良い写真とは? 撮る人が心に刻む108のことば (SPACE SHOWER BOOKS)

  • トゥーヴァージンズ
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (196ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907435929

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  • 『対象をとらえた時、レンズは目の延長になり、撮影者や見た人の感情が動けばレンズは心の延長となる』―『こころで写す』

    黄金週間に調布までハービー山口の写真展を見に行った際に手に取る。元はソーシャルメディアへのつぶやきを集めたもの。そこにちょっとした解説めいた文章と「良い写真とは?」という問いに答えるつぶやきに呼応する写真が添えられている。写真は、幾つかの写真集でお馴染みのもの。新書版より一回り大きなサイズの本書では写真の細かな表現は読み取り切れないが、言わんとしていることは何となく伝わる。ハービー山口の写真はとても饒舌。

    引用はしないけれど一番と銘打たれた最初のつぶやきに、この写真家の魅力のほとんど全てが凝縮されていると思う。その根本は被写体との関わり方。もちろんポートレイト以外の写真にも惹かれはするけれど、圧倒的に人物を写している写真が魅力的。被写体となった人々はほとんどがレンズに顔を向けている。そして撮られることを意識しつつも自然な立ち振る舞い。自分を写し撮ろうとするその眼を拒絶する様子はない。その関係性が写真に投影されることで、フリーズしている筈の映像が100分の一秒程の瞬間に留まらない物語性に繋がる。

    つぶやきの中には、自分たち世代には日本の女優をモデルとして撮った退廃的な写真集で有名な写真家に対する一言がある。モデルとの対話を不要とする大家にハービー山口はやんわりと異を唱えているのだが、確かにそれはこの写真家の撮影に望む態度と全く正反対の態度。やっぱりそうなんだね、と改めて理解する。

    『ポートレイトを撮る際、頭上にスペースを取ると希望が写り、靴や足下まで入れるとリアリティーが写る』―『表現とは』

    そう、ハービー山口の写真には「余白」のような空間が多い。それを上手く言い表すことは難しいけれど、この写真家は世界が「図」と「地」からできていることをよく心得ているのだと思う。被写体だけを写し撮るのではなく、文脈の中にいる被写体を写すと言ったらよいのか。そのスタイルこそ、自分がハービー山口に惹かれる一番の理由であるのかも知れない。

    例えば、アンリ・カルティエ=ブレッソンとハービー山口をよく並べて考えて見るのだけれど、人物とその背景を取り込む構図には似たところがあると思いつつ、明暗が対照的だなと感じる理由は、ここで解説されているような違いなのかも知れない。そういえば有名な「サン・ラザール駅裏」の一枚も視線が自然と足下に向かう。向かった先で世界は逆転するのでなんとも不思議な印象にはなるけれどあくまで「現実」とそこから遊離した「鏡像」の関係性がそこにあることを無意識の内に感じ取る。「現実」は鋭く切り取れば切り取る程、何故か写し取られたものは「刹那的」になる。それに対してハービー山口の写真では視線はまず瞳に向かい、そしてその周りの空間に伸びる。地があってこそ図は輪郭を持ち得るということがよく分かる。その関係性に物語性が宿る。刹那であるはずの時間が前後に伸長する。もちろん各々の写真家の全ての作品がそうだと言うつもりはなく、何必館で開かれたカルティエ=ブレッソンの写真展のポスターに使われた子供の写真などは、ハービー山口のポートレイト写真とよく似た印象を投げかけたりもするのだけれど。

    最後に一つだけ付け加えると、この写真家の写す少女は皆とても可愛い(カワイイ、ではなく可愛い)。写真家の少年性のようなものがレンズを向かわせる動機になっているからか。それを本人は20歳の心で撮ると言っているのかも知れないけれど、世間一般総体としての美ではなく個性としての美しさを見い出す目がこの写真家には備わっているのだと思う。例えば20-21頁の写真なんて、その可愛さが少しあざとく切り取られている。ニ四六号線のデモの写真も好きだけれど、やっぱりハービー山口の良さはこういう写真にあるように思う。ひょっとしたら世の中がこういう写真を否定するような時代がすぐそこまで来ているのかも知れないけれども。

  • 良い写真を撮りたい。写真論で上手くなったとしても、感動させる写真は撮れない。結局は撮り続けることしかないのだと気づかしてくれた本だ。

  • 2018年2冊目
    写真家のハービー山口さんがtwitterに語った写真への思いを集めた本。
    テクニックとかではなく、ハービーさんが思う良い写真というものが伝わってきます。

  • ☆☆☆☆

  • Twitterを、ディスりだけではなく、こういうふうなつぶやきで埋めてほしいです

  • うん
    俺も撮れそうな気がしてきた

  • 写真好きにとって珠玉の言葉の数々。何度も何度も繰り返して読みたい。「対象を捉えた時、レンズは目の延長になり、撮影者や見た人の感情が動けばレンズは心の延長となる」「人間に人格が備わっているように写真にも人格や品がある」「良いポートレイトとはその撮影者にしか見えない表情を捉えた写真」「5歳や80歳の目でも、宇宙人や野良猫の目線でもOK。どれを選ぶかは写真家の自由」などなど。

  • Twitter のつぶやき108個分。
    写真も豊富で、1時間もあれば読める。急いで読むことはないけど。。。。

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著者プロフィール

写真家。1950年、東京都出身。大学卒業後の1973年にロンドンに渡り10年間を過ごす。パンクロックやニューウエーブのムーブメントに遭遇し、デビュー前のボーイ・ジョージとルームシェアをするなど、ロンドンが最もエキサイティングだった時代を体験する。帰国後も福山雅治をはじめ、国内外の多くのアーティストたちとのコラボレーションを行いながら、常に市井の人々にカメラを向け続けている。主な写真集に『LONDON』、『HOPE』、『新編 代官山17番地』ほか。

「2021年 『HOPE 2020- 変わらない日常と明日への言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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