TRICK トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち

著者 :
  • ころから株式会社
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  • Amazon.co.jp ・本 (178ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907239398

作品紹介・あらすじ

工藤美代子、産経新聞、日本会議、自民党文教族、小池都知事、百田尚樹……
彼らが掲げた「虐殺否定」は幼稚な”フェイク”だった!

『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)の著者が、ネット上に蔓延する「虐殺否定」がまっとうな「論」ではなく、タネも仕掛けもある「トリック」であることを白日の下に晒す。

感想・レビュー・書評

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  • 悪意のある『関東大震災後の朝鮮人虐殺はなかった』(または朝鮮人による暴行事件が多発したための自衛論)に対する反論。逐一、原典に立ち戻って解説されている。
    朝鮮人、韓国人だけではなく、間違われた日本人、社会主義者(実際には被差別部落などでもあったと聞く)が虐殺されていることは確かなのだ。なかったことにしようとする悪意に満ちた主張を真っ向から否定し、証拠づけも十分でとてもわかりやすい。
    あらかじめ、本著者の『九月、東京の路上で 1923年関東大震災 ジェノサイドの残響』を読んでおくと理解しやすい。『九月〜』に出てくる資料でだいたい反論が可能だからだ。
    今、韓国、朝鮮に対して良くない感情を持つ人が多いのか、テレビや雑誌ではヘイトがひどい。また同じ過ちを日本が繰り返すことを恐れる。

  • ・リップシュタットの「(ホロコーストの)否定者は、論点が真っ二つに割れていて、自分たちがその"一方の立場"にあると認知されたいのである」という言葉についての説明に続き、

    「これを私の言葉で言い換えると、否定論者の言説を一つの「説」であるかのように扱い、議論するのではなく、これは一体どのような「トリック」だろうかと客観的に吟味し、解明し、そのカラクリを人々の前で明らかにすることである。要は学説や意見でなく「手品」として扱えということだ。帽子から鳩が飛び出すさまを見て超能力かもと考えるのではなく、「どのような手品なのか」と考えるということであり、社会的には、否定論のトリックとしてのタネを広く共有し、これを「諸説」であるかのように扱うことを決して認めないことだ。」

    ・ネット上の「論」について、虐殺否定論の発端となった本について、そこで行われている「トリック」をすごい丁寧に解説している。
    否定論の発端となった本の、引用に見せかけた資料の「引用」がすごすぎて、「厚顔無恥」という単語が脳内を飛び交う。どうしてここまで堂々とできるのか。

    ・参考資料の紹介も豊富。

  • 工藤美代子、産経新聞、日本会議、自民党文教族、小池都知事、百田尚樹……
    彼らが掲げた「虐殺否定」は幼稚な”フェイク”だった!
    との解説がある。これをトリックとして暴き、その根拠をことごとく崩していく。

    過去の資料の都合のいいところだけを抜き出し、自分たちの主張のためにツギハギして世間の人の興味、偏見、差別意識を煽り立てる人たち。その論理の破綻をことごとく実資料で暴いていく。とても影響力があり一筋縄では屈しない作家や新聞社、団体に対して、骨のある作家・加藤直樹氏である。凄いことである。

    大震災の混乱の中、人々が鮮人と差別し一方で恐れていた朝鮮人に対する警戒心から出たデマ。それを実際に見た人はいないにも関わらず、新聞も報道し、警察も動く。国も自警団を組織するように伝える。
    が、しばらくしてそれが事実ではないことが分かっていく。警察も国も鎮圧に動くものの報道が独り歩きしていく。自警団も悪いことをしたと思っていない節もある。
    そうした記録が公的文書で残り、殺人者への裁判記録もあるにも関わらず、それらをキチンと分析せずに公然と広く一般にこれらの歴史を無視し修正していく人たち。

    現代にもあることではないかと思う。「福田村事件」の映画を見たのでこの本にたどり着いたが、普通の人々も集団となると逆上し狂気化していくことの恐ろしさを改めて感じた。冷静に状況を見ようとはせずに、自分の感情や偏見のままに、都合のいいところだけを主張し信じる人たちがいるのである。

  • 第2章「虐殺否定論はトリックである」を読んで、怒りを通り越して呆れ果ててしまう。しかし、この稚拙過ぎるトリックに騙されている人が多数いるという最悪な現実に立ち向かうしかなく。本書がさらに脚光を浴びんことを。

  • 歴史修正主義がいかに罪深いことか痛感しました。読んでいて憤りを感じるけれど、読んで良かった。

  • トリック
    「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち

    著者:加藤直樹
    発行:2019年6月29日
       ころから


    同じデタラメでも、なんぼなんでも無理がありすぎるというのが、関東大震災における「朝鮮人虐殺はなかった」という主張。工藤美代子と加藤康男なる作家夫婦が作り上げた戯言にすぎないが、小学館の「SAPIO」に掲載され、書籍として産経新聞出版(2009)と、右翼雑誌WILLを出しているWAC(2014)から出版された内容について、著者はきっちりと反論し、そのデタラメさを証明していっているが、この本を読んで3分の2あたりまでくると、もう読む気がなくなってくる。
    工藤・加藤夫婦による元々の主張があまりに稚拙な戯言なので、もう反論なんか読まなくてもええわ、という気持ちになるのである。

