シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成

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  • / ISBN・EAN: 9784910063041

作品紹介・あらすじ

2010年に名著『イシューからはじめよ』を執筆し、2016年にはTEDxTokyoで日本の未来を「シン・ニホン」というコンセプトで鮮やかに示した安宅和人氏、2冊目の単著。著者はヤフー株式会社のCSOだけでなく、近年はデータサイエンティスト協会理事なども務め、政府に対しても多くの問題を提起している。慶應SFCの教授としても日々次世代を生きる若者に知恵を授ける日本の代表的知性が説く、日本逆転の一手とは。AI×データがもたらす時代の変化の本質と、それに個人、そして日本がどう備えるべきかを膨大な分析から解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    「イシューからはじめよ」の著者でもある安宅氏の著作。
    現在の日本に漂っている「このままじゃヤバイ」という一種の停滞感・倦怠感、そしてそこから脱却する為のシフトチェンジまでを見事にまとめた1冊となっていました。

    冒頭には、
    「いまの日本には不安と停滞感、現実を直視しない楽観、黄昏感が満ちている。悲観論や批判ばかりの人、危険を煽るだけの人も多い。」
    と、なかなか手厳しい一文が書かれていました。
    この国で働いているビジネスマンの誰しもが感じているであろう「謎の危機感」を、より一層煽るようなこの一文に、読んでいて一瞬で引き込まれました。
    文章は、「何故もっと現実に向き合い、建設的な取り組みやイニシアチブを仕掛けないのか?」と続いているのですが、本当に耳が痛い話・・・・
    自分でもそのような危機感を抱いているわりに、後回しにしてしまったり、どこ吹く風で毎日を惰性で生きてしまっている気がしました。

    このように、本書はなかなか芯を食っていて、痛いところをズバズバついてきます。
    「技術をテコに、世の中を刷新、アップデートできる企業に企業価値が生まれる」とか、「日本にはそもそもAI×ビッグデータの土壌が出来ていない」とか、「データ処理能力は勿論、人材ベースでも他国に遅れを取っている」とか・・・
    読み進めていくうちに、どんどん「え、日本やべえじゃん」と、絶望感が溢れてきてしまいます。

    また、日本の教育機関や研究機関の予算の少なさを挙げ、「こんな環境下では優秀な人材やテクノロジーは生まれない」と書かれています。
    僕個人としてはあまり感じたことはありませんが、研究職やエンジニアの立場からすれば、如何に日本は悪環境であるかが書き連ねてありました・・・・
    ですが、国としてもお金が無限にあるわけではないので、研究結果など費用対効果の悪いモノに対して大切な予算を組む事なんて、難しいだろうと思いもしましたが。

    では、どのようにすればそのような悲観的な未来から脱却する事が出来るのか?
    作中の「日本の勝ち筋」という項目でもまとめられていたが、簡単にまとめると・・・
    新たに何かを生み出すのはもう諦め、すでに生み出されているフェーズ1に乗っかり、それをカスタマイズするフェーズ2、それを実用化⇒展開していくフェーズ3で「追いつき追い越せ」といった戦法を取れとのこと。
    例を挙げると、「幕末⇒明治維新と似たような戦略をもう一度取れ」といった感じらしいです。
    要するに、「自分から新たなイノベーションを生み出す」という夢を一旦捨てて、「既にあるテクノロジーを使いこなしてカスタマイズできるようになる」という戦略にシフトチェンジしろ!といった事なのでしょう。

    日本という「国」ベースだと、あまりにマクロすぎてピンときませんので、一旦個人ベースに今後のアクションプランを落とし込んでみましょう。
    これからの世の中を生きていくために、自分は何をすべきか?
    言葉にすれば、とても簡単です。
    "誰かが創造してくれた新しいテクノロジーを、まずは毛嫌いせずに何でも受け入れてみて、それを充分使いこなせるようにチャレンジしていけば良い"。それだけです。
    現状に満足せず、スキルの刷新を心掛ける。
    自身のスキルを澱ませることのないように、新しいモノにまずは興味を持って取り掛かってみる。楽しんでみる。今までと違った環境にも順応しようと心掛けてみる。
    そのような気持ちで取り組めば、これからの時代もうまく生きていけるのではないかなと、やや楽観的に考えています。

