国際的学力の探究―国際バカロレアの理念と課題 (国際化時代の教育シリーズ)

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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784915658082

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  • 「この種の学校(外国人学校、国際学校、海外日本人学校:角田注)の基本的性格は、端的に表現すれば、資本の有する国際性と人間存在を成り立たせている民族性の矛盾を緩和し調整する役割を課せられている点に求められよう。」(p.12)
    「たとえば、資本は、その国際性の実現に国家的支援を要する段階では、民族主義を標榜せずにはいない。また、人間存在は、労働力として海外動員されることにより、民族性剥奪の危険をも甘受させられることになるにもかかわらず、それが社会的エリート層にとどまるときには、それに国際性の獲得といった意味付与をしようとする。」(p.13)
    資本が時には民族的に振舞い、時には民族主義を裏切るさまを上手に表現している。
    「ヨーロッパ統合のための教育」(p.21)
    国家が国民統合のために教育を利用しているのであれば、EUもヨーロッパ統合のために教育を利用するであろう。日本にも、より広範囲な統合=日米安保条約を軸とした帝国を実現するための学校があっても良いのではないか。
    「・・・、資本の有する国際性が異文化接触の機会を増大させ、人間存在にそれに応じた国際性の獲得を迫る・・・。」(p.24)
    人格に国際性の付与が課せられたのは資本主義社会においてのみではないはずだ。
    「国際バカロレア資格は、a)在外子女、b)帰国子女、c)海外渡航予定子女の3者を想定し、学校間の移動(scholastic mobility)を容易にする目的で構想された。端的にいえば、国際的な活動を続ける者の子弟にとって、次々に各国の国民教育制度を渡り歩くことは至難であり、そこに国際学校の存在理由もあるわけであるが、その終了資格が各国の国民教育制度の側から認知されれば、困難はかなりの程度緩和されることになるわけである。」(p.40)「多国籍企業や国際機関は、各国の国民教育制度を含むナショナルな諸制度を、その行動を妨げる障害物ととらえがちである。」(p.44)
    人間が国境を越えて移動してゆく中で、国境が障害物となってきた。まるで、商業資本の発達が幕藩制を障害物ととらえた江戸時代末期=明治維新当時の日本のようである。
    「海外日本人学校は、次のような性格をもっている。・・・。第四に、教師集団は、必ずしも国際性が豊かとはいえない小中学校教師主体の集団であり、帰国対策の教育に強味をもち、そこに存在理由を求めがちである。」(p.221)
    国際教養科も「帰国対策」のみに強味をもち、そこに存在理由を求めがちなのではなかろうか?日米、日中などの2ヶ国をまたにかけて生きてきたことを尊重し、2ヶ国をまたにかけて生きていける力を保障する教育を目指すべきではないか?
    「・・・、「民族意識」や「民族主義」は、逆に植民地被抑圧民族の解放の原動力としても大きな力を発揮した。・・・。この歴史的できごとは、いわゆる「民族意識」や「民族主義」の積極的側面を浮かび上がらせ、それに関する評価を大きく混乱させた。」(p.227)
    民族意識や民族主義の負の側面にも注視しなければならないことを指摘しているのは卓見である。
    「・・・、日常生活の中で、生徒も教師も国際社会に生きるとはどういうことなのかを身をもって習得していく・・・。」(p.58/59)
    国際を頭に冠する学校はかくのごとくであらねばならない。
    「・・・、将来、帰属する国家、職業等においてきわめて多様な選択肢を有する青年・・・。」(p.77)
    帰属する国家に関する多様な選択肢は、帰国生等のみにではなく、すべての青年に保障されねばならない。民族選択に自由や、国家選択の自由を認めるべきである。さらには、憲法に保障された職業選択に自由が起業の自由を含むべきであるように、「起民」=民族創出の自由や、「起国」=国家創出の自由まで認めるべきである。
    「国際市民の養成」(p.88)
    『民主主義の終わり』=国家の終わり=国民教育の終わり。国家の黄昏とともに、国民教育も黄昏てきているのではないか。
    「・・・、評価は・・・、各々の学校や生徒に即して、その改善や発達を内在的に援助することがめざされている・・・。」(p.93)
