世界最大の気象情報会社になった日 (IDP新書 1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784905130017

感想・レビュー・書評

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  • ウェザーニューズ社の創業のきっかけ、想い、変遷など
    強みとする点や将来像など

    成功者の自慢の面も少しある
    将来のビジョンは、この時代によく思い描いてたと思うが、現在では実現していることも多く、興奮をもって書かれているのとギャップを感じる

  •  幕張にセンターがある、世界的な気象会社の初代社長が書いた本。世界的な気象会社と言われてもピンと来ないかもしれないけど、テレビを1日に見ているだけで、実にたくさんこの会社の名前を見るはず。小回りのきかない気象庁の天気予報の隙間を埋める形で、「明日幕張のスタジアムに○○ミリ以上の雨が降るかどうかを、夕方6時までに知りたい」なんてリクエストに、きちんきちんと答える会社である。(そんな情報がなぜ必要か?たとえば球場で売り歩くくビールの仕入れを考えてみてほしい)

     前半は、この会社がこんなにスケールの大きな会社になるまでの秘話のような感じ。正直言って、成功者の自慢話という感じがしないわけではないのだけど、実績と根性が備わっているから、嫌みじゃないし、読みながら知らず知らずのうちに応援してしまう。何よりも、相手の立場に立って、やるべきことは信念曲げずにびしっと進めていく姿勢が、それこそ少年ジャンプの主人公のようで魅力的である。読み応えも十分ある。

     後半は、この会社の現在と未来という感じ。東日本大震災時にも大きな働きをした会社であるので、その時のエピソードや、現在の自然エネルギーへの取り組みなども知りたかった。そういう意味では、さすがに最初に出版されてから少し時間がたっている本である。初代社長なき(2010年他界)あとの、今の若い社員による奮闘も含めて、追記がたくさんされた新版が読みたいものだ。

  • お金や地位や権力のためでなく、ロマンとファン(楽しさ)のために気象屋として一生捧げた漢の話。大変興味深く面白くて一気に読み終えた。

  • ウェザーニュースは、1986年の創業以来、「あなたの気象台」にな
    ることを目指し、一人ひとりのニーズに合ったきめ細かな気象情報
    の提供を行ってきたユニークな会社です。その創業のきっかけとな
    ったのは、著者が商社勤務時代に経験した海難事故でした。

    当時、商社で木材の回船を担当していた著者は、自分の指示で停泊
    させていた港の天候の激変により、15名の船員の命を奪う海難事故
    を起こしてしまいます。天候の激変を事前に予想できていれば、船
    員達の命を失わずに済んだかもしれない。そういう思いに取り憑か
    れた著者は、商社を辞め、米国に本部がある海洋気象情報会社に転
    じます。そこは気象情報を元に最適航路を船長達に推奨する情報提
    供&コンサルティング会社でした。

    この会社から独立する形で生まれたのがウェザーニュースです。ピ
    ンポイントな気象情報を提供することで顧客の意思決定を支援する
    ことを目指したウェザーニュースは、海洋だけでなく、陸上にも活
    躍の場を広げていきます。きめ細かな天気予報を必要とする人々は
    無尽蔵にいたのです。そのニーズに応え続けることで、ウェザーニ
    ュースは創業から10年で世界最大の気象情報会社へと成長します。

    ここに至る著者の波瀾万丈の生き様も、ウェザーニュースというロ
    マン溢れる新進企業の成長過程も、どちらもとても面白いですし、
    「How muchの前に、How wonderful」等の著者のビジネス哲学も示
    唆に富みます。しかし、最も刺激を受けたのは、気象情報を万人に
    開かれたものにしようとしてきた著者の情熱と、その根底にある著
    者のオープンでグローバルな情報観でした。

    言うまでもなく、天気予報というのは、地球の大気の状態に関する
    情報から、未来に関する情報を導き出す営みです。そこでは地球の
    息吹をどれだけリアルに感じ、予測し、可視化できるかが問われま
    す。国家に独占されていたこの営みを、著者は「民主化」しようと
    ありとあらゆる手を使って挑戦をしてきました。

