「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。

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  • タバブックス
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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907053260

作品紹介・あらすじ

性暴力被害、痴漢犯罪、年齢差別、ジェンダー格差、女性蔑視CM、#metoo...多くの人がフタをする問題を取材し、発信し、声をあげ続けるライター・小川たまか初の著書。2016年から2018年に起きた、性犯罪やそれにまつわる世論、性犯罪刑法改正、ジェンダー炎上案件などを取り上げ、発信してきた記録です。

感想・レビュー・書評

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  • セクハラに遭った。
    人によってはそれは全然セクハラではないし、笑い飛ばせる人もいるのだろう。
    たった一瞬、偶然エレベーターに乗り合わせた一瞬だった。
    その一瞬、わたしは不躾なことを言われ、ものすごく混乱した。
    その後に、怒りと悲しみと、自責に襲われた。

    上司(男性)は力になってくれようとした。
    でもわたしは、自分が話をしたあとの上司の言葉や反応が怖くなって、結局「大丈夫です」と言って、詳細は話さなかった。
    その後上司からはなんの反応もなかった。
    それもそれでショックだった。
    結局、わたしはどうしてほしかったのだ。
    話を聴くと言われたら拒否するし、上司はわたしの言葉をそのまま受け取ってそれ以上踏み込まなかった。(面倒なことにしたくないからそうしたのかもしれないけれど)
    結局どうなってももやもやするだろう。だから何もしなかったのだ。信頼できる人、笑わずに話を聞いてくれそうな人にだけ気持ちを吐き出した。それはそれで後悔はしていないのだけれど。

    ちょっと上の階に行くだけなのにエレベーターを使ったわたしが悪かったのか、不愉快なことを言われて、うまく受け流せなかったわたしが悪かったのか。
    いや、わたしは悪くないんだけど、それは分かっているのだけれど。不愉快なことを突然エレベーターのなかで言ってきたおじさん、いや、くそじじいが悪いのは分かってはいるんだけど、でも。
    こちらが悪いと思わされてしまうのが、セクハラや性被害。もちろんパワハラもしかりである。

    日常の中で少しずつその出来事のことを思い出さなくなっても、くそじじいに出くわせば一気に思い出すし、例えば家で一人でいる時とか、同じエレベーターに乗った時に、じっとりと思い出す。
    ずっと鉛のように心の中に沈んでいるのだ。

    フリーのライターをされている小川たまかさん。(最新情報じゃなかったらすみません)
    性暴力被害当事者の取材をメインにされている。この作品は、2016年~2018年の2年とちょっとのブログの内容を大幅に加筆修正したものだ。最後には、性被害をメディアの前で訴えた伊藤詩織さんとの関わりも描かれている。

    そんなに長くない作品ではあるけれど、読むのにものすごいエネルギーを使う。理不尽への怒りと悲しみ。しかしその理不尽は自らが引き起こしたのではないかと思わされてしまう性被害の構造。読みながら気持ちがぐらぐら揺れ、自分がされたこと、言われたことがどんどん頭の中に浮かんだまま消えないどころかそれに支配されていく。

    決して心地のいい読書の時間ではなかった。決して全てを理解できたわけではない。わたしの想像力が及ばない描写だってあった。
    例えば、電車で痴漢に遭った時、わたしも痴漢に遭う前は「声を出せ」と言われてきたし、そう思ってきた。ある日友人が「でもあれって声なんて出ないよね」と話しているのを聴いて「そういうものか」と思っていた。そしていざ自分が同じ状況に陥った時、混乱して声が出なかったのである。
    結局何が言いたいのかというと、わたしは自分が同じ状況にならないと、きちんと理解できないということだ。かといって、ここに描かれていることを進んで経験していくわけにはいかない。
    だから、ここに描かれている、必死の思いで話をしてくれた方や、小川さんご自身の経験のことを思って、少しずつでいいから、自分の想像力の幅を広げていきたいと思った。安易な想像で、安易な言葉で、安易な態度で相手を傷つけないように。わたしのことを信頼して話してくれた人を、余計に傷つけないために。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      naonaonao16gさん
      > 完全にぶった斬るわけにも
      ですよね、、、溜息しか出ない。

      プリントして、お偉いさんの机上にデーン...
      naonaonao16gさん
      > 完全にぶった斬るわけにも
      ですよね、、、溜息しか出ない。

      プリントして、お偉いさんの机上にデーンと。。。

      セクシュアルハラスメント対策に取り組む事業主の方へ |厚生労働省
      https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000088194.html

      孤立無援にならぬよう、信頼出来る方を味方につけてください。
      2022/07/05
    • naonaonao16gさん
      にゃんこさん

      ありがとうございます。
      優しいお言葉に甘えていろいろぶちまけてしまいました…
      うっすらと泣けてきます爆

      味方を増やしていき...
      にゃんこさん

      ありがとうございます。
      優しいお言葉に甘えていろいろぶちまけてしまいました…
      うっすらと泣けてきます爆

      味方を増やしていきます…!
      2022/07/05
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      naonaonao16gさん
      にゃー
      naonaonao16gさん
      にゃー
      2022/07/06
  • 私のフェミはここから―小川たまか×西口想トークイベント | Peatix
    https://horipub190720.peatix.com/view

