彼岸の図書館: ぼくたちの「移住」のかたち

  • 夕書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784909179043

感想・レビュー・書評

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  • 「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」は、小さな古い橋を渡って、杉林を抜けたところにあります。川の向こう側の図書館ということで、「彼岸の図書館」を名乗っています。この「彼岸」にはもう一つ、「現世の社会や常識から、少し離れた場所」という意味合いも込めています。…ここでやってみてほしいのは、実はただ一つ、「現世(普段の暮らし)での立場、価値観、常識という鎧をいったん脱いで、立ち止まってみる」ことです。
    ー本文より引用

    奈良の東吉野村にある古民家。
    3.11後、街に頼り切っている生活に漠然と不安を抱いていた青木さん夫婦は、身体を壊したこともきっかけとしてありながら、兵庫県西宮市からその古民家に引っ越し、さらに自宅を私設図書館として開放した。
    かれらの暮らしは、側から見たら移住先で何か夢を叶えた、そんな風に見えるかもしれない。
    本書の副題も「ぼくたちの「移住」のかたち」とある。
    しかし青木真兵さん・海青子さんたちは当時の気持ちを咀嚼して語る。
    これは移住ではなくただの引っ越しであると。命からがら逃げ延びた先で、たまたま生まれたのがルチャ・リブロであるのだと。
    冒頭に引用させていただいたように、その場所は、夢と現実のあわいのような空間。
    真兵さんは、図書館を開くもそれはお金のためではなく、福祉施設で働いて生計を立てている。
    家兼図書館から職場に行く時、彼岸から此岸へと、渡り歩いていることを実感すると言う。
    この世は此岸。
    とてもあくせくした、漠然とした何か大事なことを考える余白もないような世界。
    そこから逃げ出した真兵さんたちは、時間の感覚も、引っ越してから変わったと言う。
    …私は物理的に彼岸には行っていないし、日々の生活を考えてみても此岸に居るという感覚だけれど、なんだか分かる気がする。
    病気になって、社会に参加できなくなってから…できなくなったけれど、そうなったことできっと何か意義を見出せると日に日に思うようになってきた今日この頃。
    毎日、普通?の人のように学校や職場に通ったり働いたりしていない環境は、どこか彼岸めいている気がする…ので分かる気がする、と書きました。
    でも心の方は早く社会に戻りたい、と焦っていた。いや、今でも焦っている。
    それが、本書の、青木さん夫婦やかれらが招く・訪れる方々の、きっと普段なかなかできないだろう語り合いを、対談を読んで、ああ、焦って私が思う社会とやらに復帰することだけが正解じゃないし、絶対必要というのでもないのかもしれないな、と思えた。私が生きていく選択肢が、増えたような。
    「働くと稼ぐ」の違いについての語りには興味深く読んだし、なんだか元気になったらやりたいあれこれを実践するために、何か参考になりそうな気がした。晴耕雨読の精神や、地に足を着けて生きるってことも。
    もしかしたらまた今後読み返すかもしれない、私にとっては重要な本かもしれないと感じた。

    実際は、私設図書館を開いてる人ってどんなふうにしてそれを実現したんだろうっていう興味があって(私設図書館を開くの、叶うか分からないけど将来の夢リストに入ってるので笑)本書を手に取った。
    でも本書の肝はそこじゃなかった。
    いい意味で予想を裏切られたかも。
    対談ではさまざまなことが語られる。
    「限界集落と自己責任」、十年後の日本のことなど、いろいろ考えさせられる。
    印象に残ったのは、「バーチャル」の反対語は、「リアル」ではなくて、ほんとうは「ネイチャー」だと思う、というところ。
    たしかに、私たちが今生きている世界は、VRなど通さなくても、もう既にバーチャルなのかも。
    足元は土じゃなくてアスファルトで、家の中も外も人工物だらけで。
    これ以上経済的な成長を求めるなら、地方が生き残る選択肢はなくて、シンガポールのような都市集中型にならざるを得ない。だから地方が生き残るためには成長するのではなく緩やかに降っていくのがいい、というのもしっくりきた。
    前々から少子化が、働き手が、と言いながら、なぜこの狭い島国のさらに狭いところに寄せ集めて、人口を増やさなきゃ、経済を発展させなきゃ、って追い詰められているんだろうと疑問に感じていた。
    それを論理的に、言葉にしてくれたなと思う。
    今、国が掲げている日本の十年後のさらに十年後には、地方創生も移住も存在しないだろうという考えには、具体的に想像できてしまってぞっとした。
    もうそんなに切羽詰まっていた。
    私は、日本全国踏破したぜ!全都道府県めちゃくちゃ愛してるぜ!というわけではないけど、このご時世お先が暗いし見切りつけたいと思っちゃうけど、やっぱり日本という全体を愛したい。
    せっかくこの国に生まれて、この国の文化が好きなので。隅々まで、できれば愛したいじゃないですか。
    同じ日本なのに、蔑ろにされるところがあってほしくない。それは人にも当てはまるのだけど。
    だから、どうしたら日本を大事にできるだろうと考えていこうと思う。いろんな人の話を聞いて、咀嚼して、自分で考えて…できる範囲のことをやりたいと。とても弱くて小さな範囲だけれど…
    本書で、移住の話からそこまで大きな話になるとは全く予想していなかったけど勉強になった。
    内田樹さんとの対談を読んでると、あっ、内田さんの著書前から気になってたけどめっちゃ読みたい…!と本気で思うようになった。
    一冊家に積読があるので、まずはそれから読んでみようかな。
    ルチャ・リブロも、一度でいいから訪れたい…!
    貸出もしてるって書いてあったけど、返す時も訪れて返す…?のかな?なかなか頻繁に通えそうにないけど(フットワーク激重なので;)。
    彼岸の空気を、まずは味わいたいな。

  • 青木氏と内田樹氏の対談が興味深かったです、「とりあえず、十年後の地方」の章はこれからの生活を考える上で必読ではないでしょうか。晴耕雨読の精神で頑張っていきたいなと思います。

著者プロフィール

青木真兵
1983年生まれ、埼玉県浦和市に育つ。「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター。古代地中海史(フェニキア・カルタゴ)研究者。博士(文学)。社会福祉士。2014年より実験的ネットラジオ「オムライスラヂオ」の配信をライフワークにしている。2016年より奈良県東吉野村在住。著書に『手づくりのアジール』(晶文社)、妻・青木海青子との共著『彼岸の図書館 ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房)、『山學ノオト』シリーズ(H.A.B)、光嶋裕介との共著『つくる人になるために 若き建築家と思想家の往復書簡』(灯光舎)などがある。

「2023年 『山學ノオト4(二〇二二)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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