[決定版]ナチスのキッチン: 「食べること」の環境史

著者 :
  • 共和国
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907986322

作品紹介・あらすじ

国民社会主義(ナチス)による支配体制下で、人間と食をめぐる関係には何が生じたのか? この強烈なモティーフのもと、竃(かまど)からシステムキッチンへ、近代化の過程で変容する、家事労働、レシピ、エネルギーなどから、「台所」という空間のファシズムをつぶさに検証し、従来のナチス研究に新たな一歩を刻んだ画期的な成果。第1回(2013年度)河合隼雄学芸賞を受賞した、著者の代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀前半ドイツの政治・生活を、キッチンのプランや台所労働から見ていく。

    今世紀前半の欧米の家事労働の改善の努力、そして戦争の家事への介入はすさまじく、これを当時のドイツの政治とリンクさせて解説している。

    フランクフルト・キッチンや、今もデザインが古びないバウハウスのキッチン、ヒルデガルト・マルギスの家事相談所:ハイバウディなど、家事を真剣に考える人達の個々のエピソードは大変面白い。

    ここで取り上げられている台所の合理化、性的役割分担、戦争協力はナチス固有のものではないので、他国の事例とリンクしながら解説しないと、どこがナチス固有の特徴で、どこがそうでないのかがわかりづらい。

    キッチンの改善において、時間効率の向上、衛生の確保、栄養の改善、主婦のやりがいと楽しみの確保といったものを目指しているはずなのだけれど、これらがどこまで確保されたのかよりも、戦争協力にどれだけ資したかという視点に走りがち。
    キッチンが何のために有るのかを考えたら、生活者視点の記述がもう少しあっても良かったのでは

    コーワンの「お母さんは忙しくなるばかり―家事労働とテクノロジーの社会史」の方がコンセプトがより良かった。

    ファンタが戦時中のドイツで代用品として生み出されたのは知っていたけれど、僕の大好きなマギーブイヨンが、ナチスドイツの戦争協力のため、省力レシピの鍋料理にマギーブイヨンを大々的に推奨するキャンペーンを打っていたとは知らなkった。
    いや実際マギーブイヨンを使った煮物は栄養的にも、味のまとまり的にもとても実用的なんだけど、まさかナチスドイツで推奨されていたとはねぇ。

  • ナチスに行くまでが長い
    民族主義的なのがキッチンの機能性にも影響を及ぼしてるのは面白い

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001207180

  • ナチス時代は主婦業(特に料理)が兵士を作るためのことになった。女性は第二の性と呼ばれ、台所は機能性重視のもの(歩数まで数える)、そして残飯は豚の餌になるように集められたり、(家畜を育てるのには資源が必要なので)魚を食べるように啓蒙された。徹底してるなぁと感じた。

    p.368 美味しさや愉しさのような計測不可能な感情はかき消され、健康に良いか悪いか、塩分が多いか少ないか、ビタミンが多いか少ないか、最終的には頑健な兵士になるかならないか、という二者択一の天秤が台所を支配したのである。自分や家族の食の嗜好を奪われたダイエットという食のあり方が、ナチス時代の食を表現するのにふさわしいのは、こうした理由もあるのだ。

  • 栄養学を家庭に入り込ませナチズムを浸透させるためにおおいに役立ったという衝撃的なお話し。これは栄養学に限らず、科学のありかたを考えさせられる。

    https://www.docswell.com/s/oyasai350/ZM9NLK-2022-05-13-135222

  • ゴリゴリのナチス本ではない.しかし20世紀初頭のドイツのキッチン,調理器具,家政学,レシピの変遷を通して,ドイツ的な合理主義がナチズムに取り込まれ,なぜか女性を家事から解放するはずのさまざまな試みが,女性を「銃後で歯車として国家を支える」存在に落とし込まれていく様が浮かび上がってくる.
    二つの「あとがき」の内容が,実は一番面白いのだが,それは本体を読んだ上で初めて理解できるのである.

