チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1

  • ゲンロン
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本棚登録 : 625
感想 : 47
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907188016

作品紹介・あらすじ

チェルノブイリ・ツアーへようこそ。

チェルノブイリの原発跡地を訪問取材した津田大介・開沼博・東浩紀が、現地関係者へのインタビューほか、論文・資料も充実しています。
長期プロジェクト「福島第一原発観光地化計画」の成果となる出版第一弾。

チェルノブイリ取材にあたって、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」を通じ、同サイト史上最高額となる6,095,001円の支援を頂きました!

感想・レビュー・書評

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  • 私達は、もっと向き合わなくてはならなかった。現地の「観光」レポートの他、ウクライナの方々へのインタビューは必読。

  • 「ダークツーリズム」という言葉には僕自身は新鮮な響き感を受けるが、考えてみるとそれは割と身近にも存在してる。
    国内で見るとそれは原爆ドームであり、県内だと海軍壕公園や残存する無数のガマ。主に戦跡だ。
    本書の第二部(取材編)で現地の観光に携わる色んな人々に共通しているのは、たとえそれが観光旅行であろうと、現地の現実を知ってもらうことを肯定的に捉えていること。それは沖縄の戦跡地でも該当する。ダークツーリズムの目的はそもそも「悲劇の継承」だ。
    そこで得た何かで社会にコミットするのが理想だけど、そこまで大げさじゃなくても、訪れた人たちの「中に何か」が残れば、それで歴史は繋がっていくのかもしれない。
    勿論その試みは負の部分も抱えているはず。それもひっくるめての歴史だという認識のもと、最後は「楽しむ」ことでしか歴史は繋がってかない。というあずまんの編集後記にしびれた。
    最大の敵は風化。そうしない最大の方法が「楽しむことかもしれない。

    なんだか抽象的になった。
    この話は福島に繋がる。沖縄に繋がってもいい。

  • チェルノブイリの立入禁止区域内やキエフのチェルノブイリ博物館の観光ツアー記に始まり、ルポやインタビュー記事、鼎談...と続く。「まだ福島は終わっていない」で終わらせないために何ができるのか。チェルノブイリの今を知る本書は福島の未来を予測、あるいは模索する大きな礎となるか。

    チェルノブイリ本でダークツーリズムについての記事を読むと、訪れたことのあるホーチミン戦争証跡博物館が、名前だけだがダークツーリズムの一箇所として挙げられていた。僕はそこを訪れた時の記憶を思い出すと共に、ダークツーリズムの一端に既に触れていたんだということに思い至る。ホーチミンで仕事していて暇が出来たから、ちょっと観光名所を調べて、なんとなく立ち寄る。そして、その観光名所の中でそんなものがあるとは知らずに唐突に悲劇の記憶と遭遇する。自ら学ぼうとする意志も、教えようとする誰かとの出会いも必要なく、それでいて強制的に学ばされる。これこそ、『悲劇と欲望の交差点』。そして、観光地として遺構や博物館があることの意義はそれだけに留まらない。「ここで起きた」、「これが悲劇の爪痕だ」という文字からは得られない圧倒的な生々しさがそれらにはある。「知っているということ」と「感じるということ」はあまりにも違う。実際にホーチミン戦争証跡博物館に展示されている物の生々しさは尋常じゃない。日本ではあれが展示されることは絶対にないだろうとすら思う。あれが何によってもらたされたのか、何故そうなったのか、考えずにはいられないだけのインパクトがある。文字から読み取れる悲劇はしょせん、知識としての悲劇でしかない。書物や映画は我々の想像力に訴えかけるかもしれない。しかし、遺構、遺物は圧倒的生々しさを持って我々に現実を突き付ける。訴えかける力の強さがあまりにも違う。そして、それがある限り忘れ去られることもない。遺構を残すことへの批判は多い。震災遺構を取り壊し、悲劇を忘れようとする気持ちは分からなくもない。しかし、生き残った者が死者にしてやれるのは、唯一、彼らを忘れないということではなかろうか。遺構を残すことはある意味では死者への最大限の弔いであり、決して不謹慎などではないと思う。忘れたい、辛いという遺族の気持ちを慮ることも大事かもしれない。心の傷が癒えるのを待つべきなのかもしれない。しかし、時が経てば経つほどに遺構は失われていく。当事者ではない外部や後世の人々に伝えるには現物の圧倒的生々しさこそが鍵になる。震災遺構を残すのは今しかない。

