キューバの黒人信仰「サンテリア」に入信し司祭になった大学教授の著者(日本人)が綴ったエッセイ。2014年に日経新聞夕刊に連載されていたようで、2000字未満の1篇が並び、サクっと読みやすい。
第3章、第4章は本にまとめるにあたっての大幅加筆書き下ろし部分。やはり当時連載してた部分が話題も多岐にわたり楽しい。
キューバがアメリカと国交正常化発表前後の連載だったのだろう。あいにくR国滞在期間だったので夕刊まで目を通してなくて見落としていた記事だった。あの頃、アメリカとの国交が復活したら”古き良き”キューバがなくなってしまうと、M市にいた知人たちがハバナまで旅行に出かけていた。時間はかかるが直行便があって、今思うと楽に行けた。
本書もそんな国交回復前の連載なので”その後”を記したものではないが、キューバ関連の本は、やれ革命だ、キューバ危機だ、あるいはキューバ音楽の類を扱ったものが多く、他には堀田善衛の『キューバ紀行』(1960年代だ!)くらいしかないので、本書は比較的、”今”のあの国を知るには好著だと思う。
まぁ、出てくる話題は、社会主義の弊害と、それでも明るいキューバ人の性格と、カストロ、チェ・ゲバラ(ときどきジョン・レノン)と、ヘミングウェイくらいなんだけど、第2章がキューバの諺を例に、国民性や生活を描き出しているのは、楽しいし読みやすい。
「眠りこける小エビ」
「世界は一枚のハンカチ」
「100年つづく災いはない」(それに耐える肉体も)
エラ・F・サンダースの『誰も知らない世界のことわざ』を彷彿させるが、諺を端緒に語られる、ハバナ市民の素の生活ぶりが楽しい。例えば、日本の七転八起に当たる諺を例に、キューバ人男性の”マスオさん”状態を紹介し、ヤドカリ生活っぷりや家庭の中での立場の弱さに同情し、かの国の結婚事情(6割強が離婚経験者)を解き明かす。
”「真の黒人の言葉」とは、口から出るものではない。(中略)軽く左ジャブを繰り出して、右ストレートで決めることだ。”
これは「良い木、良い日陰」という”寄らば大樹”という諺のクダリに出てた話だけど、要は黒人は力でのし上がていくしかないという厳しい世相を言っているのだろう。
「奴隷が死んでも」など、革命前を彷彿させる諺も残り、その中から生まれて来た「サンテリア」への信仰の章へと話は繋がっていく。
予想通り、魅力的な国だ。マクドナルドやスターバックスが、オビスポ通りに乱立する前に是非行っておきたいとは思うが…。