    今やウェザーニュースの本社には、世界中から気象データが集まっ
    てきます。独自の気象観測レーダーからの情報はもとより、最近で
    は個人の持つ携帯電話からの情報も活用しています。つまり地球上
    の人々をもセンサーとして組み込んだ、地球観測のためのオープン
    なプラットフォームを築きあげているのです。

    地球の息吹を感じ取り、そこで得た情報を可視化・共有することを
    通じて情報民主主義を実現し、より良い社会と地球の未来をかたち
    づくる。そういう著者のビジョンは、情報インフラの進化につれて
    どんどん現実のものとなっているように見えます。

    本書はもともと1995年に書かれたものです。日本ではインターネッ
    ト元年と言われた年に、ここまで情報というものの本質と未来を見
    据えていた人がいたということに驚きを禁じ得ません。

    刺激的な一冊ですので、是非、読んでみて下さい。

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    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

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    地球環境の複雑性を多くのデータを集約して視覚化し、そして意思
    決定の基礎となる情報に変換していかねばならないのだ。
    この目的のために大いに助けとなってくれるはずのもの、それはイ
    ンターネットをはじめとする多くのメディアである。「難しいこと
    は簡単に、簡単なことは深く、深いことは面白く」といったコミュ
    ニケーションはこれら複数のメディアの特性を活かしてこと可能に
    なるからだ。

    大気の動きを監視し、地球の健康に細心の注意を払い、そのすべて
    の情報を人々に伝えることで地球環境を守る一助となることを願い
    つつ、私たち気象屋は日々働く。
    そんな私たちは、誇りを持って自らをグリーンカラーワーカーと呼
    ぶ。
    ブルーカラーワーカーやホワイトカラーワーカーがつくりあげてき
    た近代とは、その物質的・文化的成熟と引き換えに、人間と自然と
    の共生を危うくするさまざまな破壊的状況をもたらしもした。グリ
    ーンカラーワーカーは、そんな近代を乗り越えたいと考える。つま
    り、健全な経済活動を支援しつつ、従来の産業が自然との関わりに
    おいてともすれば欠いてきたものを積極的に補い、安全で幸福な未
    来を準備することを目指そうとするのである。

    気象屋は大気を、風を見つめ続けてきた。ただそれだけであるのに、
    気づいてみたら気象屋はいつのまにか高度情報社会の最前線に立っ
    ていた。そしてその地点とは、希望に満ちた21世紀を用意するため
    の大切な鍵が隠されている地点でもあったのである。

    そこ(注:商社の仕事)には、「取り引き」はあっても、何か大き
    なことに「取り組む」世界がないのである。

    その仕事はマネーゲームに過ぎてはいないか。私のしたい仕事は、
    もっと人間味のある泥臭いもの、いわばヒューマンゲームのような
    ものではないのか。

    「あなたは、自分が何を知っていて、何を知らないかを十分に知っ
    ている。そして、その自分の知らないことは、どこに行けば教えて
    もらえるかを知っている。実は、その力こそがリーダーの力なのだ」

    アメリカでは、情報の受け手側にも、受けた情報を自分なりに取捨
    選択し判断するという自己責任の姿勢が確立しているのだろう。
    政府機関は観測し、データを収集し、それをもとに一般予報サービ
    スを素早く国民に行うのがその役目である。そのデータをどう使う
    かは民間の自由であり、天気予報に官民のレベルでも競争状態が持
    ち込まれることは、予報技術の向上のためには望ましいことだ。そ
    れがアメリカの考え方だ。

    日本では情報の考え方がアメリカとだいぶ異なる。時として官は情
    報を排他的に所有しようとする。「国家は戦争という形で暴力を独
    占する」といったのはドイツの詩人で哲学者のエンツェンスベルガ
    ーだが、戦争という暴力装置を放棄した日本という国家は、情報を
    独占することで国家というシステムの安寧を保とうとでもしている
    のだろうか?

