アナキズム・イン・ザ・UK――壊れた英国とパンク保育士奮闘記 (ele-king books)
- Pヴァイン (2013年10月31日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784907276065
感想・レビュー・書評
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これは面白すぎるし、全人民は買うべき。イギリスの底辺託児所で働く日本人女性が、イギリスの文化(音楽と映画)と、社会(特にアンダークラスの実態)と、政治(アナキストもちょくちょく出てくる)について書いた本。ていうかブログとかの記事をまとめた本。
なんだろうなぁ、人権や社会保障が一定程度守られた「先進国」と呼ばれる国の、その下層にある現実を、否定も肯定もすることなく、しっかりと描いている感じで、変にリベラル教条主義になるわけでもないし、もちろん保守的なわけでもないし、地に足ついてる生活者の感じがとても良い。
日本みたいな、人権というものに対する理解が全然なく、社会保障が足りなすぎて人間が餓死するような社会に住んでいると、「とりあえず死なない」という意味でのヨーロッパの社会保障の仕組みなどをうらやましく思ったりするけど、しかし(というか当然ながら)「死ななきゃいい」ってわけでもない。一定の労働規範の中でコツコツと生きていたワーキングクラスが崩壊し、教育的にも文化的にも経済的にも排除された「アンダークラス」が社会の中で勃興してくる様子は、きっと日本にあっても無縁ではない。まぁ「DQN」と呼ばれるものが、その概念の日本での受け皿なんだとは思うが。
ところで、この本のタイトルには「アナキズム」という言葉があるけれど、これは根本的に社会が壊れていってる(ブロークンな)状況を、ピストルズ的な意味で「アナキー」と言っているのであって、基本的には思想的な意味ではない。
しかし、同時に思想的な意味でのアナキストも確かに登場する。そしてそれがけっこう人間的でおもしろい。日本だと、まだまだ「アナキズム/アナキスト」みたいなものが異質な存在として、場合によっては新鮮味を持って語られたりするけど、そういう人が社会の中に一定数いて、だらしなく、かつストイックに生きてるのがありのままに描写されていて、心惹かれる。彼らは、なんていうかインテリの貧乏左翼みたいな感じではあるのだけど、それでもそれを眼差す生暖かい目線が著者の中にあるというか。
とにかく、思想とか理論とかでズバッと割り切れない世界の形を、社会の下の方から丁寧に捉えている良書。「政治スローガン」などに飽きた心に沁み入ることしきり。 -
氏のブログ「THE BRADY BLOG」、Pヴァインの「web ele-King」からの抜粋。2004年から2013年あたり。出版するにあたっての書き下ろし、から成る。
氏の生活者としての目線からとらえた英国社会事情、また保育士として働いたところでの保育の現場事情。全編を流れるのはブレイデイ氏の根底をなすパンク魂。
Pヴァイン、CDを買わなくなって久しいが、少し前はけっこうPヴァインレーベルのCDを買っていた記憶。そこのWEBに文を寄せていたのか。
保育士としての事情は2017年出版の「子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から」の方が、託児所のみの文なので、読みやすく迫ってくる。
「THE BRADY BLOG」
http://blog.livedoor.jp/mikako0607jp/
2013.11.14初版 図書館 -
「ぼくはイエローで…(略)」から始まってすっかりブレイディみかこさんの虜になってしまい三冊目です。(三冊目以降はオトナ買いしてしまいました。。)
帯には「すべてはこの一冊から。大人気コラムニストの原点!」と書かれておりナルホド、ということで読み進めました。 これまで二冊読んできた中の登場人物が10年前ぐらいになってリアーナとか出てきたり、なるほど、そうつながってくるのね、と思ったり複数冊読んできたからこそナルホド感もありまして、時々は高らかに声を出して笑ったりしながらも読みました。 正直ゲキレツな表現は三冊目でちょっともういいかなとも思ったりもしたところあるけど、なんだかんだ二回目読み返してメッセージ性確認してみたりもした。
ということで、今回は抜粋多めとして、オオハシレビューを見てくださる人に届いたらうれしいな。
(抜粋なんで前後がつながんないとかは気にしないでください)
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P228
目の前で展開されたシーンに軽く圧倒されているわたしに、アニーが言った。
「わたしたち、リアーナに“あれはいけません”、“これはいけません”、といつも言うわよね。つまりNoばかり言ってるんだわ。でも本当に彼女に必要なのは、たった今アレックスがやって見せてくれたように、YESなのかもしれないわね。言い方を変えれば、愛。っていうか」
幼児たちに囲まれて働いていると、たまに物凄いシーンに出くわすことがある。
「汝の敵を愛せよ」というのはジーザス・クライストが人間に課した無理難題のひとつだが、自分の尻さえ自分ではまともに拭けない猿同然の年齢の幼児にこの難題がクリアできるのは、これは人間が猿に劣る生き物だからであり、「愛せよ」ということは即ち「猿になれ」ということなのかもしれない。
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P264
身体的&精神的能力がどうであろうと、人種が何であろうと、性的オリエンテーションがどうであろうと、宗教や信条、思想がどうであろうと、ソシオエコノミック的階級が何であろうと、全ての人びとを同等に受け入れ、社会のシステムの中にIncludeしましょう。というSocial Inclusionの理念が教育にも反映されているわけである。
この考え方の基盤にあるのは、「ノーマルの基準は人によって違うのであり、“こうでなくてはいけない”ということはない。だからすべての人間に社会参加の権利がある」ということだ。
(中略)
