生きる力: 新潮社創業者の今も、将来にも通じる処世訓話 (広瀬ライブラリー 1)
- 広瀬書院 (2014年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
- / ISBN・EAN: 9784906701094
感想・レビュー・書評
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今の世の中でもとても役に立つ良いことが、たくさん書かれています。現代に合わせてもうすこし論理的でわかりやすく修正すればいいと思います
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願はじな世はうたたねの肱枕【ひぢまくら】左かなへば右は苦しき
作者未詳
新潮社創業者である佐藤義亮の訓話集「生きる力」復刻版を読んだ。当初は、自己啓発本の類だろうとやや軽く見ていたのだが、日中戦争前年の1936年刊行でもあり、当時の出版人の考えを探ろうと読み進めた。
読むと、意外にも、戦争や時局の話題はほとんどない。「働くことの喜び」「人生の事みな試験」「一人一業【いちごう】であれ」など、主に働き方、誠意を持った対応などが簡潔に書かれた内容だった。
佐藤は1878年(明治11年)、秋田生まれ。読書好きな少年で、進学を切望したが、経済的な事情で親は渋い顔。ならば自分で、と十代後半で上京。印刷工や校正係をしながら、夜間部の大学に通い、その後ようやく出版業を始めたという。
掲出歌は、「他所の花を羨むな」の章に引用された歌である。世の中は思うようにいくものではなく、左枕が解放された瞬間、右枕の方に負担がかかる。けれども、それを念頭に、他人と比べず日々真剣に働くのが良い、というアドバイスである。
また、その真剣な働きには「休息」が必要とも述べている。休息を、炊飯後の蒸らす時間にたとえ、「働く前と後の間に挟まって、重要な役目をする『蒸す時間』」と名付けているのもユニークだ。
ほか、「人生五十」とは50歳から本当の仕事ができるという意味で、それまでの年月は「基礎工事」であるという見解も奥深い。謙虚で、分【ぶ】をわきまえた働き方こそ「生きる力」につながるのだろう。
(2015年2月1日掲載)