新訳和泉式部日記

著者 :
  • 花鳥社
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レビュー : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784909832252

作品紹介・あらすじ

もうひとつの『和泉式部日記』が蘇る !

底本には、 広く通行している「三条西家本」ではなく、 「元禄版本」 (「扶桑拾菓集」収録本) を採用。
これまでにない新しい【本文】と【訳】で、「日記」と「物語」と「歌集」が融合した不思議な作品〈和泉式部物語〉 として、 よみなおす。

感想・レビュー・書評

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  • 『和泉式部日記』は、「日記」であり、「物語」であり、「歌集」でもある。

    もしも『和泉式部日記』が『和泉式部物語』なのであれば、物語の作者は誰なのか。和泉式部本人なのか、それとも後の時代の誰か、なのか。
    本書では、その結論は出してはいないのだけど、わたしはやっぱり和泉式部本人だと思う。

    現在、『和泉式部日記』の本文として広く使われているのは、「三条西家本」と呼ばれる写本(昭和6年に初めて紹介)なのだが、本書では「扶桑拾葉集」(元禄6年刊)という古典叢書の本文、『和泉式部物語』を採用し、その本文に基づいた「物語読み」を実践、現代語訳するという方法論を取っている。
    つまり、主語を「女」と「宮様」として明示し、三人称で書かれた「物語」の文体で訳しているのだ。

    しかしながら、わたしにはどうも、この三人称で訳された「客観的」な物語的読み方は味気なく、もうひとつ馴染むことができなかった。
    その理由のひとつに、客観的に描かれた宮様には、魅力を感じることが出来なかったことがある。和泉式部に対しての言動がなんとも幼稚。さらには嫉妬深いうえに煮えきらない……そんな散々な印象を受けてしまったから。

    このことで、以前に読んだ〈ビギナーズクラシックス日本の古典『和泉式部日記』〉もそうだったけれど、今までわたしは『和泉式部日記』の主語「女」を無意識のうちに「私」という一人称に置き換えていたことに気づいた。
    「物語」というよりも和泉式部の「日記」として、彼女の視点から読んでいたのだ。
    三人称を一人称へと近づけることによって、恋する和泉式部から見る宮様は、誰もが憧れる魅力的なプリンスとなってお目見えする。幼稚さは無邪気さに、嫉妬深さは一途さに、煮え切らない態度は慎重さへと変化する。
    2人の関係はとてもロマンチックなものへと昇華するのだ。
    恋は盲目ともいうけれど、恋する2人の熱情を伝えるのには、第三者的な視点は少しばかり冷静すぎたのではないかなぁ。
    もちろん良し悪しの問題ではないし、いろんな視点から作品を読めることができることは、とても大切な経験になった。

    和泉式部には「奔放な恋愛経験を、情熱的な和歌に歌い上げた歌人」というイメージがある。
    けれども本書での彼女は、「恋愛への志向のほかに、隠遁したい、出家したいという、孤独な思索への志向も強かった。孤独と絶望の純粋な結晶体であるかのような女は、心の支えとなる男性を必要としていて、常に頼りになる男性の庇護を求めている女性」でもあった。
    本書では同時代の作品『源氏物語』と読み比べを行い、そんな和泉式部と宮様の恋愛におけるやりとりに、『源氏物語』と重なる部分がかなりあるように説明されており興味深かった。
    だけどそれは、和泉式部に限ってのことではないのでは……と、ふと思う。
    女性の生き方に自由がなく、女性ひとりでは生きていけなかった時代では、男性との、特に高貴な身分の男性との恋愛に女性の意志などは関係なかっただろう。だとしたら、『源氏物語』の女君たちと似たような恋愛体験、もしくは相手に対する心情などは、彼女だけでなく誰にでもひとつは当てはまることだったのではないだろうか。

    和泉式部と宮様の恋愛は、『源氏物語』が書かれた時代よりも前ではあるけれど、『和泉式部日記』が書かれたのは『源氏物語』が完成した後である。
    そのことから、和泉式部は『源氏物語』に対して対抗心を燃やし、紫式部が未体験で自分だけが体験している「高貴な宮様との恋愛体験」を思い出として書いたのだという推論もあるらしい。
    でもわたしは、決してそんな気持ちで和泉式部はこの『和泉式部日記』を書いたのではないと思っている。
    それよりも、わたしは〈ビギナーズ・クラシックス日本の古典『和泉式部日記』〉で川村裕子さんが述べられていたように、
    「自分の恋人であった人が、亡くなった後に非難と中傷の渦に巻き込まれてしまう、自分と関係したことでゴシップの的にされてしまう、そして自分を守ってくれたばっかりに世間の人の冷笑と軽蔑の視線を浴びてしまう。
    だからこそ、宮と自分の、かりそめの関係などでない二人の恋の真実、世の中の誰にも祝福されない二人の恋の真実を書き綴っていこう。
    今はもう何も言えない宮、世界で一番優しかった宮のために……」
    という気持ちの方が大きかったのではないだろうかと思うのだ。
    それはまるで清少納言が定子のために書いた『枕草子』のように。

