言葉と衣服

著者 :
  • アダチプレス
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感想 : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (182ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784908251139

作品紹介・あらすじ

私たちは生まれてからずっと、衣服とともに生活している。
それなのに、衣服を語る言葉が貧しいのはなぜだろう。
あいまいな用語が流通するファッションの世界に向き合い、
本書は「言葉の定義=批評のためのインフラ整備」を試みる。
ファッションをめぐる新たな思考が、この本からはじまる。

感想・レビュー・書評

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  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/765746

  • 曖昧だったファッションという言葉の定義、ファッションデザインとの差異を丁寧に述べている。他の業界の似た例からの類推など解釈を進めるための工夫が見られる。文系の人のの卒論を読んでいるようで楽しかった。
    ・服を纏うことの意味、どこまでが衣服か
    ・シャネル、マルジェラの功績
    ・常に新しいものを求められる特殊な業態

  • これからのファッションスタディーズに期待を込めて。

  • 《言ってみれば、エクリチュールはひとつの「型」である。最初の一歩目において、私たちは選択の自由が与えられているが、その後はほぼ自動的に「型」にはまってしまうこととなる。たとえばある少年がある日一人称を「僕」から「俺」に変更したとしたら、それまで「ママ」であった母親の呼称を「おかん」「母さん」「おふくろ」などに変更しなければならなくなる。同時に「パパ」は「おやじ」になるだろうし、制服のシャツのボタンを上まできちんと留めなくなったり、裾をパンツの外に出すようになったりする。たしかにこの少年は「俺」という一人称を主体的に選択しているのだが、それはあくまで社会から提示されたいくつかのオプションのうちのひとつでしかない。自ら型を作り出すことはないし、仮にそれができたとしても社会や集団からの認知を得られなければエクリチュールとはならないからだ。》(p.82)

    《あらゆる要素が役割=機能を持ち、余計な細部がなく、全体として調和した状態。これはサン=テグジュペリが言う完全性の概念そのものである。ファッションデザインにおける装飾の機能は、イメージの創出、視線の誘導、何ものかの象徴とさまざまだが、刺繍にせよフリルにせよ柄にせよ、それがなくなってしまうと存在様態が変わってしまうような要素は、決して不合理なものではない。むしろ合理的で機能的なものなのである。》(p.98)

    《ここでボードレールは、モダニティを流行から詩情や永遠性を抽出することだと考えている。流行とはすなわち、現在の表象だと言うことができる。流行はその定義からして過去性も未来性も薄いものだからだ。「流行といえばすべて、その概念からして儚い運命にある」とは一八世紀の哲学者イマヌエル・カントの言だが、彼が指摘するように、仮に流行が長続きしてしまうとそれは流行ではなく慣習となってしまうがために、流行はその発生からして短命であることが宿命づけられている。それゆえ、流行という概念は強い現在性を帯びるのである。》(p.121-122)

    《ファッションの世界もつねに「いまここ」にある新しさを切望しているが、新しさを手に入れるやいなや、それを燃やして灰にし、痕跡しか残らなくなる。いや、場合によっては痕跡すら残らないこともあるだろう。それは、ファッションの仕事に携わる人々が歴史の忘却を望んでいるからにほかならない。》(p.132)

    《ファッションショーは反復不可能性によって特徴づけられる。美術、音楽、映画、小説、ダンス、演劇、アニメなどあらゆるジャンルの作品は何度も鑑賞されうるが、ファッションショーが再演されることはごくまれである。二度以上の鑑賞に堪えられない、つまり反復不可能なファッションショーがいまだに業界の中心となっている事実は、ファッションが新しさの提示に捉われていることの証左であろう。新しさを感じることが目的であるがゆえに、初めてでなければそれを楽しめないものになってしまっている。》(p.135)

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著者プロフィール

1978年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程単位取得退学。京都服飾文化研究財団アソシエイト・キュレーターなどを経て、現在、京都精華大学デザイン学部准教授、副学長。専門はファッション論。著書に『言葉と衣服』(アダチプレス、2021年)、『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ――私と社会と衣服の関係』(共編著、フィルムアート社、2022年)、訳書にアニェス・ロカモラ&アネケ・スメリク編『ファッションと哲学――16人の思想家から学ぶファッション論入門』(監訳、フィルムアート社、2018年)などがある。本と服の店「コトバトフク」の運営メンバーも務める。

「2023年 『vanitas』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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