    しかし、惰性で読み進んだ残り3分の1にこそ、この問題の本質があった。著者は「朝鮮人虐殺はなかった説は存在しない」と強調する。そういう主張(論)はあっても、説ではない、という。確かにその通りで、まったく根拠がない主張は説とはいえない。慰安婦問題や南京大虐殺とはレベルが違う。

    警察、裁判などの記録があり、国をはじめとする多くの公的機関が朝鮮人虐殺を記録しているのに、逆に「朝鮮人暴動があった」と、工藤・加藤夫婦は震災直後に出回った「朝鮮人暴動」を伝える誤報記事を証拠として主張している。現在、ネットで出回っている古い新聞記事がそれ。名古屋壊滅、津波で品川が全滅、という誤報も出たほど混乱していた時期のもの。もちろん、そうした事実がない、嘘だということは、後に警視総監や軍も公式に発表しているにもかかわらず。
    また、政府は、朝鮮人暴動はあったが隠蔽をはかっている、なぜなら刺激しすぎると手がつけられない暴動になるから、との陰謀論も主張しているが、その根拠はある人の証言だったという。そして、その人物は、工藤の父親、加藤の義父だった。大笑いのオチ。

    このようなデタラメさ、あまりの稚拙さを証明する証拠は枚挙にいとまがないが、問題は、こういうデタラメ主張の一部がネット上で出て拡散してしまうことである。中身もよく分からずに切り貼りして拡散する大ばかか、ヘイト目的の連中がすることなど、放っておけばいいことだと思うが、「嘘も百回言えば真実になる」現象により、こうした戯言がいつのまにやら“説”として扱われるようになることが一番恐ろしい。著者はそれを一番恐れている。

    確かに、その通り。実に嘆かわしい現象ではあるが、2003年に内閣府の中央防災会議が出した専門調査報告書が、一時、内閣府のホームページから削除されるという事態が起きた。そこには朝鮮人暴動はなかったこと、朝鮮人殺傷を災害時の反省点としなければいけないことなどがちゃんと書かれているためだ。デタラメな戯言も、段々“力をつけて”きて、こういう事実をなきものにしたい人たちからの圧力が働き始めているという証拠だ。

    ご存じのように、東京都立横網町公園で毎年行われる「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼碑」前での追悼式典に、石原慎太郎知事ですら寄せてきた都知事による追悼文を、小池知事は送付しなかった。こういう動きが、もう堂々と行われ始めている。

  • 関東大震災のときに、朝鮮人暴動があったかどうか、朝鮮人虐殺があったかはしばしばマスコミで問題にされ、小池さんのように追悼をやめた人も出てきた。本書はその原因となったのが工藤美代子と夫の加藤康夫夫妻の著書であったという。ところが、この書には、震災後の風評、デマを載せた新聞記事をあたかも真実のように扱い、その後に出た、上からの否定記事を無視した箇所が見られるという。結論から言えば、朝鮮人の暴動はなかった。その虐殺数が6000というのは多く見積もりすぎで、これは学会でも数千と修正されているという。ところが、南京大虐殺でもそうだが、中国のいう30万という犠牲者数だけを問題にし、虐殺そのものを否定しようという人たちが少なからずいる。本書は工藤夫妻の著書の意図性をみごとに暴露し、その流した害毒を追ったものである。今後この問題はあつかう人たちはどうかこの本から出発してほしい。この問題は災害が起こるたびに外国人が起こしたのではないかという風評が広がることにも結びついている根深いものなのであるから。それにしても、工藤さんという人はきちんとした?評伝も書けるのに、事政治に関わるものになると、途端に雑な書き方になるのはどうしたことか。ほかの本まで、きちんと書いているのか疑わしくなる。

  • 少し前に松野官房長官が関東大震災時に朝鮮人虐殺はなかったと発言したことに疑問を持っていた。学校でも朝鮮人虐殺があったと教えられておりどういうことだと思っていたところにこの本と出会う。
    「あったことをなかったことにしたい」という浅はかで醜い考えで、当時の噂で出来上がった新聞を「本当のこと」とし、震災後に落ち着いた頃にそれが誤りだったと書かれた新聞は切り捨てる行為が恥ずかしい。
    「日本人(我々)は正しく有りたい」「加害者ではなく被害者の立場でいたい」というために被害者を更に踏みにじる行為に日本の政治家に落胆した。

    良い本を読めたと思う。

  • 『九月、東京の路上で』の作者による、朝鮮人虐殺を無かったと主張する歴史修正主義者のやり口を解説・否定する本。

    後に否定された記事を証拠として提示、原文を省略し原文の意図とは正反対の証言とするなど、悪質なトリック多数。

    「主張する殺された人数が明らかに多すぎるから、虐殺自体も嘘に決まってる」みたいなのは、他のデマでも使われているやり口だし、こういう方法を使えばどんな誤った事実でもそれらしく見せる事が出来るっていうのがよく分かる。実際、ホロコーストすら無かったと主張する高須院長みたいなのもいる。

  • 改めて具体的に示されると江戸しぐさや武功夜話と同等かそれ以上に悪質。流言の資料として編纂されたきちんとした史料集から流言部分だけを抜き出して論拠にする、なんて信じがたいことしてるのには本文中でも書かれていたうすら寒さを感じました。

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著者プロフィール

1967年東京生まれ。おもな著書に『九月、東京の路上で』『TRICK 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』(ともにころから)、『謀叛の児』(河出書房新社)など。

「2023年 『それは丘の上から始まった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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