    今後世界がどのように変わるのかは分かりません。
    "VUCA"と呼ばれるこれからの世界で幸せに暮らすためにも、これからも自身のスキルを磨くことは欠かせませんね。


    ・・・といった感じで、Reviewもやや暗いモノとなってしまいましたが、そもそも世のテクノロジーがどんどん進化してより良い世界になっていることって、人類にとってとても幸せな事なのではないでしょうか?
    なので、あまり悲観しすぎず、心配しすぎず、この幸せをまずは全身で受け止めてみようと思いました。


    【印象フレーズとアクションプランBEST3】
    誰かが創造してくれた新しいテクノロジーを、まずは毛嫌いせずに何でも受け入れてみて、それを充分使いこなせるようにチャレンジすること。


    【内容まとめ】
    1.単なる悲観論、それは逃げだ。
    自分たちが未来も生き続けること、自分たちが次の世代に未来を残す存在であることを無視している。
    本当に未来を変えるべきと思うなら、何故もっと現実に向き合い、建設的な取り組みやイニシアチブを仕掛けないのか?

    2.埋もれたままの3つの採用と情熱
    ・若い才能の3割は発掘されるのを待っている。
    ・女性の限りない伸びしろ
    ・65歳で「伐採」されるシニア層

    多くの経営者は日本の学校教育に期待していないと言いながら、自社も人材開発にリソースを投下していない。
    最大のリソースである人に投資することなく、どうやって未来を生み出すのだろうか?
    シニア層に限らず、あらゆる世代や属性の人に対して、育成や再生にまとまった伸びしろがある事は確かだ。

    3.生き残れるかどうかはイシューではない。
    日本には未来はないのだろうか?もちろんある。国なので、そもそも滅びてしまうことは稀だ。
    存在自体を問う意味ではなく、「これからもある程度以上に豊かな国でいられ続けるのか?」という問いについて言えば、ほぼNoであることは答えが出ている。
    ここまで見てきた通りの現状で、このまま経済的な推進力を失ってしまえば、この国はそれほど遠くない未来に半ば中進国になることが見えている。

    僕らはどのようにすれば、今の子供たちやその子供たち、また50年後、100年後に対してよりまともな未来を残すことができるのか?
    それこそがイシューなのである。

    4.日本の勝ち筋
    ・この国は妄想では負けない
    ・すべてをご破算にして明るくやり直す「スクラップビルド」の精神
    ・圧倒的なスピードで追いつき一気に変える「キャッチアップ」のスピード
    ・素材の癖や特徴を活かしながら、大きな何かを作り上げる能力

    5.よく言われる「AI vs 人間」という議論はほとんど意味がない。
    これまでもそうであったが、人間は生まれてきた技術は何もかも使い倒す生き物だ。
    技術を使いこなせるかどうか、つまりここからは、データやAIを使い倒せる人とそうではない人の戦いになる。



    【引用】
    シン・ニホン


    日本には不安と停滞感、現実を直視しない楽観、黄昏感が満ちている。悲観論や批判ばかりの人、危険を煽るだけの人も多い。

    単なる悲観論、それは逃げだ。
    自分たちが未来も生き続けること、自分たちが次の世代に未来を残す存在であることを無視している。

    本当に未来を変えるべきと思うなら、何故もっと現実に向き合い、建設的な取り組みやイニシアチブを仕掛けないのか?


