは^-^

      コメントありがとうございます。
      スマホで返信をと思ったら、二度もフリーズしてしまいました(na...
      nejidonさん、こんばんは^-^

      コメントありがとうございます。
      スマホで返信をと思ったら、二度もフリーズしてしまいました(naonaonao16gさんに
      PC入力を勧めていただいたのに^^;)
      PCだとどこにコメント画面があるのか、いつも迷ってしまいます(ようやくたどり着きました)

      この本はじっくり時間をかけて読みました!
      子どもの頃には魅力を感じなかった図書館が、10年ほどの間に様変わりした裏には先人方の多大な努力があったのだな…としみじみ感じました。

      20年ほど前、東京の多摩地区に住んでいたのですが、どの町にも住民が歩いて行ける場所に図書館がありました。
      さすが東京、多摩地区でもちがうな~などと思っていたのですが、前川さんのいらした日野市に近いエリアだからこそなんだな…と過去の経験を、改めて有難く思いました。

      この本に出ていた東京経済大学の図書館、行ってみたい~とググったのですが、今は改装されて多目的ホールになっているそうですね。あちらに住んでいた頃に知っていたらなぁ…。

      ちょっと読書ペースが落ちているのですが、nejidonさんや皆さんのレビューは楽しく拝読しております!
      2020/10/14
  • 日本に図書館革命を起こした、日野市立図書館館長による、奮闘の記録。

    読み応えがあった。

    貸出しが主軸である。
    利用者が求める資料や本を提供する。
    予約(リクエスト)が可能である。
    利用者のプライバシーは守る。
    図書館の職員は、司書の資格を持つ専門家である。
    市外の図書館と、蔵書の貸し借りをする。
    本には専用のブックカバーをつける。

    現在の図書館では当たり前のことは、決して最初から当たり前ではなかったのだ。

    愚民に自分たちが選んだ良書を与えるという、上から目線の発想。
    役人気質。

    さまざまな要素が足を引っ張る中、市民のために動き続ける関係者たち。
    図書館のあり方の変化が、現場の感覚と共に伝わってきた。

    有川浩の『図書館戦争』の始まりが〈日野の悪夢〉なのは、このことへのリスペクトなのかな、と思った。

  • nejidonさんの感想を読んで。

  • 読んでよかった。図書館に対する想いがすばらしい。ドラマ化の原作になるのでは?と思うほどでした。

  • 今読んでもまったく古びていない主張に驚かされる。と同時に、何年たっても同じような障壁の前で足踏みしている業界の成長のなさにあきれもする。

    すてきな装丁で生まれ変わった本書は、これからも多くの司書の指針となるだろう。

  • 2020.4
    こんなに力を尽くした人たちがいたのか。当たり前にある図書館は当たり前じゃなかった。徹底的にやるってこういうことなのか。厳しい。自分にそれだけの覚悟があるか、怖気づく。でも本を特別に想う気持ちと子どもに手渡してあげたいという気持ちは劣らないはず。さて。

  • 日野市に市民のための本当の図書館ができるまで、さらにその後の話。
    周囲の無理解と闘いながら、信念を貫く姿に熱くなる。
    図書館、本に関心のある人はもちろん、自分が身を置く世界に想いを持って臨む者、変えるべく挑む者にも、強いエールとなるだろう。

  • 日野をまわるから「ひまわり号」はいいネーミングセンスだな。

  • ”帯の言葉「1965年、図書館のなかった市に、1台の移動図書館が誕生する。本を求めている人がいるなら、どこへでも行く。若い彼らの実践が日本の図書館を大きく変えていく。本と、市民と、図書館で働く人たちの、暑い記録」

    いやはやこれはスゴイ本。図書館や本に関わる人はもちろん、公共サービスや組織内スタッフとして働く人たちにも感じるところが多数見つかるだろう一冊。

    著者・前川恒雄さんの「気骨ある誠実さ」が文章から伝わってきました。「復刊に際して」からは危機感のようなものも…。
    夏葉社 島田さんへの感謝の言葉には「自ら求めて本を読む人」が増える社会への強い願いも感じます。

    <キーフレーズ>
    ・日本の図書館は教育し与える図書館であり、イギリスの図書館は奉仕し使われる図書館であった。(p31)
    ・館長以外の人は一般に数年で他の図書館に移り、いくつかの図書館で能力を磨いてゆく。館長になると、大体は長く一つの管にとどまって、館の経営と職員の教育に専念する。(p33)
     ※昭和38?39年、イギリス研修で前川さんが見てきたこと。
    ・昭和40年3月、私はあり山から、図書館を作るために日野に行かないかと言われた。(p40)
    ★なかなか眠れないままに、今後どうすべきかをあれこれと考え、(略)朝もう一度考えなおしてみてから、確信をもって有山に相談に言った。私の結論、それは移動図書館一台だけの図書館だった。(p43)

    <きっかけ>
    夏葉社で復刻した名著。twitterでのコメントで絶賛されていたのが気になって。”

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