いまモリッシーを聴くということ (ele-king books)
- Pヴァイン (2017年4月28日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784907276799
感想・レビュー・書評
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「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」の著者、ブレイディみかこさんによるモリッシー評。
こんな本が出ているなんて知らなかった。モリッシーに青春を奪われた僕としては「この組み合わせ、読まないわけいかないでしょ」っと知った瞬間に一寸の迷いなくポチッと発注。
モリッシーは2006年に行われた英国BBCの調査で「生けるブリティッシュ・アイコン」2位に選ばれた英国の歌手。ポール・マッカートニーなんかより影響ある人といえる。
日本で言えば尾崎豊が近いのかな?尾崎のように死んでおらず、60過ぎても(がんは患ったが)尖ったまま生きているけど。
1980年代にサッチャリズムに対し敢然とアンチを唱えた骨のあるミュージシャン。しかもマッチョではなくて、どちらかと言うとウジウジ、ナヨナヨしたイメージ。
でも、知性とユーモアがあり、この世界にはメインストリームだけでなくオルタナティブがあることを教えてくれる。そんな素晴らしい歌を数多く作って、今も歌い続けている。
ー モテと非モテ、リア充とオタク、人間と動物、クールとアンクール、ノーマルとアブノーマル、金持ちと貧乏人、これらの対立軸で、モリッシーは常に後者の側に立っている。
そんな人。しかも、アセクシュアルでフェミニストでベジタリアン。
ほんと、カッコいいとしか言いようがない。
本書では、そんなモリッシーの魅力をディスクレビュー形式で余すことなく述べられている。
ブレイディみかこさんのモリッシー愛が強く感じられて、感涙の一冊でした。
ー わたしたちは美しい矛盾の中を生きている。
だからこそモリッシーを聴くのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
モリッシーというアーティストの作品から、四半世紀ほどのイギリスで起きた政治的事件や世相を非常にわかりやすく解説し、整理してある。また、音楽表現がどのように世相と関係しているのか、自己表現だけでなく社会との関わり方についても触れられているところに共感した。
あとがきから、この本はいわゆる「ひきこもり」に近い生活を送っていた義兄に向けて書かれたものだということがわかる。
日本でも引きこもりや就職氷河期は、社会問題のひとつとして認知され、今でこそ50-80問題などとして取り上げられる傾向がある。外からみた母国の状況について書かれた著作も今後読んでみたい。 -
『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)で今年の新潮ドキュメント賞を受賞したブレイディみかこは、いま最も人気のある左派論客のひとりと言っていいだろう。福岡出身、イギリス在住のコラムニストで、保育士をしながら「地べた」からのリポートを発信し続けている。
著書のタイトルを並べてみよう。『花の命はノー・フューチャー』『アナキズム・イン・ザ・UK』『ザ・レフト UK左翼セレブ列伝』『ヨーロッパ・コーリング』・・・これでおわかりの通り、「パンク」の人である。
『ザ・レフト』においても左翼セレブとして取り上げられていた、モリッシー。言うまでもなく、80年代ポスト・パンクを代表するバンド「ザ・スミス」のフロントマンで、解散後もソロで活動する現役のミュージシャンだが、本書は、彼のディスコグラフィを振り返りながらイギリスの政治=文化を描こうとする音楽批評だ。
80年代のイギリスといえば、政治的にはサッチャーの時代。民営化と規制緩和で政府の縮小を図る元祖・新自由主義。失業率が上がり、貧富の格差が拡大した。他方、ポップ・ミュージックの歴史においては、70年代後期のパンク/インディース革命を引き継いだ多数のポスト・パンクバンドが活躍する時代。ニュー・ロマンティックやスカ、ネオ・アコースティックなど、多様多彩な音楽が登場し、その後の日本のミュージシャンにも大きな影響を及ぼす。サッチャーとポスト・パンク。どちらも有名だが、それぞれ別々の文脈で受容している日本人も少なくないだろう。
モリッシーを接点として、両者を繋いでみることで、イギリス史が立体的に見えてくる。モリッシーは、なぜアンチ・サッチャーのアイコンとなりえたのか、あの時代に何を歌い、何を語ったか。何と闘い、何を守ろうとしたのか。そして時代の変化とともに、モリッシーはどう変わり、また変わらなかったのか。著者の幅広い見識と熱意溢れる解説で、その全体像が掴める好著。きっと、ザ・スミスのデビューアルバムから順に聴いてみたくなる。 -
モリッシーとは、イギリスの解散したロックバンド「ザ・スミス」の元メンバーで、解散後はソロアーティストとして活動するミュージシャンである。
本書でも詳しく述べられているが、ザ・スミスはイギリスだけでなく世界で大人気を博し、日本でも熱狂的なファンがついていた大物バンドで、解散後ももう一人の中心的人物だったギタリストのジョニー・マーとともに、その動向はイギリスだけでなく、世界に報じられていた。
本書はそのモリッシーの、ザ・スミス時代から2014年発表のソロアルバムまでを、発表当時の社会情勢や本人ならびに周辺人脈のインタビューを交えてそれぞれ解説している。