    p31
    ・現代において、正しいAIの理解とは何か?
    「計算機×アルゴリズム×データ=AI」
    速い計算環境もしくは計算機に、情報を処理したりパターン学習したりするための情報科学技術を実装し、膨大な訓練を与えたもの。


    p43
    ・マッシュアップエコノミーの時代になる。
    サービスのパーツを全て自社で作り込む必要はなくなってきた。

    Uberは非上場スタートアップとして585億ドルという世界最大級の時価総額を誇る。
    サービスの最大の要である顧客とドライバーをマッチさせる部分でかるプライシングシステムは自社で握ってきたが、地図はGoogle マップ、通話はTwilioなど各社APIに任せた。

    何もかもをブラックボックス化して作る事で競争優位、競合の参入障壁を築く時代は終わりつつある。


    p57
    単にリアル空間でのスケールだけがモノを言う時代は終了した。
    技術をテコに、世の中を刷新、アップデートできる企業に企業価値が生まれるようになったのだ。
    iPhoneやイーロンマスクのやうに、「妄想し、カタチにする」ことが富に直結する時代だ。


    p77
    ・埋もれたままの3つの採用と情熱
    1.若い才能の3割は発掘されるのを待っている。
    2.女性の限りない伸びしろ
    3.65歳で「伐採」されるシニア層

    多くの経営者は日本の学校教育に期待していないと言いながら、自社も人材開発にリソースを投下していない。
    最大のリソースである人に投資することなく、どうやって未来を生み出すのだろうか?
    シニア層に限らず、あらゆる世代や属性の人に対して、育成や再生にまとまった伸びしろがある事は確かだ。


    p99
    ・データ×AI世界で戦うための3つの押えどころ
    1.様々なところから多様なビッグデータが取れ、色々な用途に使えること。
    2.圧倒的なデータ処理力(技術、コスト競争力)を持っていること。
    3.これらの利活用の仕組みを作り、トップレベルのサイエンティストやエンジニアがいること。


    p112★★
    ・生き残れるかどうかはイシューではない。
    日本には未来はないのだろうか?
    もちろんある。国なので、そもそも滅びてしまうことは稀だ。
    存在自体を問う意味ではなく、「これからもある程度以上に豊かな国でいられ続けるのか?」という問いについて言えば、ほぼNoであることは答えが出ている。
    ここまで見てきた通りの現状で、このまま経済的な推進力を失ってしまえば、この国はそれほど遠くない未来に半ば中進国になることが見えている。

    僕らはどのようにすれば、今の子供たちやその子供たち、また50年後、100年後に対してよりまともな未来を残すことができるのか?
    それこそがイシューなのである。


    p122
    ・AI-ready化とは?
    ボトルネックの正体は、企業を含むこの日本の社会は、そもそもAIなどを議論する、または活用する用意ができていない点だ。(=AI-readyではない)
    AI-readyな状況にするための人材育成や環境整備がまずはmustである。


    p130★
    ・日本の勝ち筋
    1.この国は妄想では負けない
    2.すべてをご破算にして明るくやり直す「スクラップビルド」の精神
    3.圧倒的なスピードで追いつき一気に変える「キャッチアップ」のスピード
    4.素材の癖や特徴を活かしながら、大きな何かを作り上げる能力


    p156
    ・運、根気、勘、チャーム
    「人としての魅力」の育成も大切だ。
    とりわけその人の魅力、すなわち「チャーム」が必須となってくる。
    「異人」であろうとなかろうと、チャーミングでない人が、人として愛され、人から信頼を得て、成功することは難しい。
    頼れる仲間を作るためにも、頭の良さ以上に「チャーム」は大切な生命線の一つだ。
    チャームこそが生きていく上において大切なものであることは、幼少期から育てられる側も育てる側も認識すべきである。