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    性暴力被害、痴漢犯罪、年齢差別、ジェンダー格差、女性蔑視CM、#metoo...多くの人がフタをする問題を取材し、発信し、声をあげ続けるライター・小川たまか初の著書。2016年から2018年に起きた、性犯罪やそれにまつわる世論、性犯罪刑法改正、ジェンダー炎上案件などを取り上げ、発信してきた記録です。
    「今の日本の学校ではセックスに関する教育は行われていない。受精した後の体の仕組みを教えても、セックスが何なのかを教えない。(略)でも性犯罪に関する法律では『13 歳以上であればセックスが何なのかわかるし自分で判断できる』ことになっている。これ矛盾じゃないの?」
    「不公平を指摘すると『面倒くさいヤツ』認定される。散々ひどい目に遭わされて、絞り出した声を『そんな言い方じゃ、誰も味方にならないよ』と言われる。そんなことが、これまで何度繰り返されてきたのだろう」
    (本文より)
    http://tababooks.com/books/hotondonaikoto

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      健康診断中に児童を…麻酔中の患者を… 医師による相次ぐ盗撮事件と、その判決(小川たまか) - 個人 - Yahoo!ニュース
      https:/...
      健康診断中に児童を…麻酔中の患者を… 医師による相次ぐ盗撮事件と、その判決(小川たまか) - 個人 - Yahoo!ニュース
      https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/20221208-00327343
      2022/12/08
  • リコメンドから特に意識せずに手に取った本書。読んでから性暴力とか性被害について、考えないようにしていた自分に気がついた。作者の言うように、その方が楽だし、生きやすいから。でも、痴漢被害も含めると、性被害にあったことない女性なんて少ないのではないだろうか。少なくとも首都圏で満員電車に乗って学校に通っていたことのある女性は。私はそれを「よくあること」として処理して被害を受けたと考えないようにしていた。声に出している人たちを遠くから見ていた。それが加害者にとって1番都合の良いことだと気がつかずに。

    思えば、20代の頃は男尊女卑と叫んでいる人たちをカッコ悪いと思っていた。もっと言えば、彼女たちをヒステリックなおばさんだと思っていた。自分は社会に入りたてでおじさん達から可愛がられていたから。チヤホヤされることを尊重されていると感じていた。今考えると恥ずかしい。おじさんたちは私たちをちっとも尊重などしてなかった。対等になど見ていなかった。

    声を上げなくてはならない。少なくとも声をあげる人を貶めてはならない。
    そう言うことに気づかされた良書。

  • 著者が性暴力を取材する記者だということはふわりと知っていたので、表紙をめくるときに「これから重い話と向き合うのか...」と一瞬気分が落ち込んだけど、実際には身近なテーマから話が徐々に進行していくので、すっと引き込まれた。読んで良かった。

    どの話題も思うところは色々あったけど、一番衝撃だったのは性犯罪刑法の性交同意年齢13歳の話。13歳からは性交同意の判断がつくはずという前提のもと、「暴行又は脅迫を用いて」わいせつな行為をしたことが立証されない限り有罪にならない。

    「人を殺す気はなかったけど殺してしまったら「過失致死」になるのに、人を犯しても無神経だったことを立証できれば「無罪」」

    「殺されるかもしれないと感じたとしても」「相手に伝わる形で必死に抵抗しなければならない。」「抵抗を裁判で立証できなければ」性犯罪にならない。

    ひどい話だ。先日も抵抗した女性が殺害されたニュースを見たばかり。絶望感がある。

    クラウドファンディングも動いていみたい。もう募集は終了してしまっているけど、応援したい。
    https://camp-fire.jp/projects/view/266189

  • 私は30代の男性だが、女性が日々どのようなプレッシャーに晒されて生きているのか、どんな性犯罪に日常的に直面しているのか、加害者がどんな心理状態なのか、少しも理解していなかったことが分かった。

    エッセイ調なので、どこにどんな話題が書いてある、というよりも、本書全体を通して空気感/境遇を伝えてくれる。

  • 様々な立場の人が読み、「ほとんどない」とされてきたことを知ることで、ほんの少しでも社会が良くなって欲しいと思う。
    ただ、最も知ってほしい、加害者側に近い精神を持った男性がまずこの本を手に取らないであろうことが残念でならない。タイムマシンで時代を改変するチャンスがあったとしても、石器時代にさかのぼらない限り、いやそこまで戻っても、弱い立場の女性に対する性暴力被害をゼロにするのは困難と感じる。
    弱い立場の人に優しく。みたいなフワッとした綺麗事ではなく、加害者を増やさないための具体的な取り組みが必要。幼少期からの教育と、被害者をださないために危険人物の監視、取締り強化。さらに女性を守るためにできることは何でもやって欲しい。それこそ駅に女性専用ホームを設け、まるごと女性しか乗車できない車両を用意するぐらいしたほうが良いと思う。それでも、職場や学校での危険は無くならない。ホントこの国に絶望してしまう。