著者は英国在住のジャーナリストで、英国の政治経済を中心とする社会情勢をわかりやすく解説した著作でベストセラーを連発している人だが、元々イギリスのロックが好きで移住した経緯があるようなので、本書のような音楽評論は著者にとってもやりたかった仕事なのではと思った。
なので、各アルバムや楽曲の解説も当時のイギリスの政情や経済情勢を交えながらの深く、かつ鋭く切り込む様は、本当の「解説」ってこういうものではないかと感じ入った次第。
なお、なぜ「いまモリッシーを聴く」のかについては、モリッシーのキャリアを振り返ることが80年代のイギリスの文化や政治を振り返ることであり、それが現在のイギリスで起きていることを理解するという難しい命題に役に立つと感じたから、との事。
もちろん、対象は音楽なので、音楽的な側面からの解説も重要であることは論を待たないが、一方、アーティストが楽曲を作る際には、自身の環境や心情が中心となるのは当たり前だが、その時の社会情勢も少なからず影響が入ってくると思う。
本書はその社会情勢からの視点が入っていることが画期的で、加えて部分的ではあるが詞の翻訳もあることから、その曲を我々日本人が聴く時の理解の手助けになることもありがたい。
今まで、ザ・スミスもモリッシーも名前は知っていたが、聴いたことがなかったので本書を片手に聴いてみようと思った。
ところで以前、講談師の神田伯山が自身のラジオ番組で、評論家は演者と観客を繋ぐことがその最大の役目というようなことを言っていて、深く感銘を受けたことがあったが、本書はまさにその役目を全うしていると思った。-
hawaii0521さん
聴いたことがなかった音楽評論を読むのってハードル高いと思ってましたが、こんな風に聴く気を起こす評論もあるんですね!...hawaii0521さん
聴いたことがなかった音楽評論を読むのってハードル高いと思ってましたが、こんな風に聴く気を起こす評論もあるんですね!
レビュー読んだら私も読みたい、聴いてみたいと思いました!2021/11/13 -
111108さん
コメントありがとうございます。
そうなんですよ、聴いてみようと思う気にさせる、著者の文章力がすごいんです。ぜひ、スミス...111108さん
コメントありがとうございます。
そうなんですよ、聴いてみようと思う気にさせる、著者の文章力がすごいんです。ぜひ、スミスもモリッシーも聴いてみてください!2021/11/13 -
2021/11/13
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労働者階級の視点にたった徹底した逆張り。こういうアーティストだったのか。品のよすぎる日本には絶対に現れない信念の男というか。ジョニーマーのギターワークから、好きなバンドを質問された場合には必ずザ・スミスをあげてしまう自分ですが、なんとも恥ずかしい。。。やっぱり歌と音楽が同時に入ってこないと、このバンドを本当に理解しているとは言えないものだな、と痛感させられた。
本の中でも少しでてきたsill illは一番好きな曲の一つで、「イングランドは僕を養うべきだ」とか変な歌詞だな、と思っていたけど、これは文字通り労働者階級的気分というもので、こういう表現がストレートすぎるおかしみみたいなものなのだろうか。 -
スミス〜モリッシーが駆け抜けた時代をキレのある分析と眼差しで書き上げたディスクガイド以上に社会学の面も非常に大きい。モリッシーと同じ時代に彼の地を生きた著者が今語らなければいけない生き証人たる責任を感じる。そして何より同時代を生きた市井の人たちのエピソードが彼の国の抱える問題をあぶり出しながらもだけども生きていく人たちの愛おしさが味わい深い。
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モリッシーの歌詞や音楽を、すごくマイナス思考な暗い音楽で、みんなそれに乗っかって自分もそっち側の世界の人間だ!VIVA暗い人間!ひねくれバンザイ!!とかいう感じで聴いているのかなと思ってたし、自分もそれに近いものがあったが、まさかこの人の曲を聴いて、イギリス人は爆笑しているとは知らなかった…!たまたま前にロンドン行った時に、彼の自伝映画のコマーシャルも兼ねてなのか、THE BIG ISSUEがモリッシー特集だったので買ったんだけど、そこにもモリッシーのこと「FUNNY」だと書いてあったし、あーもっと英語が理解できればな、と改めて思ったんだが多分不可能なので、この本があって本当に良かった。
確かに、彼のインタビューとかを読んでると、この人ほんとにめっちゃくちゃ面白いなと思ったことは何度もあった。ホントは一体どんな人なんだろうなって、その辺りで疑問を持ったりもしたけど、この本が全て教えてくれるし、そして、最後のあとがきの切なさ、何ていうんだろう、笑い泣きって感じだ。
いや、本当に今この時代に、モリッシーの本を出してくれてありがとう。 -
すごくすごくおもしろくて一気読み。左でも右でもなくて上か下かの下に寄り添いアンビバレントをうたう「雄雌雄雌しさ」の愛おしさ。
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本の最後に「あとがきにかえて」というブレイディさんが体験したとあるエピソードが描写される。厳しく容赦ないけど実は優しいケン・ローチを連想させるテキストがすばらしい。ディスクガイドという体裁だがモリッシー軸の英国史にもなっていて、ひじょーに勉強になる。しかもペダンチックなところが皆無なのに、読後感は非常に複雑な思いにとらわれてしまうのもすごい。