    →明るさ、前向きさ
    →エネルギー、生命力
    →心の強さ
    →信じられる人であること、人を傷つけたり騙したりしない
    →包容力、愛の深さ、心の優しさ
    →建設的な発言
    →ユーモア、茶目っ気
    →傾聴力


    p163
    よく言われる「AI vs 人間」という議論はほとんど意味がない。
    これまでもそうであったが、人間は生まれてきた技術は何もかも使い倒す生き物だ。
    技術を使いこなせるかどうか、つまりここからは、データやAIを使い倒せる人とそうではない人の戦いになる。


    p204
    膨大なことを細部まで知っているとか、決まりを正しく理解してそつなくちゃんとこなすなど、本質的にマシンのほうが得意な力を鍛える事にさして意味がない時代に僕らは突入している。
    これからの時代はむしろ、データ×AIの持つ力を解き放てること、その上でどのように感じ判断して自分の言葉で人に伝えられるかが大切だ。


    p285
    日本は国公立大学ですら十分なニーズペースの経済支援システムがないまま学費が年々上がり、ある程度の豊かさがなければまともな教育が受けられない傾向に拍車がかかっている。
    研究者を志望する人材が減ったり、海外の大学であれば得られる支援があるのだから、人材の流出が止まらないのはもはや仕方のない話だ。


    p292
    ・脱「選択と集中」
    多様性はある種、見過ごされがちだが最も大切だ。
    新しい未来創造、イノベーションは境界・応用領域から生まれるものであり、すでに成功しているところに投下するという「選択と集中」型の発想とは真逆の取り組みなのである。
    日本はついついすでに成功しているプロジェクトに後追い投資を過剰にしがちだが、それでは我々の望む結果を得られない。

  • まず日本のやばい状態に驚愕。

    まさかの負け続けの15年間。
    G7でGDPの伸びがドンけつの1.1倍。ちなみにアメリカは、2.37倍。世界的、経済的にパッとしてない、、、どころではなかった汗

    トヨタ、ソニーが世界を席巻したスケールゲームから、いつの間にやら、先行者有利のデータ×AIのゲームチェンジについていけていなかった。

    もうダメだ…

    と思いきや、日本人は新しく技術を生み出すのは苦手で、それを応用するのが得意な人達と言う。技術力の日本というイメージだったので、予想外。

    過去を見ると、明治維新や仏教の独自の発展がその応用力にあたる。そしてスクラップアンドビルドが得意。戦後の復旧や1300年も続けている伊勢神宮の式年遷宮を見ると納得。

    そしてSFアニメに見られる、妄想力。
    ドラえもんの便利アイテムの掛け合わせの発想力。
    日本のアニメで我々は英才教育を受けている。

    加えて、世界をリードした出口産業で、技術を使いたおして応用出来れば、日本人は、このやばい状態を脱却して、まだまだ世界リードする力を持っている!

    では、この強みを活かすべく何をすべきかについて、求められる人材とスキルの観点、未来を創る人をどう育てるかの観点、未来に向けた国のリソース配分の観点について書かれている。

    ここでも衝撃が続きます。
    産官学が連携することが、いかに大事かを理解しました。

    さて、本書で新しい技術の応用が得意という話で、空海さんが出てきます。以前読んだ「空海の風景」で、中国から密教を取り込んで、日本の仏教を一気に発展させた、まさに日本人のキャッチアップのうまさ(一気に追いついて、発展させる的な)に感心したことを思い出しました。

    そしてもうひとつ、つい1ヶ月ほど前に読んだ「風の谷」が出てきます。

    突然「風の谷」??でしたが、これはひとつのゴールを示しています。本書のメインテーマ、AI×データはツールなのです。課題を解決するためのツールです。持続可能な社会、SDGsを達成するためには、「風の谷」的発想が必要と説かれています。

    密を避けて、自然と共存しながら、発展した技術を使っているナウシカの住む「風の谷」を目指そうと、あります。

    対比として、特定の都市だけでしか人が住めない、ブレードランナーの世界観が出て来ます。緑ひとつない、人とアンドロイドがひと所に密集した、スモッグに包まれた薄暗くて緑のない未来。

    今の社会は、密=経済発展の源泉になっており、都市に人が集まっています。これを新しい技術を活用して、過疎や廃村を復活させて、密を避けながら経済をまわすという今にドンピシャな課題提起がされています(しかもコロナの前から)。

