鏡のなかのボードレール (境界の文学)

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レビュー : 3
  • Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907986209

作品紹介・あらすじ

現代詩の始祖にして19世紀最大の詩人、シャルル・ボードレール。その恋人ジャンヌは、カリブ海出身で白人と黒人の混血女性でした。著者のくぼたのぞみさんは、詩人がかの女に捧げた「ジャンヌ・デュヴァル詩篇」を中心に語り、それらを訳し直しながら、さらにノーベル賞作家クッツェー『恥辱』へと、その思索を開いてゆきます——まるで割れた鏡の断片に、ふたりの姿が映し出されるように。それらの詩篇は、本邦初の女性訳『悪の華』ともなっています。
また、かの女を主人公にしたアンジェラ・カーター(Angela Carter)の傑作短篇「ブラック・ヴィーナス」(Black Venus)も新訳で収録。ボードレールを《世界文学》として読みかえるための、とても贅沢な1冊になりました。 
新シリーズ[境界の文学]第1弾。

感想・レビュー・書評

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  • 文学

  • 現代詩の始祖ボードレールの復習、ジャンヌの詳細
    (カリブ海出身の白人と黒人の混血女性)を初めて知った。

    当時(19世紀)の西洋世界の未開の地への偏見の根の深さを思い知った。

  • 著者はJ.M.クッツェーやC.N.アディーチェなど、重要なポストコロニアル文学作品を日本に紹介してきた翻訳者。そのくぼたのぞみさんが、コロニアルなエキゾチシズムただよう19世紀『惡の華』を訳しなおす。本書が試みるのは、愛人ジャンヌ・デュヴァルと、彼女に重ねられるエキゾチックなカリブ海に対するボードレールの欲望、そして、そのようにして都市を出ようとした詩人ボードレールが体現していたパリに憧憬を重ねた日本の詩人たちという、二重三重の対象化と欲望を、現代に生きる日本人の女の位置から反転しながらたどりなおし、欲望の対象とされた黒い女の姿を見出すことだ。
    帝国の中心へと移され、欲望され崇められながら自らの言葉を奪われ体を蝕まれていったジャンヌの姿は、同時期に「ホッテントット・ヴィーナス」として見世物にされたサラ・バートルマンと重なり、彼女たち自身の声を創造する試みはアンジェラ・カーターの短編へ、さらに、見つめ返す黒い女を、構造を破壊する力の中心に置くクッツェーの『恥辱』の読みへとつながっていくことになる。
    クッツェーが『惡の華』の一節を『恥辱』の中でひそやかに引用していたという発見から、ハベベ・バデルーンGabeba BaderoonのRegarding Muslims - from slavery to post-apartheid (2014)を手掛かりに展開される第9章の『恥辱』の読解は、まさに圧巻。たしかに『恥辱』は読んだはずなのに、まるで、まったく違う物語のことが語られているかのようだ。読者としてのわたしのこの不注意さは、まさに「搾取の長い歴史」に無知なまま、「自分の感情に逆らわずに生きる」ことのできる特権的地位を反映している。
    まさに自分の「恥辱」を突き付けられる思いだが、それでも、私たちは自分のおかれた場所から、この地勢をたどりなおすことができる。多くの人たちが差し出している地図を手掛かりに。それが、『北米黒人女性作家選』やサイード、クッツェーを経てふたたびボードレールとめぐりあった個人的な旅を私たちにあかしてくれたくぼたさんの伝えたかったことだろう。ならば倦まず果敢に旅に出続けるしかない。とりあえずは『恥辱』を読み直すことから始めたい。

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著者プロフィール

1950年、北海道生まれ。翻訳家、詩人。著書に『鏡のなかのボードレール』『記憶のゆきを踏んで』など。訳書に、サンドラ・シスネロス『マンゴー通り、ときどきさよなら』、J・M・クッツェー『モラルの話』『ダスクランズ』『マイケル・K』『鉄の時代』『サマータイム、青年時代、少年時代─辺境からの三つの〈自伝〉』ポール・オースター/J・M・クッツェー『ヒア・アンド・ナウ 往復書簡2008-2011』(共訳)チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『なにかが首のまわりに』『イジェアウェレへ:フェミニスト宣言、15の提案』『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』『アメリカーナ』『半分のぼった黄色い太陽』『アメリカにいる、きみ』『明日は遠すぎて』マリーズ・コンデ『心は泣いたり笑ったり』イザベル・フォンセーカ『立ったまま埋めてくれ――ジプシーの旅と暮らし』など。

「2019年 『サンアントニオの青い月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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