  • まず写真が美しい。
    東浩紀氏という、とても静か、とは言えない人物を中心に編集されていながら、全体としてひっそりとした雰囲気を醸し出しているのは、新津保氏の写真のおかげだろうか。
    雑誌風の作りになっており、確かに「ガイド」としても活用できるが、同時に「これからのフクシマ」をチェルノブイリに見る、という読み応えのある内容だった。
    観光地化される負の遺産。
    広島出身被爆三世の私は、ダークツーリズムの観光地として成功している原爆ドームに思いを馳せざるを得なかった。
    原子力と言う罪深い技術を手にした我々の、これから。
    ただ国家や電力会社を責め立てるだけでなく、推進するそれらを放置した我々全員に潜在的に存在する責任を考えさせられた。

  • ・人体は放射線に対し強い。怖いのは誤った情報による過剰な避難だ。(p.88)

  • チェルノブイリの現在を見るためのツアー
    福島へもみんなで行くと良いと思う。

  • 読み応えありまくり、我々が本質的に戦わないといけない敵は風化だ。

  • ノンフィクション
    原子力発電

  • チェルノブイリに学ぶ。ダークツーリズムの意義。福島のこれから。日本人のこれから。

  • 1986年に大事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所が観光地となっている。「ゾーン」と呼ばれる立ち入り制限区域にガイド付きで入ることができるのだ。本書は、その観光ツアーに参加し、そこに関わる人々へのインタビューを編纂したものである。過去の負の遺産となった場所を巡ることは一般に「ダークツーリズム」と呼ばれる。チェルノブイリ観光もそのひとつだ。そうとは意識していなかったが、広島平和祈念館やアウシュビッツ収容所などもダークツーリズムの範疇に入る。本書ではチェルノブイリ原子力発電所だけでなく、事故について展示するキエフの博物館や、チェルノブイリを舞台にしたゲーム「STALKER」、プリピャチ市の元住民らのためのサイト、などが合わせて紹介される。

    この雑誌の編集者は、現代思想の東裕紀、福島大学の社会学者の開沼博、Webジャーナリストの津田大介、写真家の新津保建秀、などである。本書の背景として、福島第一原子力発電所の今後への彼らの問題意識と「観光地化」への構想がある。

    チェルノブイリ原子力発電所の件で驚いたのは、まだその施設が送配電施設としてだが現役であること、さらに発電所内でまだ働いている人がいることだ。訪問者は、発電所の中に入って見学までさせてもらうことができる。本書に参加する人々は、観光地化により正確な情報が流通することについて価値を見出している。また過去の風化へ対抗する手段としてもその有効性を見出している。

    すでに刊行されているが、この次の号にて福島第一原発観光地化計画を取り上げている。また、25年後の「フクシマ」を考えるとして、プロジェクトを発足させている。プロジェクトのサイトはこちら→ http://ch.nicovideo.jp/fukuichikankoproject/

    チェルノブイリツアーはその後東氏のゲンロン社が募集催行している模様 → http://school.genron.co.jp/chernobyl/。6泊7日のツアーとして訪問先もまとめられていて、本書の内容とも当然ある程度合致していて参考になる。

    この後、長きにわたってフクシマがどのように変わっていくのか。彼らの行動はどういう影響を与えるのだろうか。福島第一原発観光化計画も読んでみたい。(Kindle Primeだと無料のようだし)

    なお巻末に関連書籍や関連サイトがまとめられている。本書刊行後にノーベル賞を受けることになるスベトラーナ・アレクシェービッチの『チェルノブイリの祈り』も参考書籍として紹介されている。



    『チェルノブイリの祈り――未来の物語』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4006032250

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著者プロフィール

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』など。

「2023年 『ゲンロン15』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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