あふれでたのは やさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室

著者 :
  • 西日本出版社
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レビュー : 12
  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784908443282

作品紹介・あらすじ

奈良少年刑務所で行われていた、作家・寮美千子の「物語の教室」。
絵本を読み、演じる。
詩を作り、声を掛け合う。
それだけのことで、凶悪な犯罪を犯し、世間とコミュニケーションを取れなかった少年たちが、身を守るためにつけていた「心の鎧」を脱ぎ始める。
「空が青いから白をえらんだのです」が生まれた場所で起こった数々の奇跡を描いた、渾身のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 童話作家の著者が、奈良少年刑務所で「社会性涵養プログラム」の講師を務めた10年近くの経験を書いたもの。著者が担当したのは絵本を使った朗読や簡単な朗読劇、詩の作成と感想を述べ合う授業。

    対象となるのは実習場でも孤立しがちな、コミュニケーションが取りにくい少年たち。「落ちこぼれてしまった人たちのくる刑務所の中で、さらに一段と落ちこぼれてしまうトラブルメーカーでしょうか?」と著者が教育統括に質問したように、「選り抜きの難しい子」を対象としたプログラムである。

    少年刑務所は少年院と違い、17歳から25才までの重い犯罪を犯した者が服役している場所。教育者でもない童話作家の著者は、窃盗犯、殺人犯、レイプ犯と向き合っての授業に不安を覚え、デザイナーの夫と共に出席することを願い出てそのプログラムへ協力することを受け入れる。

    そんな著者に「わたしは、分断化された社会の上澄みで、きれいな水だけを飲んで、のうのうと過ごしてきたに違いない」と言わしめるほど彼らの生きてきた背景は想像を絶するほど過酷だった。しかし、授業を通して、友から優しい言葉を浴びて、全く無表情だった少年が微笑み、激しいチック症状がピタッと止まり、吃音が消え、ならず者の様な子が姿勢を正し、引っ込み思案の子が手を挙げる。硬く不器用な鎧を纏った彼らの奇跡の様な変化の様子は涙無くしては読めなかった。

    計186名、一人として変わらぬ子はなく、心を開くとやさしさがあふれ出て、何故ここに彼らはいるのか?と著者は思う。加害者になる前に彼らは被害者であり、適切な支援を受けられないままにここまで来てしまったことが、ほんの一行の詩や、頑なに押し黙っていた口からこぼれ出る言葉に痛いほど感じられた。表現すること、それが他者に受け入れられること。人間味溢れる熟練した教官達、熱意のかたまりの統括、先生夫妻に見守られてプログラムを受ける仲間たち。言葉の力だけではない「場と座」の力。これは少年刑務所ではなくとも通じる非常に深い情操教育の根幹に触れるルポルタージュでもあると思った。

    そもそも、奈良に越してきた近代建築好きの夫婦が、この明治四十一年に竣工された美しい赤煉瓦の奈良少年刑務所の建築に惹かれて見学に行ったのがこの少年刑務所との縁だったと言うから人生はわからない。また、講師を始めた時からこの建築物の保存を強く願って活動して来られた著者の働きがこの建物の保存に非常に大きな影響を及ぼしたことを知り、教育というソフトの面でも、建築物保存のハードの面でも深く奈良少年刑務所の環境を理解していた著者の記録は貴重だと感じた。

    「社会性涵養プログラム」の10年を通して、人間への信頼を深く呼び覚まされ、生まれた時からの悪人などいない、刑務所の中にいるのはモンスターではない、人は変われる…人間の根本はやさしい。そう心から信じられる様になった著者。それはこのプログラムに選抜された特に感受性が強かったり、発達障害を抱えていたり、場面緘黙の少年たちとのみ関わったからかも知れない。しかし、一番弱く虐げられた立場の子たちが劇的に変化することで、実習場の雰囲気も良くなり、毎回確かな変化があったことはまぎれもない事実だ。

    関連書『空が青いから白を選んだのです 奈良少年刑務所詩集』も読んでみたいと思った。「奇跡の」とか「涙無くして読めない」という言葉は、この様な本のために大切にとっておきたいなあ…としみじみと思わずにはいられなかった。

  • 先日、奈良少年刑務所の美しい建築を見てきたところだったので、読んでみた。やさしい光が建物と、心にも差し込んだ情景が目に浮かぶようでした。

  • 社会性涵養プログラム、実践の記録。

    その場にいるような、
    ともに歩んで、プログラムを重ねた先の風景を見ているような、
    不思議な感覚が呼び起こされました。

    彼らは何故罪を犯し、ここへ来ることになってしまったのか。受刑者の方々の背景や生育歴に、胸が痛みました。

  • 篤志面接委員の活動内容が詳しく書かれている。寮氏の文章は素晴らしい。少年達が少しずつ心を開いてくる様子は、息を飲む。
    教官の方々の優しさは、一般社会ではなかなか見られないものだ。

