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本 ・本 (394ページ) / ISBN・EAN: 9784908672316
作品紹介・あらすじ
北陸の大藩である加賀藩は、幕末政局において目立った動きを見せずに明治維新を迎えたとみなされ、加賀藩=「日和見」とのラベリングがなされてきた。しかし、それは正当な評価なのだろうか。本書は、加賀藩における政治意思決定のあり方や京都の政局への対応、さらに藩組織の改編や軍制改革、「西洋流」の受容などを明らかにし、そこから明治維新という変革の意義を積極的に追究していく。数ある藩研究の一事例にとどまらない、新しい藩研究を切り開く挑戦である。
感想・レビュー・書評
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幕末維新期の加賀藩を題材にして、(1)藩の政治過程における政治的意思決定の様相、(2)政策分析における藩の組織と軍事、を主なテーマとして分析する。
(1)については、加賀藩の支配層(藩主・年寄・家老)が誰であるかというのを詳細に明らかにしたうえで、その支配層が必ずしも一枚岩ではなく、相互に齟齬や対立を抱えながら政治決定をしていた様子を明らかにしていく。文久3年に、前田慶寧が上洛に慎重だったのに対し、家臣団は必要性を感じていて、最終的に上洛となったのはその一例である。鳥羽伏見の戦いにおける、京都詰家老によって、徳川家支持の藩是の変更が図られたのも同様である。
(2)については、農兵(銃卒)を身分制のなかにどう位置づけるかという話が興味深かった。ポイントは、①扶持を与えて召し抱えるかどうか(扶持を与えて小者格にすると武士身分となり、農兵ではなくなる)、②藩外の防衛に用いるか(藩内なら扶持を与えても武士じゃないという論理)、だったが、結局北越戦線に投入する兵力確保のため、扶持を与えて動員する傭兵的な軍事力となったという。身分制解体過程の一側面として、勉強になった。
さらに、本書では単なる個別藩の研究ではない、という位置づけを試みている。それはできているような、十分でないような印象である。「地域史が通史に従属するのではなく、相互的連関のなかで地域史が描かれることであらたな通史が紡がれていく」(p.358)というが、「あらたな通史」が結局どのようなものか、そこまではたどりついていないかな・・・という印象であった。
しかし全体としては精緻な実証分析にとどまらず、事例を一般化しようとしていた点(藩主の意思決定の構造的分析など)が印象的であった。詳細をみるコメント0件をすべて表示