吉田知子選集II 日常的隣人

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  • 景文館書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907105013

作品紹介・あらすじ

作家・吉田知子の小説選集第2弾。

つる子の隣に越してきた若い男は庭に境を作りたがった。

「ぼくは理想的な隣人と言えますね。大丈夫ですよ、心配しなくても」

男の赤く光った唇を見ると腹がたってきた。
あんな男に垣根を作らせてなるものか、だって私の家の垣根なんですから…。

垣根をめぐる女と男の人間関係をユーモラスに描いた「日常的隣人」など、連作・日常的シリーズほか、純文学作品「人蕈」を収録。
怖くて楽しい全11作の短篇集。

巻末には収録作品を題材にした問題、「日常的隣人への四題」を収録。

「日常的隣人を読んで、以下の問いに答えてたぼれ」(出題・町田康)

感想・レビュー・書評

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  • とても面白かった。今回は短編のほとんどで会話が可笑しくて笑ってしまうところが多く、笑っているうちに読み終えた。けれど、常の無駄のない文体と独特のテンポの良さは変わらず。特に良かったのは、老夫婦の日常があれよあれよという間にとんでもないことになるけれど、でも…という「日常的夫婦」ブラックユーモア満載の「日常的美青年」のっけから面白すぎる会話が続いて、結果丸ごとおかしい「日常的患者」。選集は3で止めずにぜひ4、5と続けて出してほしい。それが無理なら個人的な好みで単行本の「お供え」をぜひ再版してほしい。「お供え」が他のアンソロジーによく取り上げられるのは、文章の無駄のなさや洗練度が際立っているからだと思うが、収録作の「祇樹院」(あっという間に状況が暗転する様子が胸苦しくなるように描かれて、結末も呻いてしまうくらいゾッとする)や「うしとら」(←漢字変換できない、昔聞いた地獄の一番つらい所をそのまま再現したような話)など、好きすぎる短編ばかりなので。

  • こんなすごいものが、私がまだちっちゃな子どもだったころに書かれていたなんてなあ。知らなきゃ知らないままだったなんて、ほんともったいない。よかった、今、新刊で出てくれて。ひとつひとつ読み終わるたびに、唸ってしまう。世界は広い。
    たぶん、新しいものをはやく知ってることも必要なんだと、仕事柄思うけれども、売るほうも買うほうも、作品を掘り起こす、知らないものを探す、みたいなことを、もっと大事にしないと、なんか先細る気がするなあ。

  • 自分用の備忘録
    日常的母娘
     似ても似つかない母娘
    日常的夫婦
     貧乏な夫婦、一人息子は麻薬の密売の関係で謎の死を遂げる。息子と一緒に住んでいたという女性が家を尋ねに来て「白い粉」と「麻薬覚醒剤法令集」の入ったリュックを預けていく。その後訪ねてきた民生委員の岸田を殺害、始末したあと、妻は自分と夫に「白い粉」の入った食事を用意し、楽しく死が迫るのを待つ。
    日常的嫁舅
     早くに妻を亡くし、人に愛されることのない男。一人息子は皆に愛されたが、金も遺産もやらないと自らその存在を遠ざけていた。ある時息子夫婦を自宅へ呼びつけ虐げることを思いついたが、そのうちに嫁の言葉が通じなくなる。
    日常的二号
     歳上の金持ちの夫が他界した後、自分を2号にしてくれる旦那を探すためスナックに勤務。二号としての人生しか知らない母に育てられ、自らも二号の人生を求める。「二号らしい妻」「二号らしい旦那」を演じ演じさせることに手を尽くしたが、その旦那にその器量はなかった。
    日常的親友
     父母は既に他界、弟夫婦とは疎遠、唯一の親友サッちゃんはカナダで余命2,3ヶ月という手紙が届いた。サッちゃんを失ってしまったら余生をどう生きればいいのか。喜怒哀楽が乱れていく。
    日常的レズ
     三十未婚だが特に結婚するつもりもない。母は仲人めいたことは嫌いだが机の上に男の写真を置きそれとなく縁談をすすめる。写真の中の彼の黒い毛は桂に似ている… 参加している文学的集まり(?)「シジフォスの会」で知り合った桂とのレズビアン的展開を旅先に期待しているのか、はたまた恐れているのか。
    日常的隣人
     貧しくも身の丈に合う生活を送るつる子の隣人は酒癖女癖の悪いうるさい男と幼い子供2人、物静かで美人な妻だった。男が死ぬと妻子は出て行き、妻が雇った不動産屋が家を売って出ていけと取り立てに来るようになる。その後に志田という26の男が隣に借りて住み着くようになるが…暮らしを守るための戦いはまだ続きそうだ。
    日常的先生
     「先生」という敬称の呪縛。
    日常的美青年
     子供のいない金持ちの中年人妻が、1ヶ月しか通わなかったヨガの教室で知り合った28,9の男と再会。男は白く美しかったが、夫がいることも構わず、妻に自分と結婚してほしいと迫る。友人は男のことを好いていなかったが、夫には随分前から“愛人”のような存在もおり、愛人との間に子供もいて、離婚したらよろしくするから別れるのは全く都合がいいらしい。いざ別れて男と結婚すると、その存在すら聞かされていなかった男の姉と子供も同居することになり、奇妙な結婚生活が始まる。男は金と、家が必要だったのか。姉の子供は、誰との子供なのかは、聞けないままだ。
    日常的患者
     病気が好きな夫の血筋。ありとあらゆる病気になる。病気は、その者の意思で、なりたいものになるのだ。
    人蕈(ひとたけ)
     生まれつき膝から下がない。生活に不便を感じたことはないが、両親は人と違う、普通ではないことを極端に恥じていた。離れに閉じ込められ、半ば監禁生活を送っていたが、父親の死後も離れに1人で暮らした。自分だけのとっておきの場所は、木の麓にある穴。穴へと還る。

  • 脳が置いてけぼりくらっちゃったからまともな感想は書けない。これが日常なのか、そうなのか。みんな無頓着に自分の垣根をつくり他人の垣根を壊す。無頓着な悪意が平然とまかり通る。さっぱりと定着してはいひひと笑う。なんやかんや計算高く冷ややかに前向きだったりする。利害関係以外に軋轢も生じない。個々に企むばかり。気い狂うても企みはズレない。絶品に気色悪くて面白かった。ついてけないけど。吉田知子こわい。

  • 読むのが恐い、、、

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    「芥川賞作家・吉田知子の作品集第2弾。

    つる子の隣に引越してきた年下の男は庭に境を作りたがった。あんな男に垣根を作らせてなるものか、だって私の家の垣根なんだから……。垣根をめぐる女と男の隣人関係をユーモラスに描く「日常的隣人」ほか、作家の感性が炸裂する怖くて楽しい短編集。

    巻末には解説にかえて、町田康が考える〈作品への問い〉4問を収録。 」

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著者プロフィール

1934年生まれ。’70年「無明長夜」で芥川賞を受賞。’84年「満州は知らない」で女流文学賞、’92年「お供え」で川端康成文学賞、’99年『箱の夫』で泉鏡花文学賞、’00年、中日文化賞を受賞。他に、吉田知子選集(1)~(3)など。

「2018年 『変愛小説集 日本作家編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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