「なんでボーイズ・デイはサムライ人形を飾るのに、ガールズ・デイはプリンスとプリンセスの結婚式の人形飾るの? ひょっとして日本のガールズは、結婚することがハッピーになることだと思っているの? …ジャパニーズ・ガールズってドリーマーズだね」とメイは言った。こんな言葉を吐く五歳児は日本の保育施設にはいないだろう。
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P289
英国の保育園などという場所は、はっきり言って人種の坩堝である。
白、黒、茶色、黄色、あらゆる色の尻をわたしは日々拭いている。面白いことに、一歳や二歳ぐらいの年齢でも、その肌色グループ特有の行動体系というものがすでにあり、DNAの記憶というやつはすごいものだなと思う。
さらに、その民族特有の行動体系を決定的にするのが、教育だろう。
思えば、前述のW杯の話にしても、日本の学校は清掃の時間というものがあって、自分たちの教室は自分たちで清掃させられる。つまり「自分が散らかしたものは、自分で片づけるのが当然である」と脳に刷り込まれるわけだ。一方、学校生活の中で清掃の時間や掃除当番などというものは一切なく、汚れ仕事はクリーナのおっさんやおばさんの仕事だと理解して育つ英国の子供の脳には、「クラス(階級)」の刷り込みが入る。
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P317 あとがき
ブリッド・グリット(Brit Grit)という私の好きな言葉がある。
ネットで見つけたある写真にこのタイトルがついていて、それは野外でピクニック・コンサートを楽しんでいる英国人の群れを背後から撮ったものなのだが、全員が傘をさしていて足元はびしょ濡れ。という構図に思わず笑ったが、「英国人の逆境を生き抜く気概」を意味する言葉は、UKの真骨頂である。
どんなに状況がひどくとも、腐っていようと、救いがなかろうとも、彼らは生きている。クソのような逆境をクソと罵りながらたくましく生き抜いている。
(中略)
アナーキーな社会というのが、ロマンティックな革命家が夢見たような世界ではなく、全てのコンセプトや枠組みが風化した後の無秩序&無方向なカオスだったとすれば、そのアナーキーを生き抜く人間に必要なのはグリットだ。
ファッキン・ノー・フューチャーと罵りながら、先に踏み出せるグリットだ。
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日本で普通に暮らしている限り中々知ることができないイギリスのアンダークラスといわれる社会階級の存在と現実を、実際に自らがそこに身を置き、体感し、日記的にぶっちゃけてくれている一冊。
本書を読んでいくと、イギリスの政治というのはとにかく”臭いものには蓋をする” 政治なんだなって印象だった。
ピストルズ、オアシス、ストーンローゼス等多くのバンドが何故政治を歌うのか何となくわかる気がした。中でも”教育”の問題に根の深さを感じた。
解決には(簡単じゃないけど)、社会全体がまず”目を向けて”、”すこしずつ”協力しながら負の連鎖を”一歩一歩地道に”断ち切っていくしかないのかなって思った。
「BREXIT」に至った成り行きも本書を読むと分からなくもない気持ちになってしまった。なんだかイギリスについて考えさせる一冊でありました。 -
音楽や映画のことを交えながら、イギリスのストリートから発せられるイギリスの現状や政治について。
ピストルズ、ストーンローゼズ、oasisを始め、UKのバンドが好きで良く聞いてますが、こういうイギリスの現状を知らないと全然理解出来ないものです。
アンダークラスを中心に酷い状況ですが、日本も同じような道を歩み始めてますね。
時折引用されるジョンライドンの発言がすごくまっとうなことを言っていて、ボウリングフォーコロンバインのマリリンマンソンの時もそう思いましたが、ああいう人たちが冷静で一番まともだっていうのが大変面白い。 -
何度も笑い、泣いてしまった。ブログの記事やele-kingでの連載コラムをまとめたこのエッセイ集は、英国の労働者階級より更に下、アンダークラスの生活とその子供たちのリアルな現状を、明晰な知性と鮮やかなユーモアによって綴っていく。政治と生活と音楽カルチャーが結び付くどん詰りな社会で、最低の日々に押し潰されられないための支えとなるタフで、ラフな言葉が次々と飛び出てくる。胸を締め付けてくる。Life is a piece of shit、その通り、人生なんて一片の糞みたいなもの。そこから始まるんだ。続けるんだ。
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ガキの頃に(attitudeとしての)パンクの洗礼を受けた私は以降何においても「パンクであるか否か」を自分に問いかけてきた。「否」としたものをやむを得ず受け入れてしまい情けなくて死にたくなることもあった。それでもこの選択の基準は絶対的に不可侵だ、自負がある。UKの最下層アンダークラスから発信するブレイディみかこのリアルな現場の声に私は何度も頷きながら、このattitudeを死ぬまで貫き通してやろうと涙ぐみながらに決意した。そんな自分の感傷を抜きにしても最高の読み応え。ノーフューチャー、でも未来を諦めない。
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めちゃくちゃ面白い。
すごく言葉や表現は悪いのに全然嫌な気がしない。
恐らく実際にそこで生きた人の心あるリアルな言葉だから情や温かささえ感じる。
どこか、これは大阪の西成か浪速区ではないか!と感じるところが多々あり、親近感が湧き、とにかく面白い。
(西成、浪速区をディスっていません。住んだこともあり情深く、とにかくおもろい好きな街です)
こんなことを、いちいち書かないといけない時代なのは言論の自由と言えるのだろうか。
だからこそ、この著者は勇気があるし、そこに事実や面白さがあるのだから近年の「民間重箱つつき警察」はいなくなったらいいのになぁとつくづく思っている。 -
ukブライトンのアンダークラスの生活ぶり、今後の日本の姿の一部を指し示しているよう。生活保護で生きられてしまう様だが、それは政治に左右される。