    どうしてもわたしは、和泉式部という才能豊かな女性が、日記と物語と歌集が一体となった希有な作品を作り出し、宮様を想う純粋な気持ちを世の中へと送り出したのだと信じたいようである。

    • myjstyleさん
      ワ〜イ♪ 地球っ子さんも読まれたんですね。
      共読本が増えて素直に嬉しい。
      地球っ子さんの感想を知りたいわけですよ。
      私の感想は、初めて...
      ワ〜イ♪ 地球っ子さんも読まれたんですね。
      共読本が増えて素直に嬉しい。
      地球っ子さんの感想を知りたいわけですよ。
      私の感想は、初めてこの作品を知った喜びでしたが、
      やっぱり違いますね。
      女を私に読み替えて様変わりする宮様像。これこそが恋する乙女心ですね。
      地球っ子さんのは女目線です。新鮮で、ふむふむと感心しました。
      2021/03/09
    • 地球っこさん
      myjstyleさん、お久しぶりです!
      こんにちは。 

      最近、某韓流スター(ドラマ)にはまってしまい、なかなか読書に時間がとれません...
      myjstyleさん、お久しぶりです!
      こんにちは。 

      最近、某韓流スター(ドラマ)にはまってしまい、なかなか読書に時間がとれませんでした 笑

      わたしもmyjstyleさんのレビューは、自分と違う見方だったので、とてもワクワクしました。
      やっぱりわたしは女目線だなと、myjstyleさんのレビューからも思ってたところです。

      和泉式部だって、定子だって、最初から愛が全てではなかったとは思うんですよね。
      自分が生きていくために打算的な部分もあったはず。
      もしかしたら、そちらの方が比重が重かったかもしれません。

      それでも相手と過ごすうちに、少しずつでも打算よりも愛の方に重きが置かれていったんじゃないかと、わたしは思いたいのです……
      いつまでたっても恋する乙女心が忘れられなんですよねo(>∀<*)o
      まあ、これも韓流ドラマの影響も少なからず受けてるとは思ってます 笑

      コメントありがとうございます♪

      2021/03/09
  • とても面白く興奮しながら読み進めました。「和泉式部日記」は日記、物語、歌集と異なるジャンルを融合した全く新しい歌物語ではないかと見立て、現在の底本である「三条西家本」ではなく、「扶桑拾葉集」を物語風に現代語化しています。浮かび上がる和泉式部像が新鮮でキュートです。敦道親王とのラブラブな交流にキュンキュンしてしまいます。折々に「源氏物語」との近似性に言及しているのも興味深い。もし、物語であるならば、21世紀文学に近い古典が新たに発見されたことになり、とても感動的です。

    • goya626さん
      和泉式部の和歌は素晴らしいですよね。実際にも恋多き人だったようですが、和泉式部日記はフィクションの部分も多いんですかね。
      和泉式部の和歌は素晴らしいですよね。実際にも恋多き人だったようですが、和泉式部日記はフィクションの部分も多いんですかね。
      2020/12/15
    • myjstyleさん
      goya626さん コメントありがとうございます。

      「日記」と言われるようになったのはS6以降です。和泉式部が不在にも拘らずリアルな描...
      goya626さん コメントありがとうございます。

      「日記」と言われるようになったのはS6以降です。和泉式部が不在にも拘らずリアルな描写があり、物語に近づいた文体であると指摘しています。北の方が去った後のスイートデイズの描写もないのは物語としての美意識でしょう。虚実皮膜ですね。
      2020/12/15
    • goya626さん
      なるほど。
      なるほど。
      2020/12/16
  • 元禄版本(和泉式部物語)がベース
    訳と評をたよりに読了。古文でも楽しめるようになりたい

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著者プロフィール

1955年長崎県生

東京大学文学部卒業、東京大学大学院修了。博士(文学)

現在 電気通信大学名誉教授

2020年4月から、NHKラジオ第2 古典講読「王朝日記の世界」を担当。

主要著書

『新訳 和泉式部日記』(花鳥社)

『新訳 更級日記』(花鳥社)
『和歌の黄昏 短歌の夜明け』(花鳥社)

『塚本邦雄』『竹山広』(コレクション日本歌人選、笠間書院)

『源氏物語の影響史』『柳沢吉保と江戸の夢』『心訳・鳥の空音』(いずれも、笠間書院)

『北村季吟』『三島由紀夫』(共に、ミネルヴァ書房)

『源氏物語に学ぶ十三の知恵』(NHK出版)

『大和魂の精神史』『光源氏の人間関係』(共に、ウェッジ)

『文豪の古典力』『中島敦「山月記伝説」の真実』(共に、文春新書)

『源氏物語ものがたり』(新潮新書)

『御伽草子の精神史』『源氏物語の話型学』『日本文学の眺望』(いずれも、ぺりかん社)

歌集『夢の遺伝子』(短歌研究社)

『楽しみながら学ぶ作歌文法・上下』(短歌研究社)

『短歌の話型学 新たなる読みを求めて』『小説の話型学 高橋たか子と塚本邦雄』(共に、書肆季節社)

「2021年 『新訳蜻蛉日記 上巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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