    まとめれば、「評価は・・・生徒・・・の・・・発達を内在的に援助すること」をめざす、となる。地域の内在型発展論がある。生徒の、あるいは個人の内在的発達論があっても良いかもしれない。いままでの教育観は、外部からの注入型でありすぎた。
    「・・・、はたして民族性や地域性をもつ特定の文化財による教育を介することなしに普遍的に通用する学力を形成することができるのか、つまり、実質陶冶を介することなしに形式陶冶が可能であるのかということが問題になる。むしろ、特定の文化財を介してしか普遍的学力は形成されず、それによる形式陶冶の可能性は、その文化財自体の有する性格によると考えるのが妥当ではないのか。」(p.95)
    実質陶冶なくして形式陶冶できないところが、バイリンガル教育の難しさである。第一言語の獲得なくしてメタ言語の発達もありえない。
    「・・・国際バカロレア教育は、自覚的にしろ無自覚的にしろ、また一見客観的な体裁をとりながらも、結果的に一種の階級性をおびたものとなっていることは否定できない。」(p.96)「・・・、この課程(国際バカロレア教育の課程:角田注)は、・・・、ある特定階層の人間を前提とし、それに応じた人間形成をめざすものであることは否めない。」(p.97)
    国際バカロレア教育は、国際的エリートを育成するバイリンガル教育である。国際的(にならざるを得なかった)庶民を育成するバイリンガル教育はいかに有るべきか?エリート的国際教育の知見から何を学び、全人類的国際教育に活かすか?
    すべての教育はある特定階層の人間を前提とし、それに応じた人間形成を目指すものであるのではないか。今日の教育改革は、その前提と現実に教育を受ける特定階層とのずれを修正するものである。あるいは、修正するものであるべきである。
    教育の階層性。地域に根ざした教育。地域とはコミュニティーであり、地理的地域(コミュニティー)のみを指すのではない。地縁共同体ではなく、知縁共同体に根ざした学校となり、そのような学校の形成が知縁共同体の形成を促進するのである。
    「・・・、人間がある特定の社会で生きていくためには、その社会の中で伝達され共有されてきたいくつかの要素を習得することが必要である。それらの要素は、特定の認識、価値観、道徳的判断、審美的感性、技術・技能などであり、個人において統合され、その個人を社会と結びつける機能を有しているのである。また、学校で教授される知識は、必ず生徒の生活概念との連関を通して習得され深化されるものであって、生活の基盤をもたない認識一般・感性一般といったものは、本来、存在しえない。たとえ、認識や感性一般が語られることがあったとしても、生徒はそれらを自らの生活概念と連関させ、理解する。したがって、国際バカロレア教育は、いかなる場合にも、ある特定の国家、民族、階級の共有する固有文化との連関なくしては成立しえないのである。」(p.97)
    なぜ教育は地方性、民族性、国民性を帯びるのか?教育者側の国家・集団統制の意図とともに、学習者側の生活概念との関係がある。
    「“国際化”あるいは“国際人”という言葉の定義は難しいが、それらの言葉が意味している内容は恐らく、近代において国民国家が個人を囲い込んでいた時代から、各国の個人同志がそれぞれの関心、その他に基づき国境を越えて連携しあう状況が発生しつつあることと関連しているであろう。そのような状況においても国民性、国民文化というものは現に存続しているが、個人に注目する時、国民文化がもつ意味はその個人の個性の一部にしか過ぎず、個性の多様性の中でそれがもつ意味も、当然変わって然るべきである。そして、国際化の基礎をなす個人の関心は、各人の個性の現れであるから、それが個人の民族的帰属に拘束されなければならない必然性はない。」(p.208)
    学校が個人を囲い込んでいた時代も終わったであろう。個人が学校を、国家を、民族をどう活用するか、という時代に入りつつあるのではなかろうか。ケネディーが言った、大事なのは国家が君たちに何をするかではなくて、君たちが国家に何をするかだ、という時代は終わりつつある。個人と国家がギブアンドテイクで関係をもち、中世の主従関係のように、契約的関係に入っていくのではないか。そういう意味でも、21世紀は第二の中世になりつつあるのではないか。
    「・・・教員が確保できなかったという話・・・が事実だとすれば、新国際学校の計画以前に、まず教員養成の問題が問われなければならないことになるであろう。」(p.209)
    人は石垣、人は城・・・、教育も突き詰めれば人である。教育は人なり。

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