    でもこの課題を解決するには、現実的な問題が山盛りで、めちゃくちゃ難しい。今の経済と密の関連がとても深いことを思い知らされます。

    グレタさんが訴えるように、地球環境は危機的状況。日本は人口が減っていき、GDPは下がっていく一方。

    それでも世界も日本も、過去に何度も人口が1〜2割減る飢餓や疫病、戦争にさらされながら、生き延びてきたし、経済を回してきた。更に、その変化をドライバーに革新を繰り返してきている。

    人類の逞しさ!
    そして日本人の逞しさ!

    散々脅されますが、最後には元気付けられました。

  • 著者の安宅さんは、Yahoo! JapanのCSOをされている。東大で生物化学工学を学んだ後、マッキンゼーに入社、イェール大学で脳神経科学でPh.Dを取得し、再びマッキンゼーに復帰し、現職に至るという経歴を持つ。

    本書のタイトル「シン・ニホン」は、著者が2016年11月のTEDx TALKのときから使っていたワードである。
    <https://www.youtube.com/watch?v=G6ypXVO_Fm0>
    このYouTubeの動画では、比較的楽観的な感じで、フェーズ1では欧米のテックジャイアントにまったく歯が立たなかったが、いずれ確実に来るフェーズ2、フェーズ3では再び日本を立ち上がらせることができると宣言していた。何より「シン・ジャパン」の言葉が、「シン・ゴジラ」の最後につぶやかれた「スクラップアンドビルドでこの国は立ち上がってきた。今度も立ち直るだろう」という劇中のセリフを意識しているからだ。そのときから三年以上が経った今、著者の言葉には希望を重ねながらもいくばく焦りがにじみ出ている。三十年を超える停滞の末に、すでにG7の中では多くの一人当たりで示される指標においては最低位に甘んじる日本は、このままでは遠くない未来に中進国になってしまうと危惧している。

    まさに今そこにあるビッグデータとAIの時代。その世界で日本と日本人はどうするのか、というのが本書で語られる主題であり、また再び日本を世界のリーダーの一員にするのだという思いが本書に込められたメッセージである。世の中が、リニアからエクスポネンシャル(指数関数的)な成長曲線を描いて変わる時代においては、この三年という時間は長かった。多くのことが実際に目に見える大きさで変わってしまった。予想を越えていくのがこの時代の特性であるとはいえ、特に中国の台頭は想定以上で目を見張るものがあった。それでもまだ、時代は「確変モード」に突入したと言い、国際的な地政学の変化により、アジアに重心が移行する中で、今こそ日本にとって千載一遇のチャンスが来ていると鼓舞するのだ。なぜなら、日本には技術や生産技術面でのベースや先進性を取り入れるユーザ層が存在している。何よりモバイルインターネットもまずは日本で花開いたのを忘れるべきではない。そもそも明治維新でも戦後の復興でそうであったように、「スクラップアンドビルド」が得意な国民でもあるのだ。もちろん、そこには外圧やそうせざるを得ない環境があったのだが。だが、そう考えると今はそのときではないのか。

    そこで問題になるのは若い世代の人材育成だ。いや若い世代だけではないかもしれない。教育者、教育システム含めたアンラーンが必要だという。これまで学校教育の中で重視された覚える力に代表される「スポンジ力」よりも「気づく力」を引き出すようなシステムにしていかなくてはならない。また、国際競争力の観点では、同じ漢字という文字を使う日本語が母国語であることを強みとして、中国語に力を入れることも当然必要だろう。もちろん、いかにしてこれから80歳、90歳となる方も含めて高齢者を社会で戦力化するために、どのようにして戦略を立てて実行していくのかということが、世代を通した人的リソース戦略としてかなり重要だ。

