資本主義リアリズム

  • 堀之内出版
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感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (212ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784909237354

作品紹介・あらすじ

「はっきり言わせてもらおう。たまらなく読みやすいこのフィッシャーの著書ほど、われわれの苦境を的確に捉えた分析はない」スラヴォイ・ジジェク

感想・レビュー・書評

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  • 高橋ヨシキ氏がインスタでポストしていたのを見て読んだ。2009年にリリースされた論考集なんだけど全く古びていなくて現在の社会の在り方について理解が進んだ。2022年の今でも事態が大筋では変わっていないことがとにかく辛い。2008年ごろに始まったことが悪い方向へさらにシフトしているのかとネガティブ思考に陥る一方で著者はカウンターの出し方を提示してくれていて少しは勇気ももらえた気がする。

     タイトルの「資本主義リアリズム」は資本主義が完全に世界をテイクオーバーし現実的には資本主義が最強でしょ?というネオリベ的世界観のことを言っている。本著では資本主義ひいては新自由主義が躍動する世界で何が起こっているのかを丁寧に紐解きながら、当たり前に受け入れている資本主義に対する懐疑的な姿勢を示すラディカルな本。こないだの参議院選しかり最近選挙に対するモチベーションが極端に落ちていて、それはあきらめの感情が渦巻いていることが原因だと思う。著者はそれを再帰的無能感と呼んでいてしっくりきた。
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    彼らは事態がよくないとわかっているが、それ以上に、この事態に対してなす術がないということを了解してしまっているのだ。けれども、この「了解」、この再帰性とは、既成の状況に対する受け身の認識ではない。それは、自己達成的な予言なのだ。
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     著者の特徴としては語りの中にポップカルチャーを混ぜ込んでいる点だと思う。相当硬い話なんだけど、自分が知っているカルチャーが論考に混ぜ込まれていると理解が深まる。さらに著者のポップカルチャーへのそのまなざしの鋭さにうなりまくりだった。特に「ボーン」シリーズの記憶にまつわる取り扱いを引きながら、現在の社会における一種の記憶障害的事象(日本でいえば「記憶にございません」)を語っているパートは圧巻だった。

     個人的に一番辛かったのは冷笑主義に対する論考。著者は官僚主義の中で隷属している人間は冷笑主義を身につけてやり過ごしているのであると喝破していて、それがまさに自分だなと思ったから。冒頭で話したあきらめは冷笑主義に近づいている気がして、どこかで変えなきゃいけないと思っていたのだけど、そもそも人生の大半を過ごしている会社でそんな態度取ってたら政治や社会に対して建設的な対応なんてできるはずないよなと。冒頭の諦めの気持ちの由来がわかって勉強になった。

     本著で語られている内容を全部理解できたかといえばそれは難しい。けれど当たり前に受け入れているものが当たり前ではない可能性を信じる。オルタナティブがあるのでは?と模索し続ける姿勢を忘れないでいたい。

  • わたしたち適齢期の若者たちのこの虚無感はいったいなんだろうか‪⋯‬。労働や消費や文化という枠組みについて、敏感な人たちはだいたい諦めている。それは資本主義以外の現実が存在しないことに由来するものかもしれない。ところどころ不親切で読むのに苦労した部分(イギリスの話とか、映画の話とかわからん。現代思想の知識も多少ないと厳しい)はあるが、この問題意識には100票入れたい。個人的には虚無だからこそなんでもやればいいんじゃないという気持ちがある。失うものなんかないし‪⋯‬。

    『ele-king』野田さんの書評。こちらも一読を。
    http://www.ele-king.net/review/book/006142

  • オルタナティヴを失い、格差の拡大や金融恐慌など様々な問題点をさらけだしながらも生きながらえる資本主義。
    ここで言及されるリアリズムはまさに今を生きる中での閉塞感を捉えている。
    スターリニズムが引き起こした害悪として語られていた虚構の目標という構造が、新自由主義により露骨な形で発露しているという考察は大変興味深い。

    スーパーナニー的傾向はSNSに限らず社会に潜んでいる。我々はどうこのリアルと向き合うべきなのか。

    このような鋭い論陣を張るマークフィッシャーが、すでにこの世にいないというのは残念だ。

  • 生きててほしかったな

  • オリンピックの失態を誰も責任が取れない体制についてモヤモヤと考えていたのでいい刺激になった。近田春夫の「調子悪くて当たり前」に続く何かを考えていく必要があると感じた。

  • 悪や無知を幻影的な"他者"へと振り払うことで否認されるのは、私たち自身の、地球規模に渡る圧制のネットワークへの加担である。

  • この本は論説ではなくエッセイです。現代社会は「新自由主義」が所与のものとしてもはや疑いのないものとなっていると指摘、そういう枠組みをどうやって変えていくのか筆者は読者一人一人に問うています。

  • 訳文の固さと前提知識不足もあり、たまらなく読みやすくはなかったが、それでも読み解ける端々を興味深く思いながら読んだ。
    資本主義を「この道しかない」と諦め、それが常態化してしまっている「資本主義リアリズム」の現代。

    資本主義は本当に効率的で「この道しかない」のか?組織の中でトップダウン的で形骸化した仕事はないか?
    そうした状況を諦め冷笑することによって、行動面ではそれらを受け入れてしまってはいないか?
    存在しない中央に誰もが責任を押し付けてはいないか?
    鬱病や倫理観は個人の責任ではなく構造的な問題ではないのか?
    ....

    解決策をくれるような本ではないが、資本主義の行き詰まりの鬱屈とした状態を的確に表現し、諦めずに打開しかなければならないと問題提起してくれる本。

    2009年のものらしいが悲しいくらい色褪せていない。

  • マークフィッシャーって鬱病でなくなったのか、残念です。めちゃくちゃおもしろかった

  • 現代人類の世界観、価値観、心理状況などを示した。こういった分析があるのに、今の日本での言説がどうしてこうまで視野が狭いのだろうと不思議に感じてしまう。この本を読めば、社会を考える時によく広められた話では、挙動できるといった意味合いでしかなく、テクノロジーの下部化からは何も逃れず、かえって逆効果なものが返ってくることが理解できる。”その”気分よく納得している(させられている)ものを蹴飛ばすことが、変わっていく条件の一つだ。また、「未来」という言葉よりも「将来」と考えた方が良いのではないかと思うようになった。もう満ちた面があるのに、もっとよくなるという気でいると、社会はなにも変えられないだろうと思ったからだ。過剰なものに対して、ボトムアップもトップダウンも無効だ。理想を語り合うのもいいが、排水溝の掃除みたいな意識もなければ多分、無駄なカロリーになる。

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著者プロフィール

1968年生まれ。イギリスの批評家。ウォーリック大学で博士号を取得した後、英国継続教育カレッジ、およびゴールドスミス・カレッジ視覚文化学科で客員研究員・講師を務める。著書に『資本主義リアリズム』、The Resistible Demise of Michael Jackson(2009年)、Ghosts of My Life: Writings on Depression, Hauntology and Lost Futures(2014年)、The Weird and the Eerie(2017年)。2017年1月逝去。

「2018年 『資本主義リアリズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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