ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(上)
- NewsPicksパブリッシング (2020年9月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784910063102
作品紹介・あらすじ
分断と格差の時代に、「ファクトフルな希望」を示してみせよう。
経営者から科学者まで各界トップ絶賛の全米最新ベストセラー人類史、待望の邦訳!
「これほどの『希望』を感じて本書を読み終えるとは、予想もしなかった」
——ビル・ゲイツ(マイクロソフト創業者)
「いま世界にはびこっている排外主義は、必ず克服できる。私は本書で『何をすべきか』『何ができるか』を教わった」
——エリック・シュミット(Google元CEO)
「人類の進化論的な本質は『善』であり、共感的な文明を生み出せる。これほどタイムリーかつ見事な本はない」
——スティーブン・ピンカー(ハーバード大学教授/『21世紀の啓蒙』)
「進化の設計図(ブループリント)」を知れば、「分断」を乗り越えられる。
経済格差、人種、国家間対立……。今ほど「分断」が強調される時代はない。だがちょっと待ってほしい。こうした分断はなぜ起こるのだろう?
それは進化の過程で、私たちが「仲間」を愛し、尊重する能力を身につけたからだ。この能力こそが、世界の命運を握る最大のカギである。
そこで本書は、南極探検隊の遭難者コミュニティからアメリカのユートピア運動、果てはAmazon.comのスタッフコミュニティまで、古今東西のあらゆる「人間社会」を徹底検証する。さらにはサルやクジラなどの「動物社会」をも。
繁栄するのはいかなる社会か? そこには驚くべき共通点があった――。科学界からビジネス界まで、全方面から絶賛されたニューヨークタイムズ・ベストセラー、待望の日本語版。
感想・レビュー・書評
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著者のニコラス・クリスタキスは、医師で、イエール大学ヒューマンネイチャー・ラボ所長。専門はネットワーク科学、進化生物学、行動遺伝学、社会学、医学など多岐にわたる。2009年には『タイム』誌の世界で最も影響力のある100人に選出されている。
世界が分断される中では、どうしても人間の負の側面が強調されてしまう。しかし、そもそも人間は隣人を愛するようにできており、善き社会をつくるための特性を備えていると著者は言う。これらは遺伝子にコード化されているのだ。暗い世の中にあって、希望の光は私たち自身の中にあったようだ。これらの主張をさまざまなファクトで解き明かしている。
<概要>
米国をはじめとして世界では、大きな分断が生まれている。政治思想における右と左、都市部と郊外、富裕層と貧困層、マジョリティとマイノリティなど、さまざま軸で対立構造が生まれている。
このような状況では、どうしても人間性の負の側面ばかりが強調されてしまうことが多い。しかし、人間の本性には賞賛すべき点がたくさんがある。私たちは善い行いをすると、とても良い気分になれる。これは啓蒙主義的な価値観の産物だけではない。これは人間に備わっている本来からの特性である。
人間は本来的に、愛する、友情を育む、協力するといった人間性を持っている。それは遺伝子に書き込まれており、私たちはそれに基づいて進化してきた。世界中の人々はこの人間性と進化を共有している。
今、私たちの世界は両極に引き裂かれた状態にある。しかし、私たちは、隣人を愛し、善き世界をつくるためのブループリント(青写真)を携えて生まれている。それは人類が共有する遺伝子というインクで書かれたものだ。遺伝子は、人間の構造や機能、精神、行動のみを形づくるものではない。人間社会の構造や機能にも影響を与えるのだ。
人間が一致団結して社会をつくり上げる能力は、二足歩行と同様に、人間が生き延び、繁殖を助けるために身に着けた本来的な行動である。あらゆる社会の核心には社会性一式(ソーシャル・スイート)が存在する。これらは私たちが”できる”と同時に”しなければならない”何かでもある。
<社会性一式(ソーシャル・スイート)>
1.個人のアイデンティティを持つ、またはそれを認識する能力
2.パートナーや子どもへの愛情
3.交友