    一方そういったことを考えるときに、かなり暗澹とした気持ちになるのは、著者も指摘するようにこの国の科学技術にかける予算の少なさであり、正しくそのことに連関する科学者に対する尊敬と待遇の低さである。思うに一時の過去のバブル期において、金融系を中心とした文系キャリアに比べて理系キャリアの生涯リターンの期待値があまりにも低く、一定の優秀層から科学技術系のキャリアを選択する動機を奪ったことにも遠因があるのではないだろうか。また博士号に対する世間的な評価の低さにも問題がある。その昔自分も親戚の伯母さんが博士課程にまで行って食えない人たちのことを例に挙げて、せっかく頑張ったのにああいう人になってはいけないよということを割と真剣に言われたことを思い出した。

    何にせよ国家レベルで見ると、公共機関の取組の中で、教育・人材開発と科学・技術開発がもっともROIが高い分野であることはこれまでの歴史の中で示されている。また、科学技術予算と論文数には強い相関があることがわかっているし、論文数も平たくいうと国際競争力につながる指数であることも数字で示されている。

    そういった意味で日本では、今こそ中長期目線での人的リソースと資本リソースの再配置が喫緊の課題となっている。
    「10年を超えるリスクを取れる機関は国や公的機関しか存在しない。今の日本の打ち手や取り組みはあまりにも目先の変化対応に寄りすぎている。過去ではなく未来に向けたリソースの振り直し、女性、貧困層、シニア層の解放、作るべき人材像(新しいリテラシー、脱マシン、異人ほか)と育成のあり方の刷新、これらを支える国家的な基金、若者に向けた年金システム、これらはいずれもこの変化の激しい世の中に合わせて、中長期的、もしくは未来に効くことを大きく期待したイニシアティブだ」

    2020年2月に刊行された日本の将来を語るこの本の中には、時期的にもちろんコロナについての言及はない。安宅さんの視点からは、このコロナショックを「スクラップアンドビルド」の機会だと捉えるだろう。移行は痛みを伴うものであったはずだが、コロナショックにおいて多くの個人や組織はすでに痛みをある程度は受け入れている。また国や公的機関がやること、政治に対してこれほど多くの人が注目したときは近年かつてなかっただろう。

    新型コロナによる経済的な影響がどのように決着されたとしても、この後も長い間影響は続くだろう。目先の対応だけに行動を左右されるべきではない。この後、若い世代にツケを残さないように増税を受け入れることも必要になってくるのだろう。大きな政府に向けて世の中が動くことに対して、既得権益を持つものに流されないようにしなくてはならない。マスコミの力や政治の力学や限界についてもよくも悪くも明らかになったし、東日本大震災のときと比べても、ネットの世界はよりリアルの世界とのつながりを深くしていた。
    新型コロナは、年齢の観点で高齢者に対してかなり有意により致命的で、若い者の多くは感染しても死ぬことは少ないとされたため、経済活動を止めて現在の弱者や将来に経済的な悪影響を与えるよりも、通常通りの活動を続けた方がよいのではないかという乱暴な議論もある。そういう議論が一面での少なからずの説得力をもって出てくることについて、このままではいけないのだという反省を持つ機会であるはずだ。

    また、コロナ禍は中長期的に見ると、著者が最後にプロローグとしておいた「風の谷」構想にとって追い風であることは間違いない。ひとつは都市密集型の大きなリスクが明らかになったことである。コロナ禍がいったんおさまったとしても、一度起きたこととして将来にまた同じことが起きる可能性が間違いなく高くなったことを示している。また多くの人の気持ちに感染症のリスクが浸透してしまったことは、社会および個人としての行動変容につながる。またもうひとつの大きな影響は、リモートワークがある程度の範囲で実践され、何ができるのか、またこれから何が必要なのか、技術および規制面から明らかにするための社会実験が図らずも行われたことだ。ある種の人びとにとっては必ずしも都心に住んで、毎日職場に通う必要はないということを、頭の中で考えるだけではなく、実践の中で確認できたのではないだろうか。