  • あふれでたのは やさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室。寮美千子先生の著書。奈良少年刑務所で実際に講義をされていた寮美千子先生のお話には心が打たれます。誰しもが起こし得る一度や二度の過ちを非難して責任追及するのは簡単だけれど、過ちを犯してしまった人が更生して立ち直るように支援することは誰でも出来ることではありません。寮美千子先生のような素晴らしい方が日本に一人でも増えることを期待します。

  • とてもよかった。受刑者の方の詩がものすごくよかった。教育というものの二面性というか、管理教育をきちんと受けるほどつまらない詩を書くようになってしまうのではないか、小学校に行かなければ誰でも詩人になれるんじゃないか、と思ってしまった。

    自分の性格にコンプレックスのようなものは、誰もが少なからずあると思って、それを不便な性格だったので直したかった、と素直に表現していたことに共感した。私も、小さい頃に小さなことでもうまくいかないことがあるとすぐにイライラして疲れていたので、ずっとその性格に頭を悩まされていたから。

    あと、受刑者の中にいる、笑顔が不自然な人やいばっている人、吃音の人、っていうのは一般社会でも見かけるなと思った。犯罪とは、悪の線引きであって、その線には達さないけど、犯罪の芽のようなもの、というのはみんなが抱えているように思えた。
    それを、犯罪になって罰せられるからという理由だけで押さえ込むのは、根本的でない。そもそもそんな気をおこさないようにした方が本人のためにも周りのためにもいい。この本に書かれていた詩や絵本などの自己表現とそれをうけとめるための授業は、犯罪とは縁のない普通の大人にこそ、必要なのではないか。

    感受性というのは、表現する場があれば、人生のどんなタイミングでもどんな人でも、やわらかく養われるものだと気づかせてくれた本でした。まるで、私たちひとりひとりの負の部分に丁寧にスポットライトを当ててくれたよう。教育に悩む人、子どもを持つ人、自分自身の性格を不便だなと感じる人に読んで欲しい。

  • 4/3の
    ニュース記事で
    大きな反響
    「おとうさんはいつもおかあさんを殴っていました」―。ネットニュースで話題です。

  • 2019/6/17

    327.85||リ (5階社会)

    刑務所は、凶悪犯や薬物中毒者などばかりで二度と更生できない人たちがいるところのイメージがあります。
    その彼らを絵本や詩を使って今までの生い立ちや自分の心に向き合う練習をするプログラム「社会性涵養プログラム」で新たな自分に生まれ変わっていく少年たちと、それを導き出す著者との交流の記録。
     犯罪者は社会に戻ればまた犯罪者になると決め付けず、彼らが育った環境や社会の中の居場所など考えされられる本です。

  • 「表現する」ことの重要性、「認める」ということの本質を、とても深く理解させてくれる内容。
    人は育つ...と、希望を感じさせてくれます。

    尊敬する先生の「おすすめ本」として知り、一気に読みました。

    少年刑務所とはいえ、一人ひとりの作品から浮かび上がる、それぞれの育ちの背景に、何度も胸が痛くなり...

    けれども、本当に丁寧な「安全・安心な環境」のなか、その子なりの「表現」を、皆で受け止める、時にはじっくり待つ...

    少年同志の、感想や言葉の掛け合いのなかに、お互いを思いやるコミュニケーションについて、たくさんのヒントを感じました。

    「認められる」と言語化していいのか、「自分のことを表現できるようになる」ことが肝心なのか、両方が必要なのか...

    その体験が、本人の次のステップへの後押しになっていることは、強く感じました。

    この本を読むまで、「引きこもり」に関する本を何冊も読んでいたのですが、対応する側の心構えは、とても共通しているように感じました。

    無意識に「評価」の言葉かけをしていないか...?
    自らを振り返る内容でもありました。

    すべての皆さんに、読んでほしい内容です。

    ※カバーの内側に、その美しい建築の写真が隠れていました。

  • 徳島3/9 寮美千子 トークライブ
    大阪3/13 寮美千子 トーク&サイン会
    大阪3/31 寮美千子 講演会
    西日本出版社 イベント情報
    http://www.jimotonohon.com/event/event.html

    西日本出版のPR
    奈良少年刑務所で行われていた、作家・寮美千子の「物語の教室」。
    絵本を読み、演じる。 詩を作り、声を掛け合う。
    それだけのことで、凶悪な犯罪を犯し、世間とコミュニケーションを取れなかった少年たちが、身を守るためにつけていた「心の鎧」を脱ぎ始める。
    一人の少年が書いたまっすぐな詩、「空が青いから白をえらんだのです」が生まれた場所で起こった数々の奇跡を描いた、渾身のノンフィクション。
    http://www.jimotonohon.com/annai/a1282_afuredeta.html

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著者プロフィール

作家。毎日童話新人賞、泉鏡花文学賞を受賞。『イオマンテ めぐるいのちの贈り物』(ロクリン社)『ラジオスターレストラン』(長崎出版)ほか著作多数。奈良少年刑務所にて「社会性涵養プログラム」講師を務めた経験から『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』(新潮文庫)、『あふれでたのはやさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室』(西日本出版社)などを刊行。

「2019年 『非暴力の人物伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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