4.社会的なネットワーク
5.協力
6.自分が属する集団への好意(すなわち内集団バイアス)
7.ゆるやかな階級制(すなわち相対的な平等主義)
8.社会的な学習と指導
個人を認識する能力は全ての動物が持つものではない。これができるようになると、誰が自分を助けてくれたのか、そのお返しを誰にすれば良いかを把握することができる。時と場所を越えて長期的に記憶することもできる。この個人を認識する能力は、愛情や交友、協力といった互恵関係の構築に欠かせない。
パートナーや子どもへの愛情は自分の遺伝子を残すために重要であることは言うまでもない。同時に愛情はパートナーや子どもを越えて、血縁外の交友(友だち)をつくることも可能にする。さらには短期的な損得勘定を越えて、長期的な絆を築きあげることも可能にする。もし、私たちがその場限りの損得勘定だけでしか行動できないとしよう。そうすると短期的なメリットが得られない場合には、リスクを冒してまで他の誰かを助けるという行為は成り立たない。愛情は血縁を越えて交友(友だち)をつくり出し、さらには長期的な互恵関係をも生む。
それぞれの交友関係が結びつくことにより、より広範な社会的ネットワークが形成される。そうなれば、自分たちを援助してくれる輪はさらに広がることになる。こうして、相互援助が期待できる自集団への好意や忠誠心(内集団バイアス)は高まっていく。
集団内の地位は、”順位/支配力”による階級性と、”威信”による階級性によってつくり出される。順位/支配力による階級性は、体格の大きさや相手への攻撃力によって決まる。そのため、下位の者は、高い地位にある者と距離を置くことになる。一方で威信による階級制は、どれだけを相手に利益を与えられるかによって地位が決まる。そのため利益を多く与えられる者には、より多くの者が近寄ってくることになる。威信のある者は社会的ネットワークの中心に位置するようになり、下位のものがより多く結びつくことによって集団は強固なものになる。両者のバランスによって社会は形成されるが、人間は後者をより発達させている。
威信による階級制により、下位の者は上位の者から、より多くを学ぶこともできる。また、それぞれが学習で得た知識はネットワーク化された社会に蓄積されていく。そうすることで、集団はより高度な文化を持続的に成長させることができるようになる。
人間には、競争と協力、暴力性と情け深さという相反する特性を併せ持っている。社会の分断に直面している現代においては、どうしても前者の傾向が強調されてしまう。しかし、私たちには生まれつき隣人を愛し、善き世界をつくるためのブループリント持っていることを忘れてはならない。 -
これはかなり興味深い本である。
かつ、感想を書くのに慎重さが必要な本である。
分断を乗り越える、という宣伝文句とは裏腹にそれが容易ではないことを示唆する本である。
愛情や友情、ゆるやかな階級、協力といったいわゆる「社会性一式」は、所属する文化によって多様性があるのか、それとも相当程度普遍的なものなのか、が、本書の基本的な問いだてである。後者は要するにこれは遺伝か?ということでもある。
たとえば集団の最小単位、夫婦はどう成立したのか。
一夫多妻は一夫一婦よりも女性差別的なのか。
遺伝学の知見ではこれは簡単な問いではない。どちらがより女性の選ぶ権利を保証しているかも一概には言えない。
一般に農耕などで貧富の差が拡大すると一夫多妻が
広がる。すると持たざる男たちの集団秩序への挑戦が激化する(NHKの「ダーウィンが来た!」で妻と娘がマヌケなオスを見て毎回ケラケラ笑っているが、こっちは真剣である)。これを抑えるため、権力者が一夫一婦を制度化した最初の例は古代ローマのアウグストゥス帝だと言う。
実験ができないという社会科学の特性にチャレンジすべく、著者はなるべく偶発的に生まれた集団を探す。
試みられるのが過去数百年にわたる難破して島に流れ着いた人々の研究。リアルロビンソンクルーソー。
リーダーはどう生まれるのか、階級は、協調は。
上巻の最後は動物界の研究。夫婦間の愛情すらも子育てに最適化するための進化の帰結と示唆される中、下巻で本当に分断を理性で克服する方向に議論は進むのだろうか。
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これはやばい本だ。
読後のメモが止まらない!
