それでも僕たちは「濃厚接触」を続ける!: 世界の感触を取り戻すために
- 小さ子社 (2020年10月27日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (162ページ)
- / ISBN・EAN: 9784909782069
作品紹介・あらすじ
世界よ、さわることを忘れるな――
新型コロナウイルスの出現は、いやおうなく、世界に「さわる」ことの意味を問いかける。
このまま人々は「さわる」ことを忘れるのか、それとも新たな「さわるマナー」を創出できるのか。
「濃厚接触」による「さわる展示」・「ユニバーサル・ミュージアム」の伝道師として全国・海外を訪ね歩いてきた全盲の触文化研究者が、コロナ時代の「濃厚接触」の意義を問い直す。
2020年5月~7月に小さ子社のweb上で連載された内容に大幅加筆。
さらに、2020年に国立民族学博物館の企画展で、さわって楽しめるように展示される予定だった民博所蔵の世界の資料60点を、紙上展示「世界の感触」としてカラー掲載。
感想・レビュー・書評
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新型肺炎の流行により、さわるという行為は濃厚接触とされ、さわる文化の衰退が加速した。視覚障害者にとって濃厚接触は当たり前の世界である。また視覚障害者でなくとも、さわることによって、新たな発見がありうる。特に国立民族学博物館にある展示品はさわることによって気づきが得られる展示品も多い。本書は濃厚接触にあたる、さわるという行為について考察した図書。とはいえ、文章は読みやすく楽しい。
さわる行為についての考察以外には、残念ながら感染症で中止となった企画展で選定されたさわれる展示品の紹介、そしてユニバーサルミュージアムについての今後の展望が語られる。さわる博物館であれば、視覚障害者等関係なく博物館を楽しめる。「見る」という視覚以外の博物館の楽しみがあることを知った。体験してみたい。 -
タイトルだけ読むと、コロナ感染防止のためソーシャルディスタンスと言っている人たちを批判する内容なのかと思ったが、全く違う。ちょっと誤解されやすいタイトルだな、と思ったのだが、読んでみると著者の、このタイトルへの思いが伝わってきていいタイトルだと思うようになった。
幼いころから弱視であった著者の広瀬さんは、13歳のとき全盲となり、中高を盲学校で過ごす。点字の入試で京都大学に入り、イタコや新宗教の研究をする。(新宗教は文字を媒介としない口伝、教典の暗唱が多い。)
その後博物館に就職し「さわる展示」ユニバーサルミュージアムの普及に取り組む。
順風満帆のようだが、日本史が好きで専門を決めたものの、古文書が読めない、たとえ点訳・音訳があっても漢文がどこまでわかるのかと途方に暮れたり、三療(按摩・鍼・灸)以外の職業の選択肢は相変わらず少ないなど、大変な道のりであったことが察せられる。
「さわる展示」と聞くと、目の不自由な人のためのものだと、私のような浅はかな人間はつい思ってしまうが、そうではない。触覚だけでなく、聴覚、嗅覚も使って展示を経験する。視覚に頼りがちな「健常者」に視覚以外の感覚世界の豊かさを感じさせるものである。
「障害/健常」の二項対立を乗り越えるのが目的で、多数派(健常者)の論理にインパクトを与えるものだという。面白そう。
「触文化」「見常者」などの語句も、なるほど、と思う。視覚に頼らない世界がいかに芳醇なものであるか、この本を読むとなんとなく感じることができる。
広瀬さんは、苦労話もユーモラスに描き、エネルギッシュで前向き。読んでいるうちに元気で前向きになれた。障害者とは、健常者とは何なのか、という話も非常に興味深かった。