    私は思った。必要とされている情報と、入手できる情報とのギャッ
    プを私たちの力で埋めることはできないかと。そのことで、気象情
    報を必要とするすべての業界が喜ぶサービスを提供できるのではな
    いかと。
    こうして考え出されたのが、あらゆる業界に対し、365日24時間体
    制でサービスを提供する「あなたの気象台」としてのウェザーニュ
    ース社である。

    天気を稼業とする人間はボーダレスなのだ。
    天気を稼業とする人間は日本を見るときににほんを見ない。日本の
    明日の天気を見るためには、まず世界を見なければいけないからだ。
    私たちの眼は、その時、国境を知らない風の眼になっているのであ
    る。
    気象サービスというのはだから、必然的にグローバル・ネットワー
    クを夢見るのである。(…)すなわち、気象サービスには世界中に
    張りめぐらされた情報ネットワークが何よりも大切なのだ。

    マルチメディアという言葉がもてはやされる以前に、情報をグラフ
    ィックに変えた者、それが気象屋だった。雨だと傘のマークを出し、
    晴れだとおひさまマークを出した。言ってみればこれがマルチメデ
    ィアの基本的な姿である。つまり、情報を形にしたのである。

    観測とは、すなわち生のデータに向き合うことである。(…)
    情報化社会、そしてマルチメディアというときに最も重要な事柄は、
    情報の素材そのものを提供するということから始めなければならな
    いということにつきるのだ。(…)
    エディットされる前の、言葉も世界観も何もない生の映像のほうに
    こそ、ものすごい量の情報が含まれているのである。そしてそうい
    った観点こそが、情報化社会の本来のデータ処理に際して必要とさ
    れているのではないだろうか。

    私の考えはシンプルこの上ない。
    加工された情報が欲しい人には加工された情報を、素材が欲しい人
    には素材をたっぷりと。これに尽きる。

    情報民主主義の時代には、国会中継でえあれ何であれ、見せるもの
    は見せる。ただし、その時には見る側も言葉尻をとらえて揚げ足を
    取るような低俗さから脱しなければならないし、情報が示す意味を
    自分で考え、判断する力と、与えられた権利にふさわしい品格を持
    たなければ、すなわち大人にならなければ新しい時代はやっていけ
    ないのだ。それは一人一人が持つ価値観と、そのための教育の質が
    問われる時代であろう。その時には企業もまた、その責任を大きく
    担わなければならないと私は思っている。

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    ●[2]編集後記

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    10日間の海外出張から戻ったところです。ロンドン、ブリストル、
    パリ、ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ。都市部ばかり
    を訪ねる旅でした。

    今回、これらの都市を歩いていて改めて気づかされたのは、緑と水
    の持つ力でした。

    どの都市も観光地としても有名ですから、中心部はとても賑わって
    いますし、エネルギーに満ちています。しかし、若い頃は刺激的だ
    ったこれらの都市も、すっかり中年になった今の自分には、疲れを
    伴うものとして感じられました。

    そんな時、心の底から解放感と居心地の良さを感じさせてくれたの
    が、都市の中の公園や緑地、水辺空間でした。感心したのは、どこ
    の都市でも、緑や水がうまい具合に配置されていて、都市的なもの
    に疲れた時にもほっと一息つけるようになっていることでした。

    ロンドンのテムズ河岸、ニューヨークのハイライン(廃線になった
    鉄道高架を利用した公園)など、近年、注目されている再開発地区
    は緑や水を上手に取り入れた計画になっています。そこには心から
    寛いだ顔をした人々の、気持ちの良い賑わいが生まれていました。

    これからの日本では、都市部においても人口が減少し始めます。人
    口減少局面で都市の魅力や賑わいを生む鍵となるのは商業施設では
    なく、緑や水ではないか。そんなことを考えさせられた旅でした。

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