人間には、全人類共通の設計図すなわちブループリントはあるのか?
という壮大な疑問の答えを探す旅。
人間とは何か?それが分かれば、たしかに現代の悲劇の数々は食い止められるかもしれない。
この旅は、途中で、「結論なんてどうでもいい」と思える程に、知的好奇心を満たす話題が満載。
読んでるあいだ中、なるほど!面白い!がずっと続いてる感じ。
あー面白かった。 -
社会の分断や差別など暗い話題がどうしても多くなるニュースを見ていれば、人間が本質的に備えているであろう人間性もまた暗いもののように思えてくる。しかし本書はそうしたイメージに対して、実は遺伝子レベルで善き社会を作ろうとする青写真(=ブループリント)が人間には存在しているという点を主張する。その点で本書のメッセージは、新たなる啓蒙概念を提示するスティーブン・ピンカーと近いものだと理解した。
遺伝子レベルに存在する人間性とは本当に存在しているのか?読者が当然抱くであろうそうした疑問に対して、本書は人類の歴史を辿りながら、一つ一つ実証的に議論を進めていく。当然、実験室の中で善き遺伝子を分析するといったことは不可能であるわけで、読み手としても本書を読んで全てに確証が持てたとは言い難い。
それでも本書が伝達しようとするメッセージには一定の正当性があると感じたし、善き人間性を遺伝子にまで翻って証明しようとするこのアプローチは面白いものであると感じた。 -
人間は社会性一式(ソーシャルスイート)という原則にもどついて社会を形成すればより善い社会を未来に向かって実現することができるという仮説に基づき、上巻ではコミュニティや結婚制度に関する科学的分析を紹介。
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学際的ながら、人類学、進化論、社会学などについて参照されている研究成果は良くバランスが取れ、著者が広いだけではなく深い学問的なバックグラウンドをベースに議論を展開していることがわかる。一方で、その影響もあってか、メッセージが拡散してしまっている印象も拭えない書であった。だが、人類に関する考え方を取り巻くいろいろな議論の整理として、一読の価値あり。
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人類が進化の過程で、より良い社会を作るための「青写真」を描く遺伝子を受け継いできたことを、自然科学・社会科学両面からのアプローチによって明らかにした一冊。
著者は、過去に形成された様々なタイプのコミュニティを検証し、それらの成否を分けたポイントが、著者の定義する「社会性一式」、つまり個人のアイディンティティ認識や家族への愛情、他人との交友や協力、社会的な指導と学習といった、社会の構成・維持に不可欠な8つの特性にあったと分析するとともに、一部の動物もこれらのいくつかを保持することをふまえ、人類を特別視せず生物の種の一つと考えれば、同じ種である人間同士で殊更「違い」を強調するよりも、普遍的遺産として受け継いできた社会性一式という「共通性」にむしろ着目すべきであり、人々は偏見や差別よりも互いに協力的であることこそが、進化論の観点からも合理的なのだと主張する。
人類が遺伝子的進化によって形成してきた社会の中で、人々が協力や学習といった相互作用を通じてさらに社会を進化させ、その進化をもたらす行動様式等が自然選択によって再び人類の遺伝子に組み込まれていくというフィードバック作用、いわば遺伝子的進化と文化的進化の共進性こそが人類発展のキーであるという著者の大局的かつ楽観的な視点は、自然科学vs社会科学、同質性vs多様性といったトレードオフを超えたジンテーゼとして、今日の分極化が進む世界に重要な示唆を与えてくれる。 -
子供でも内集団バイアスがある。
同じTシャツの色の子供に好意を示す
極めて若年であっても、人間は積極的な姿勢で交流するようにあらかじめ配線されているように思える。
他人の意をくむとともに、公正であろうと心を砕く傾向がある。
社会性一式
友情の絆の維持、ゆるやかな階級性の存在、個人のアイデンティティ意識の尊重