  • 台所の公共化、台所の戦争。
    効率化の果ては、自らを食べていくこと、飢えることであるというあとがきにぞっとしてしまった。
    なんでもかんでもシステム化すること、効率化することの先には、人間を効率化し排除していく行き先が待っている。

    台所の残飯を集めて、豚のエサにしていたこと、そのことを通して民族のつながりをつくるというナチスの政策は面白いと思った。

    考えてみれば、ひとつひとつの家庭にキッチンがあるなんて、非効率だ。

    歴史を知ることは、
    いま自分が暮らしている生活は、色々な出来事や政策やさまざまな意図や偶然が折り重なって現在に連なっていることを知ることなのだと思う。

    ナチスと台所という小さな窓から大きな社会をみるテーマがすごく面白かった。

  • 借りたもの。
    現代の台所(システムキッチン)のモデルとなったものが、ナチス政権下ドイツではぐくまれたという事も衝撃的?でもある。
    そして何より、日常の“当たり前”であるが故に、かえって日の目を見ないもの――台所(食欲)、寝床(睡眠欲)、トイレ(排泄)――に焦点をあて、台所をチョイスし多角的な視点からまとめた学術書。

    空間、建築として(建築学、空間学)。
    特に女性の仕事場として(ジェンダー論、労働論)。
    日常の糧を得る場所として(家政学、料理、栄養学など)。
    これだけでも台所の奥深さに衝撃が走る。
    さらには道徳の分野にまで及ぶ。

    この本でいう「ナチ」化とは、国民社会主義――ドイツ合理主義――だった。
    その思想を紐解き、そのルーツはアメリカのテイラー主義がルーツとの事。
    産業革命以降、生活の質の向上を掲げたと思う欧州。その延長と言うべきか、それは遂にプライベートな空間と目される台所にも及んでいた。

    しかし、コンパクト化、機能化されても、調理に携わる人――当時は主に女性――が従事する仕事量はかえって膨大になった等、問題を解決し“豊かな生活”を模索しつつもそれは新たな問題提起となってゆく。

    ナチ政策のひとつである食糧生産援助事業に‘残飯で豚を育てる’というものがあったが、現在の食品ロス削減推進法を思い出したりもする。

    増補として、巻末には書評サイトHONZで紹介された土屋敦『作ってみました。『ナチスのキッチン』』( https://honz.jp/articles/-/11662 )が紹介されていた。

    【この本を知るきっかけになったYouTube】
    ◆ナチスがやった3つの食料政策
    1)アイントップフの日曜日
    2)無駄なくせ闘争
    3)食糧生産援助事業
    [ゆっくり解説]ナチスドイツのご飯政策
    https://youtu.be/_WKrAHKBraI

  • 台所という着眼点が良い。著者がドイツの古書店で集めた資料も面白い。数年ぶりに読んで、学生時代にこういう研究をしてみたいと感じたことを思い出した。

    ただ今読むと「間違いない」「に違いない」「と考えざるを得ない」という表現が気になった。証拠集めが大変な仕事だと思うが、主張しきれない部分は控えめでよかったのでは。資料が面白いだけにもったいないと思う。

    生活が見える歴史をまとめるには記録が残っていることが大切だ。何を記録しておくべきかという視点を報道メディアは持っておかなくてはいけない。いまの時代はクラウドのアルバムに大量の記録が残っている。数十年後、歴史の研究はどうなっているだろう。

  • 圧倒的な迫力。
    内容について書けないのが残念。元気になったら。
    健康になる食事と、商業主義と、いずれにしても私を大事にしない食事への反感。

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著者プロフィール

1976年生まれ。京都大学人文科学研究所准教授。専門は農業史、食の思想史。2006年、『ナチス・ドイツの有機農業』(柏書房)で日本ドイツ学会奨励賞、2013年、『ナチスのキッチン』(水声社/決定版:共和国)で河合隼雄学芸賞、2019年、日本学術振興会賞、『給食の歴史』(岩波新書)で辻静雄食文化賞、『分解の哲学』(青土社)でサントリー学芸賞を受賞。著書に、『カブラの冬』(人文書院)、『稲の大東亜共栄圏』(吉川弘文館)、『食べること考えること』(共和国)、『トラクターの世界史』(中公新書)、『食べるとはどういうことか』(農山漁村文化協会)、『縁食論』(ミシマ社)、『農の原理の史的研究』(創元社)、『歴史の屑拾い』(講談社)ほか。共著に『農学と戦争』、『言葉をもみほぐす』(共に岩波書店)、『中学生から知りたいウクライナのこと』(ミシマ社)などがある。

「2022年 『植物考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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