失われた賃金を求めて

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感想 : 12
  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907053475

作品紹介・あらすじ

「女性がもっと受け取れるはずだった賃金の金額を求めよ」
『私たちにはことばが必要だ』で鮮烈な印象を与えたイ・ミンギョン、次は男女の賃金格差に斬り込んだ!男女賃金格差がOECD加盟国中「不動のワースト1位」の韓国の社会事情は、「不動のワースト2位」の日本でも共感必至。賃金差別は存在する!
解説:西口想「日本で、女性がもっと受け取れるはずだった賃金の金額を求めよ」

感想・レビュー・書評

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  •  友人のレコメンドで読んでみた。いわゆるフェミニズム関連の書籍を読んだことがなく、今回初めて読んでみて知らないことが多く勉強になった。と同時に自分が既得権側なので責め立てられているような気持ちになり終盤しんどい部分もあった。「テメエのしんどいレベルじゃないレベルで、女性は虐げられているのだ」と言われればそれまでなんだけども…
     著者は韓国の方で本著で取り扱っている話も韓国の女性差別の状況について解説されている。しかし、あとがきにもあるように日本と韓国はほぼ同じ状況なので既視感のあることばかり。テーマはズバリ賃金で「韓国でもっと女性が受け取れるはずだった賃金の金額を求めよ」をベースに据えて色んな切り口でいかに女性の賃金が男性に比べて失われているか?データ、文献を駆使して想定される男性側からの反論を1つ1つ論破していく。前述のとおりしんどい気持ちになるのは「男の考えは間違っている」という話の連続だから。自分自身が女性差別的ではないと思っていても、心の中に巣食っている無意識の差別意識をグリグリほじくり返されている感じがした。つまり「それは思い込みなのでは?」とか「被害妄想なのでは?」と思ってしまう瞬間があったということ。実際、本著の中でも男性の無意識のバイアスにまつわる実験結果も紹介されており、相当気にしていないと自分がセクシズムな振る舞いを取りかねないなと思う。そもそも歴史的に男性偏重社会が続いてきたので、どこかで相当程度思い切り舵をふらないと本当の意味での平等を達成し、性差別が無くなることはないと痛感した。
     また生きていく上で必須である家事を含むケア労働を女性が負担することへの対価について、社会全体が安く見積もり過ぎているという話はまさしくその通りだと思う。つまり制度だけ変更したとしても解決するのは表面上のことだけで、やはり男性を含む社会全体で共通の課題だと認識しないと前に進まない。今もたくさんの女性が何かをあきらめているかもしれないけれど、その瞬間を減らしていく、ゼロにしていくことをあきらめないために少しでも自分の意識を更新することに気をつけたい。最後に特にグサっときたことを引用しておく。

    特定のポジションをめざした女性がせざるをえなかった努力、身につけざるをえなかった能力は、女性でなくても必要だったろうか?それだけの力量やガッツのある女性がセクシズムに対抗するためにエネルギーをさかなくてすんだら、他になにか別なこと、あるいはもっと多くのことを実現できなかっただろうか?そして、そのポジションにつく女性の数はどれほど多かっただろうか?

    進入路が遮断されているのを見てそれ以上進むのをあきらめた女性の決断を、完璧に個人の選択だとする態度には相当な欺瞞がある。

  • ・差別は、「女性だってできる」を誰かが証明したときでなく、そのことばが「男性だってできる」に言い換えた時と同じくらい変に聞こえるようになった時に、初めて姿を消す。

    ・「管理職は男性ばかり=さしたる理由もなく男性に重責が任されるようになっている」ことの例
    15人くらい(男は1人)で作業中、来賓が来ることになり来賓を迎える役(=最も目立つ栄誉ある管理者的役目)は流れで当然のように男性になった。筆者も全くそれをおかしいと思わなかった。彼にその適性があるのか、その根拠はなにか、誰も何も尋ねなかった。あまりに当然のように序列が決まった。もちろん、女性の誰かがやろうと思えばできただろうが、男性がすぐに立ち上がったときにくらべ多少の不自然さがうまれただろう。

    ・女性は、男性よりも大きな成功をおさめないと同じ職級にいけない。(学校の先生、女性の方が多いのに校長になると、あれ?)
    管理職は男性ばかり。「なんとなく男はこのくらいの待遇にしておくべき」という心理、男だけじゃなく女にもある。こうした固定観念は、自分の意思を超えてもっと強く作用する。

    ・女性が多い職種は低賃金が多い。この問題を論ずる時、1人の女性がその職業を選ぶ際に社会的プレッシャーが大きく作用したのか、自ら選択したのかを判断することはそれほど重要ではないし、そもそも不可能。重要なのは選択肢が様々な限定されている現状。


    ・「ガラスの天井」とは、女性の昇進を阻む障害物がガラスのように透明で、あたかも存在しないかのように見えないかたちでおかれているという意味。
    「割れば壊れる障害物」という意味ではない。


    ・「男は家長だから女性より多くの賃金を与えるべき」という考え方。「家長だから」であるならば逆に同一賃金にしなければならない。シングル家庭が沢山ある今日。

  • 男女の賃金格差を通して社会や企業。制度に隠れている女性差別、ジェンダー問題を浮かび上がらせる。就職活動している大学生には特に読んでほしい。

  • 自分の中で蓋をしていた記憶、なんとなく女性だから諦めた憧れの職業、その「なんとなく」をもう一度掘り起こして自分がいるべきだった場所、得られるはずだった賃金、名誉について考えられた。
    本当に読んで良かったと思う一冊。

