- Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
- / ISBN・EAN: 9784915333644
作品紹介・あらすじ
旧支配者の復活と恐怖をめぐって、プロヴィデンスの街に起こる惨劇を描いたH・P・ラヴクラフトの傑作「闇をさまようもの」をはじめ、その後日譚を描いたR・ブロックの「尖塔の影」。太古よりの伝説の謎と恐怖がボストンの街に甦るH・ヒールド「永劫より」。R・E・ハワードが描く伝説の都アッシュールバニパルの玉座に眠る呪われた宝石をめぐる冒険譚「アッシュールバニパルの焔」など8編を収録。
感想・レビュー・書評
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何年間ぶりの世界観。やっぱり面白い。
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ラヴクラフトとブロックは、互いに殺し合うほどの仲でした。
ブロックは自身の作品の中でラヴクラフトをモチーフとした人物を殺した点について、事後許可を彼に求めました。ラヴクラフトは快諾し、更にユーモアたっぷりに「殺害許可証」まで作成したのです。
更にラヴクラフトはお返しとばかりに、後に書いた作品の中でブロックをモチーフとした人物をナイアルラトホテプに捧げました。
そしてラヴクラフトが没した後、ブロックはその続編を書いたのです。
7集は、そんな二人の友好関係から生まれた三作品を含む八編を収録。
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『星から訪れたもの』(ブロック/1935)
怪奇小説作家のわたしは、スランプから未知なるものを求めるようになる。そしてとある古書店である魔導書を手に入れるが、それはラテン語で記されていたために判読できず、わたしは友人に助けを求める。友人もまた稀覯書の魅力に惹かれて翻訳にのめり込み、そして記されている呪文を読み上げると――。
(ブロックが創作した魔導書『妖蛆の秘密』が初登場する作品だが、呼び出されたクリーチャーの描写も素晴らしい。ちなみに登場する異星より遣わされし従者は、後にTRPGにおいて「星の吸血鬼」と名付けられる。)
『闇をさまようもの』(ラヴクラフト/1935)
とある男性が自室で変死体で発見される。彼が遺した日記と客観的事実を元に明らかになった、彼の最後の数日とは――。
(ブロックの『星から訪れたもの』を受けて書かれた、神話作品では王道の、好奇心から身を滅ぼす話。執筆年で見ると、晩年の作品は「乗っ取られる恐怖」というテーマが続いている。)
『尖塔の影』(ブロック/1950)
ハーリイはプロヴィデンスで変死した友人の事件を追っていた。事件から数年が経ち、関係者の殆どが死んだか行方をくらましたかしたため、ハーリイが真相を掴むことを諦めかけたその時、デクスターという男が自身の住まいに戻ってきたことを知る。デクスターは友人が死んだ事件において、とある宝石を海に沈めた人物だった――。
(ラヴクラフトの『闇をさまようもの』の続編。ナイアルラトホテップのキャラクターを決定づけた記念碑的作品でもある。ブロックの「燃える三眼」の描写には驚かされた。「こうアレンジするか!」と。なお、作中で諳んじられた詩は『ユゴスの黴』というタイトルでラヴクラフトが実際に創作したもので、クトゥルフ神話の黙示的世界観を詩で表現するという試みがされている。)
『永劫より』(ヒールド&ラヴクラフト/1933)
不審死を遂げたボストンの博物館館長が遺した手記。そこには、博物館に持ち込まれたミイラと、その後に起きた変死事件の真相が綴られていた。一体、博物館の中で何が起こったのか――。
(その姿を見たものは石になってしまう。しかも石化するのは表面のみのため、内側にある体液や臓器、そして脳は半永久的に生き続ける生き地獄を味わわされるという、神話としてはオーソドックスだが、恐ろしく悍ましい存在を主軸とした物語。)
『アッシュールバニパルの焔』(ハワード/1936)
冒険家のスティーヴとアリは、棄てられた古都の奥に眠る骸骨が握る、燃え上がるような宝石の話を聞いてそれを目指す。やがて運良く古都に到着した二人は目的のものを発見するが、そこに因縁のある相手が部下を連れて乗り込んできて――。
(ハワードらしい冒険ホラー。ネクロノミコンからの引用といった描写はあるが、ラヴクラフトよりもスミスの作風に近い内容。なお、作中で登場する「カラ=シェール(暗黒の都市)」または「ベレド=エル=ジン(魔物の都市)」は無名都市の異称ともされるが、その廃都の描写からうかがい知ることはできない。)
『セイレムの恐怖』(カットナー/1937)
作家のカースンが新しく借りた住居にはある魔女の伝説の謂れがあり、周辺の住人から恐れられていた。ふとしたきっかけで地下の隠し部屋を発見したカースンはそこをいたく気に入り、執筆用の部屋として使うことにする。その後、悪夢を見た翌日にカースンは、彼の魔女の墓が荒らされ、死体が消えたことを知らされる――。
(カットナーが新たに創造した神格であるニョグタが初めて登場する作品。ラヴクラフトの『魔女の家の夢』の影響が伺えるが、ダーレスの同じような作品と比較すると、カットナーの色がしっかりあって良作に仕上がっている。ちなみに作中で女性がカースンに向けたハンドサインは「コルナ」と呼ばれるもので、一般的には侮辱的な意味を持つが、エンガチョのような魔除けや拒絶といったような意味もある。)
『イグの呪い』(ビショップ&ラヴクラフト/1928)
蛇神の伝説が色濃く残る地にある精神病院で、ある異形を見せられたわたしは、院長からその異形にまつわる話を伺うことに――。
(ヒールドの草稿を元にラヴクラフトが代作(その人に代わって作品をつくること)した作品。起承転結が素晴らしい。「そうだったのか」と思わせてのまさかのオチ。)
『閉ざされた部屋』(ラヴクラフト&ダーレス/1959)
祖父の遺言を果たしに、生前に祖父が住んでいた家を訪れたアブナー。そこにはかつて伯母が軟禁されていた部屋があった。祖父はなぜ自分の娘を恐れ、軟禁したのか。アブナーがその扉を開けたことで再び起き出した、祖父が恐れていた事態とは――。
(『ダニッチの怪』と『インスマスの影』をかけ合わせたような、ハイブリッドかつ神話作品としては王道のホラー。主人公がウェイトリー家の血縁者という設定にすることで、両作品の後日談的な仕上がりにもなっている。それにしても、ラヴクラフト&ダーレスものはダニッチを舞台にした作品が多い。)