  • 「ほとんどない」ことにされている側の気持ちがわかるには、その前に、"こっち側"を認識するには、現実を経験したことがないとわからない。

    たとえば、ストーカー。されたことがないと、される人の気持ちなんて想像できないのかもしれない。してる側も、ストーカーをされたことがない同じ性別の人も。

    …でも、そんなの酷いよ。もっと、みんな想像力を働かせてほしい。"こっち側"の気持ちを想像してほしい。これは、女性とか男性とかジェンダーに関わることだけじゃない。もっと、社会から「見ようとしないと見えてない」存在がいる。もっとちゃんと見てよと思う。


    この本の中に社会的に良くない例として出てくる方々は、考え方が古すぎる気がした。私のまわりには、ここまで酷い考え方をする人(していたとしても、実際に言葉に出したり、態度に露骨に出す人)はありがたいことにあんまりいない。古すぎ。そして、想像力なさすぎ。

  • 男尊女卑やら性被害やらのニュースに目は行くが、腹が立ちすぎるので直視できないことが往々にしてある。
    この本はその「腹が立つ」ことについてしか書いていない。読んでいてイライラする。なんだこのクソみたいな社会は。いい加減にしろ。そんな感じ。
    被害者の視点が強調されているが、これは元々そういうコンセプトだとタイトルで明示されている。というか、フェミニズムは元来、The personal is political.なのだから、正統派の本と言っても良いのでは。笑
    様々な視点から見たい人は、気になった事件について自分で調べるといいんじゃないですかね。

    これは本自体の感想から外れるが、
    リベラルっぽい私のパートナー(シスへテロ男性)にフェミニズムめいた話をすると、嫌な顔をされる。「そんな七面倒くさい議論するのやめよ~」とか言われるのは、本当に腹が立つ。面倒くさい議論させてるのはお前ら男だよ。面倒だと思ってるならさっさと社会改革しようぜ。
    リベラル寄りで割といろんな視点を持っているはずのうちのパートナーがこの調子なのだから、社会全体が変わるにはどれだけかかるのだろうか。気が遠くなる。

    あまり文章?文体?が好きではないので、☆を減らした。何が合わないのか分からないが・・・。嫌にふわふわしている。

  • 社会への問題提起。
    実際に起きているけれど多くの人が関わりたくない、無かったことになりかける現実社会。
    センシティブな内容も多いけれど、リアルでもある。
    綺麗な社会しか見えないことにするのでなく、せめて知るだけでも何かが変わるかもしれない。
    無かったことにしてきた、されてきたことこそ変わらなければならないのかもしれない。

  • 読みながら、度々怒りで震えた。
    今までも度々見聞きしてきたことではあるが。
    先日娘をレイプしていた父親に無罪判決が出たばっかりだし、本当に世の中変わらない。
    痴漢されたと言えば、お前みたいなブスが(あるいはババアが)されるわけねえだろ。恐ろしくて抵抗できなかったのに、抵抗しなかったのは合意してたからだろ、とかさ。
    警察に訴えるとき、女性あるいは若者の場合、歳上の男性と行った方が話をきいてもらえる、とかさ。人権問題だと思う。
    女性が声を上げるだけで叩かれる日本で、著書のような活動を続けるだけでも大変なことだと思う。
    とりあえず、若い人(中高生くらいから)に男女問わずこういう本を読んで欲しい。頭が柔らかいうちでないと入らないから。
    政治家の発言(失言と捉えられているが、本人は思っていることを言っただけ)でもわかるけど、老人の考えを変えさせるのは難しい。日本の問題は老人が多く、権力を握っているのも老人(ほとんど男の老人)だってこと。少子化は国力を下げるだけでなく、進歩や柔軟性を失う。
    まあ、このままでは先進国とは言えないよ。お粗末すぎて。
    教師や保育士が過去に性犯罪を犯していないか徹底的に調べた方がいいのはもちろんだけど、そもそも先生と子どもを二人きりにさせないことが大事。いつも別の先生が近くで見ているだけで防ぐことができる。教育現場に、特に保育の現場に人が足りないことが犯罪の温床となることを、政治家はわかっているのか。政治家がまず読め。
    考えると暗くなるが、とりあえず若い人にすすめてみたい。
    著書には、心無いバッシングをする人があるとは思うけど、この活動を続けていただきたいです。

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著者プロフィール

1980年東京生まれ。大学院卒業後、2008年に共同経営者と編集プロダクションを起ち上げ取締役を務めたのち、2018年からフリーライターに。Yahoo!ニュース個人「小川たまかのたまたま生きてる」などで、性暴力に関する問題を取材・執筆。著書に『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)、共著に『わたしは黙らない――性暴力をなくす30の視点』(合同出版)。

「2022年 『告発と呼ばれるものの周辺で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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