  • “この「それでも」の威力を、女性があじわう「とはいえ」とくらべると違いは歴然だ。男性なら多少能力が低くても、かなりの欠点がない限り、「それでも」人柄は悪くないから、みたいな理由で数多くの関門をパスすることができる。他方女性はかなりの欠点どころか十分有能だったとしても、「とはいえ」気が強い、とかいう理由で足止めを食らう。私たちはそんな場面をさんざん経験してきた。とはいえ性格がイマイチだ。それでもイケメンだから。とはいえ家事が苦手だ。それでも売春はしないから。とはいえ面倒くさい性格だ。それでも仕事は有能だから。とはいえ気が強すぎる。それでも背が高いから。”(p.35)

  • 『失われた賃金を求めて』
    (イ・ミンギョン著 小山内園子・すんみ訳)タバブックス
    http://tababooks.com/books/ushinawaretachingin

    ▼自ら人生を選ぶことができるという自由とは、お金に換算できない価値なのだが、そのことはさておき、セクシズムがなくなるとしたら、現在の職種と新しく選ぶ職種で、女性がどんな待遇を受け、可能性を与えてもらえるのかについて、考えをめぐらせてみることに意義がある。そのことで私たちは、今の女性たちがどのような可能性を奪われたまま暮らしているのかをより実感することができる。そしてこの際に奪われた可能性とは、生きている女性にかぎられる話ではない。(pp.186-187)

    https://youtu.be/YwnDPCHvnSY

    目次
    はじめに 
    1. 昇進 止まっているエスカレーター
    2. 考課 「ふりだしに戻る」と「3つ前へ」
    3. 同一職級 傾いた床 
    4. 与えられた条件 ハイヒールと砂袋
    5. 雇用安定性 消えていく女性たち
    6. 就職 
    7. 進路選択 
    8. 達成度評価 
    9. 資源 
    終わり−あるいははじまり
    解説 日本で、女性がもっと受け取れるはずだった賃金の金額を求めよ  西口想

    ▼ガラスの天井とは、女性の昇進を阻む障害物がガラスのように透明で、あたかも存在しないかのように見えないかたちでおかれているという意味からきたものであり、割れば壊れる障害物、という意味ではない。(pp.20-21)

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    『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』と同じイ・ミンギョンの本。OECDのGender wage gap(賃金格差)で、ワースト1位が韓国、ワースト2位が日本という並びは、1980年代から変わらない(https://data.oecd.org/earnwage/gender-wage-gap.htm)。2つの国には、似ていないところもたくさんあるのだろうが、こと賃金格差に関しては、じつに似ていると思う。

    『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』
    (イ・ミンギョン著 すんみ・小山内園子訳)タバブックス
    http://tababooks.com/books/watashitachi

  • 対岸の火事ではない。これは、日本に暮らすわたしたちの話でもある。女性たちの置かれている状況が細やかに丁寧に書かれていて、反論しようがない。
    わたしたち、こんな不自由な暮らしを強いられているの?そうだよ、知らなかった?

    『つまり、性差別的な認識は正当な要求を受けつけないだけでなく、給与をもぎとるチャンスを女性自身に手放させる結果をも芋づる式に生み出すのだ。結局、女性の平均給与は低くなり、その傾向はさらに再生産される。女性労働者は、自分の受け取るべき給与の正当な額にあたりをつけようと、他の女性の平均給与を参考にするからである。このように、女性は低い賃金を、男性は高い賃金を当然受け取るべきだとする社会の文法から抜け出すのは、けっして簡単なことではない。』(p.80 「3 同一職級」)

    ここを読んでようやくクォーター制の必要性が腑に落ちた。
    再生産され続けてきた「不公平」「差別」を一度取っ払うためには自助に任せていては進まない。虐げられてきた側が同じ土俵に上がれるだけの手助けをしてようやくスタートできる。再生産から一歩抜け出すチャンスが得られる。
    クォーター制を導入しても、優秀な男性は席を失うことはないのだから心配いらない。優秀でない男性が席を失うだけのことだから。

    『働く女性。この言葉からすぐに連想されるべきイメージは、スケジュール帳を3冊用意し…』(p.113 「4 与えられた条件 ハイヒールと砂袋」)で本筋とはズレるけれど、どうして雑誌やTVでは手帳を3冊用意するような女性ばかりをできるワーママ、あるべきワーママの姿のように取り上げられるのだろうとうんざりした。メディアなら、そんなのおかしくないですか?って疑問を投げかけて欲しい。

    男性は家長として家族を扶養する可能性があるからと独身のうちから優遇される、シングルマザーは優遇されないのに。むしろ冷遇されるのに。というところで、もういっそ婚姻制度なんて無くしてしまえと思った。そうしたら性別に関わらず一人一人に正当な対価が必要になるでしょうに。

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著者プロフィール

延世大学校仏語仏文学科、社会学科を卒業後、韓国外国語大学校通訳翻訳大学院韓仏科で国際会議通訳専攻修士、延世大学校大学院文化人類学科修士課程で文化人類学修士を取得。2016年に起きた江南駅殺人事件をきっかけに『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』を発表。女性が女性であるという理由で人生をあきらめなくてもすむ瞬間のため、ことばを書き訳している。最近はテキストを媒介にして女性たちが出会える場を作ることに力を注いでいる。主な著作に『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』『脱コルセット:到来した想像』、共著に『笛を吹く女たち』『ヨーロッパ堕胎旅行』、訳書に『대리모 같은 소리(原題訳:代理出産、人権侵害)』『임신중지(原題訳:幸せな中絶)』『나, 시몬 베유(原題訳:ある人生)』などがある。現在、女性の人生で手にすることのできるまた別の可能性を模索中である。

「2021年 『失われた賃金を求めて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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