MEZZANINE VOLUME 5 AUTUMN 2021

制作 : 吹田良平 
  • トゥーヴァージンズ
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本棚登録 : 28
感想 : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784910352107

作品紹介・あらすじ

今号の特集テーマは「新高密都市」。
コロナ感染拡大初期の「都市の新関係論」特集で話題を博した前号から1年半……。最新号はMEZZANINEならではの視点でアフターコロナ時代の「都市のありよう」を示す決定版。「密」が敬遠されている今、コロナ収束後をにらんで、新しい近接・高密のカタチを大提言する一冊!イノベーションを踏み出す必要条件は近接・高密性にあり!?

話題の独立研究者・山口周氏、東京R不動産ディレクター・林厚見氏など経済学、経営学、社会学、都市計画の各分野から新進気鋭の研究者総勢30余名が寄稿!

世界中から新しい近接・高密のヒントとなる7つの都市を緊急取材!
ロンドン、コペンハーゲン、ポートランド、深圳、バンコク、メルボルン、下北沢を60ページで紹介。

感想・レビュー・書評

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  • 新型コロナウイルスのパンデミックにより「密」の回避が叫ばれ、リモートワークだけでなく、企業や住宅の郊外や地方への移転の動きがクローズアップされた。

    パンデミックは一時期の現象でありいつかは収束するであろうが、この出来事は、都市、とりわけ中心業務地区(CBD)にどのような影響を与えるのか(あるいは与えないのか)。

    本書では、この疑問に対して、経済学者、社会学者、都市学者、経営者や建築家といった実務家など様々な論者による論考を集積している。

    今回のパンデミックと一時的な都市からの逃避が我々に与えてくれたのは、集積、オフィス、コミュニケーション、クリエイティブ、イノベーションといった概念の本質を考え直すきっかけだったのではないかと思う。

    パンデミックの前から、クリエイティビティを創発するオフィス空間のあり方については、様々な取組み流されてきた。また、都心に集積することのメリットも、郊外につくられるキャンパス型のオフィスやワーク・ライフ・バランスの取れた小規模都市の魅力も、様々に語られてきた。

    しかし、どうもこれまでのそれらに関する議論が表層的であって、いざリモートワークを多くの業種が採り入れてみることで、Web会議でできるコミュニケーションと、対面であることの意味が大きいコミュニケーションの違いを考えたり、イノベーションを生もうとしてつくられた「〇〇センター」や「〇〇ハブ」の中にある成功例と失敗例の要因を考えたりするきっかけを、より多くの人が持つようになったのではないか。

    たとえば、本書の編集者でもある吹田良平氏は、ロジカルシンキングをベースにした組織的な業務の場としてのCBDと、周囲の人を「共犯者」に巻き込み、アイデアの創発や事業化の伴走をしてくれる人たちが集まるCCD(都心共創地区)の対比によって、その気付きを語っている。

    この気づきは、飯田泰之氏のビジネスモデル創造や部署間調整といった本社機能を集積させていく都市と、オンライン化可能な派生的業務の雇用規模縮小ととともに衰退していく都市の対比や、遠藤亮子氏の「偶然の出会い」と「意図して探す」情報や知識の対比にも呼応している。

    興味深いのは、これらの対比が、「東京と地方」や「中心業務地区と郊外」といった従来型の対比とは必ずしも連動しないということだ。

    地方都市であっても、地域企業の本社企業が集約している都市は、そこに新たなビジネスの創発の可能性を持っている。また、パリの「15分シティ」やバルセロナの「スーパーブロック」のように、住宅を含む多様な用途をコンパクトにまとめることで、都心部ではない地区でも実現できるクラスターのあり方も存在するということが、本書の多くの論者が挙げる事例から分かる。

    そして、「オフィス」という概念もまた、同様に見直しが求められる。かつては、「作業をする場」と「コミュニケーションをする場」が渾然一体となったものを、我々は「オフィス」と呼んでいた。しかし、リモートワークの実践を通じて実感されたように、価値創造の観点からは、「コミュニケーションをする場」の持つ力こそが、重要な要素となってくる。

    「作業をする場」は比較的静的で物理的な機能により評価できる環境であるが、「コミュニケーションをする場」は、物理的な環境だけではなく、そこに集う人々のマインドセットや空間の使い方のフレキシビリティが重要であり、また、そこを運営する人の力量も問われる。

    林厚見氏が書いているように、一定数の「やるヤツ」がいる環境では、その周りの人も巻き込まれて「やるヤツ」になる。ということは、創発的な都市とそうではない都市の差が、指数関数的に開いていくということにもなるのかもしれない。

    それらを念頭におくと、パンデミックによって都市の形が変わるとか、集積の時代が終わりバーチャルな交流にコミュニケーションの形がシフトするという単純な話にはならないということが分かってくる。

    オフィス不要論ではなく、オフィスに誰がおり、どのようなインタラクションが生まれるのかということが問い直され続けていくべきなのだろう。

    もちろん、その時の「オフィス」は、場所的にも建築的にも、これまでのオフィスの形態に捉われる必要はなく、様々な空間が「オフィス化」することにもなるだろう。逆に、オフィスの「カフェ化」、「街角化」、「公園化」という方向性でも考えることができるのかもしれない。

    「オフィス立地のピラミッドから、ワークプレイスの網の目へ」という山村崇氏の論考などが、そのようなイメージを提示していた。

    本書の中では唯一、人の移動の統制という少し異なった視点から論を展開していた山形浩生氏の論考も、興味深かった。

    今回のパンデミックによる様々な変化のうち、将来の都市のあり方に持続的に影響を及ぼし続けるのは、人の移動を制御する技術の発展と、都市への実装なのではないかという議論であった。

    建物への入館における資格認証や、接触履歴を含む行動追跡のための技術は、今後、人流統制の技術として引き続き発展し、都市の中に組み込まれていき、さらに監視するだけではなく、ある程度マクロなレベルで人びとの移動を制御する技術へと深化する可能性もあるという意見であった。

    今から20年後の都市は、見た目はそれほど変わらなくても、人びとの移動の枠組みは、それらの技術が作り出すアーキテクチャによって、統計的には制御されているような状態は、確かに都市の将来像として考えられなくはないと感じた。「スマートシティ」というのが、あるいはこのようなものだったのではないかとも思える。

    パンデミックから1年半を経て作られた書籍であり、ロックダウンによる脱都市化も、そこからの都市への回帰に対する欲求の波も経験した上でそれぞれの論考が書かれている。

    より長期的で、パンデミック前から潜在的にあった変化の流れも視野にいれた論考が多く、今後の都市の姿を考える上で、示唆に富む本であると感じた。

  • コロナと都市

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著者プロフィール

株式会社アーキネティクス代表取締役、MEZZANINE編集長
1963 年生まれ。浜野総合研究所を経て、2003年、都市を対象にプレイスメイキングとプリントメイキングを行うアーキネティクスを設立。都市開発、商業開発等の構想策定と関連する内容の出版物編集•制作を行う。主な実績に渋谷QFRONT、「グリーンネイバーフッド」自著等がある。2017年より都市をテーマとした雑誌「MEZZANINE」を刊行。

「2022年 『コミュニティシップ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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