    著者が、もし新型コロナ禍後の今から同じ問題意識をもって本を書くとすれば、違った内容の本になったかもしれないが、コロナ前にその事態に影響されずにまとめられて公に出版されたものであるということにはまた意味があることだと思う。いやもしかしたら、書き直したとしても、よくよく考えた後に結局同じことが語られたのではないか。そんな気がしている。

  • 日本の未来について幅広く論じていて、著者の専門分野であるAI×ビッグデータから、日本の様々な現状を定量的に分析し、日本社会の新しい姿の考察までを含む骨太な1冊です。
    読んでいて、しみじみ教育の重要性と、今の日本の教育に欠けているものを感じます。大学教育が企業から当てにされていない時点で、もうかなり前に日本の大学は終わっていたようにも思うのですが。。

    「今後何をすべきなのか?」を考えるにあたって、「意味のある分析」をすることの重要性をあらためて実感しました。
    例えば、「東大の予算は幾らです」と言われても「ふーん」で終わってしまうと思うのですが、学生当たりに均して国際比較をすると「東大予算少なすぎじゃん!大丈夫?」となり、やっと議論が始まる訳で。これをやってくれているのが本著です。
    こういった、読んでいて自然に著者に同意して物事を進めたくなる構成は、さすがマッキンゼー出身、なのでしょうか。見習いたい限りです。

    また、人間とAIの違い(=今のAIの限界)の整理も非常に腑に落ちました。
    人間の知性の核心は「知覚」であり、AIにも特定のパターンを認識させることはできるものの、「意味を理解せず」「意思を持たない」AIには限界がある。
    知覚する力を磨き、「点と点をつなぐ」ジョブズ的な営み等々をしっかりやっていきたいものです。

    ちなみに、本著は内容は良いのですが、個人的には少し読みづらいところがあり、例えば、文章中に「②の…」と出てきて、その②がどこにあったかと言うと50ページちょっと前だったり。。
    編集さんが注釈入れてくれればと思うんですが、限界があるんでしょうか。せっかく注釈を入れるスペースが本著の下部にあるのに、カタカナ用語の解説ばかりに使われるのでは勿体ないなと感じました。

    少々分厚いですが、読み応えがあり、間違いなく問題意識を高められる1冊だと思います。

  • AI×データ時代の世界的な産業のゲームチェンジに日本がどれほど乗り遅れ、やばい状況にあるのか。色々やばいが、とりわけ科学技術分野の発展に不可欠な教育研究開発への投資が、他国と比べていかに日本は壊滅的か。冒頭で、ショッキングな日本の実情を改めて突き付けられる。

    しかし、こんな壊滅的な状況にある日本だが、再び復活するための伸びしろは十分にあると主張する。日本が乗り遅れたのはAI×データ時代の第1フェーズだが、、次にやってくる第2,3フェーズで巻き返せる余地があるという。

    そんな逆転を仕掛けるカギは、仏教の輸入や明示維新、戦後経済成長などにみられる、乗り遅れても一気に最先端に追いつく日本の伝統的なキャッチアップ力。その力を発揮して第2,3波で巻き返すために、データ×AIの力を解き放てる人材を育てるの重要性、そしてそこに投資を国家的に回すための現実的な方法を、多くのデータや概念図を用いて説明している。

    ここまで具体的な数々のデータを示しながら、問題の整理と現実的な解決策を提示していくのは、すごい仕事だと思ったし、自分自身、理系学生として、自分がどんな力をつけて社会に還元していくことが求められるかを改めて捉え直すとてもいい機会になったと思う。

    もともと、数年前から著者である安宅さんはこの本の内容を主張してきたらしいが、はやく本にまとめないとやばいですよ、間に合わなくなりますよ、と言われて本でしか届かない層に届けるために、と執筆が始まった一冊なんだとか。話題になっていたのは知っていたが、もう少しはやく読んでいたかった本。

  • (シン・ゴジラを知らないと)タイトルがちょっと分かりにくいけど、骨太の日本再生論。
    著者の日本を何とかしたいという熱い情熱がひしひしと伝わってきます。
    とにかく、自分も未来を創造する側になりたいと思えるし、
    何かアクションを起こしていこうと思わせてくれる本。

    自分が興味があったのは、著者の人材育成論や教育に対する考え方のところ。
    AIを使い倒せるベースの元、AIではカバーできない知覚を鍛えるべきというのは自分の元々思っていた考えともとてもマッチする。

    所々、良くも悪くもコンサル的だなぁと感じるところはあるものの、
    骨太な日本再生論は多くの人が読むべきマスト・バイな本であることには変わりない。
    みんなが少しずつアクションを取れば、日本も少しずつ変わっていくはず(かな)。

  • 日本の現状や問題点をグローバルな視点から指摘し、将来の日本をグランドデザインする。
    単なる村おこしではなく、具体的に地方をどのように活かすかという策を練る。
    それを実行するためには、若者の意識改革が必要であるが、若者自身が、日本はだめだという意識をもっていること自体がだめだ。

  • この国は、今すぐアップデートしなくてはならない。AI×データ時代に即した取組みが必要だ。教育・人材育成を刷新して、AIを使いこなし、生産性を向上させることで、いくらかの日本の課題を解決できるかもしれない。

    ただ大きな話が多く、私にできることは一体、、、、

    国のひとに読んでもらいたい本。

  • 現在の日本の惨状を明らかにして、今後日本を再生するためにどうしていけば良いかをまとめた本。
    437ページにわたる本で読み切るには時間がかかると思っていたが、非常にわかりやすくまとめられており、余り苦労せずに読み進めることが出来た。

    この本の中で特に自分が重要だと感じた課題は、日本の教育システムの問題と、高齢者に偏りすぎているリソース配分。
    教育については、他国同様に理数系の強化によるエンジニア、専門家の創出に長期視点で注力する事。
    リソース配分については、大学などの研究機関に
    重きを置き、高齢者よりも未来のある若者の持つ力を引き出す事、それによりその若者が活躍して余裕が出来る事で、寄付などにより更に次の若者へのリソースが投入できるようになる仕組みを長期視点で作り上げていく事が大事だと思う。

    リソースは過去の功績に対してでは無く、現在もしくは未来へのアウトプットに比例して配分していく必要性を改めて感じた。

  • 【星:5.0】
    この時代を明晰に分析して課題を浮き彫りにしたうえで、何をすべきか、そのためにはどのような能力が必要か、などなど説得力を持って説明している。

    さらに、内容の良さに加えて著者の輝き、勢い、熱意などが活字となって迫ってくる感覚を読んでいて感じる。
    背中を押してもらってやる気を鼓舞させるような1冊にもなっている。

    久々に大満足の1冊であった。何度でも読み返したい。

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著者プロフィール

慶應義塾大学 環境情報学部教授。ヤフー株式会社 CSO(チーフストラテジーオフィサー)
データサイエンティスト協会理事・スキル定義委員長。東京大学大学院生物化学専攻にて修士課程終了後、マッキンゼー入社。4年半の勤務後、イェール大学脳神経科学プログラムに入学。2001年春、学位取得(Ph.D.)。ポスドクを経て2001年末マッキンゼー復帰に伴い帰国。マーケティング研究グループのアジア太平洋地域中心メンバーの一人として幅広い商品・事業開発、ブランド再生に関わる。2008年よりヤフー。2012年7月よりCSO(現兼務)。全社横断的な戦略課題の解決、事業開発に加え、途中データ及び研究開発部門も統括。2016年春より慶応義塾大学SFCにてデータドリブン時代の基礎教養について教える。2018年9月より現職。内閣府 総合科学技術イノベーション会議(CSTI)基本計画専門調査会 委員、官民研究開発投資拡大プログラム (PRISM) AI技術領域 運営委員、数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度検討会 副座長なども務める。著書に『イシューからはじめよ』(英治出版、2010)

「2020年 『シン・ニホン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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