経営の思いがけないコツ

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  • 日本経営合理化協会出版局
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  • Amazon.co.jp ・本 (616ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784930838957

感想・レビュー・書評

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  • とても良い本。本当に、経営合理化協会の本は高すぎて手が届かない。。

    ・多くの人々を立派に使う法こそ、リーダーシップである。リーダーシップの要諦は、「自らの意図を明らかにする」ことであり、それを最も効果的に発揮する法は明文化である。だから、「やる事が山のようにあって自ら経営計画書を書くヒマが無い」というのは大きな誤りである。

    ・GM再建のためにアルフレッド・スローンは1日に5軒から10軒の割合でアメリカ全国のディーラーをまわった。その為に鉄道の車輛を1台借り切って事務所に改装し、10年をかけた。そして直接ディーラーに会い、彼らと会社との関係、製品の性格、会社の政策、消費者需要傾向、将来についての見解、その他自動車事業に関係のある多くの事柄を聞いた。当時はT型フォードの最盛期で占有率60%。それに対してGMは占有率12%しか無いガタガタのボロ会社だった。その中で、ディーラー訪問により、単一モデル黒一色だった自動車生産側の理論一辺倒で顧客の声を無視していたフォードの弱点を突く戦略を打ち出した。つまり、
    ①ニューモデルを次々に出し、フォードのT型を心理的に陳腐化する。
    ②結果必然的に発生する中古車市場を再編成する。
    この現代にも通じる壮大な戦略はスローンの十年にも渡るディーラー訪問から生じたのである。この事は、社長の定位置は社長室では無く「お客様のところ」であることを雄弁に物語っている。

    ・独占禁止法により、大日本ビールは二つに分割されアサヒビール(東日本)とサッポロビール(西日本)になった。「企業の力は企業規模の二乗に比例する」のが市場原理であるから、大日本ビールの力を100とするとそれぞれテリトリーは半分に、力は1/4になってしまった。当時は限界生産者に過ぎなかったキリンビールは全国をテリトリーにするという有利な立場に棚ぼた式に置かれたため急速に売り上げを伸ばし、ついには60%の占有率を手に入れてしまった。

    ・「シンデレラ」とはこちらから呼びかけて注文をもらった仕事ではなく、先方で何かやってもらいたい仕事があり施行先を探して声をかけてくる「先方からの飛び込み仕事」である。余程でない限りそんなことはないから、この注文主だけでなく同様の要求が満たされないでいるお客様が意外な程多いと予想できる。

    ・多くの社長さん方は、自らの定位置を社長室だと思い込んでいる。時々社内を見回っては、社員の仕事ぶりを見ている。一生懸命仕事をしている社長から見ると社員の欠点ばかり目に映る。これを、社長は我慢できない。そして小言を言う。来る日も来る日も、これを繰り返している。そして、それが社長として最も大切な仕事だと思いこんでしまう。お客様のことなど、「遠い他国のことだ」と言わんばかりである。
    なぜ、このようなことになってしまうのだろうか。その理由は簡単、誰も社長の役割など教える人はいないからである。
    それでも勉強家の社長は、「経営書」に目を通す。そこに書いてあることは、100%会社の内部に関する事ばかりである。そのために、社長は、会社の内部だけを管理する事が経営だと思いこんでしまうのである。経営書と称するものの大部分は、事業経験のない人が書いたものである。当然のこととして、内部管理以外には何も知らないのである。

    ・今にもつぶれそうなS社のただ一つの長所は染色技術の確かさである。製品価格を検討してすぐ気付いたことは、製品によって大きな価格差があることであった。こういう事が起こるのは、得意先の規模による事がほとんどである。調べてみると案の定、大手向けの製品の工賃は極端に低いのに総売上高に占める割合が高かった。
    零細企業のほとんどは、加工技術は持っているが、販売力は「ゼロ」に等しい。それで不思議なことに、大企業にばかり売って、中小企業にはあまり売らない。理由を聞いてみると判を押したように、「中小企業はつぶれる公算が高いから売りたくない。大企業ならつぶれる心配が無い。」という返事が返ってくる。「つぶれることを心配するのは大企業の方で、あなた方のような零細企業がつぶれないか心配するのだ。」とガチンと言っておく。

    ・清潔とはきれいにする事ではない。清掃することでもない。それは、
    ①いらないものを捨てる
    ②いるものを捨てない
    ことである。
    整頓とは、片付けることでは無い。片付けたら、仕事にならないからである。それは、
    ①物の置き場所と置き方を決める
    ②管理責任者を決めて表示する
    ということである。

    ・F社は、私にとって一生忘れる事ができない会社である。社長は、「私は、民主経営をやっています。そのために、4人の部長に部長会をつくらせて、経営に関する重要事項を討議させ、結論が出ると私のところへ上がってまいります。私は、それについて決裁をしているのです。ところが、最近、その部長会の活動が不活発なので、一倉さんに教育して頂きたいのです」と言う。
    私は、開いた口がふさがらなかった。社長の考え方自体が長期赤字の根本原因である。事業経営とは市場活動である。市場をまったく知らない社員に、どのように市場活動をやらせるのか。そんなことは不可能である。
    世間で言われている民主経営とは、実は民主管理である。経営の対象は企業の外部、管理は企業の内部である。経営と管理をゴチャゴチャにしているのである。
    私は4人の部長に数分間会った。部長会でどんなことをやっているかを聞いたのである。部長会の議題は、一年半前から就業規則の改定と賃金制度の再検討であった。これなら何十年でも議論の種はつきない。なぜこんなおかしなことになってしまったのだろうか。
    人は、宮仕えの身で、とんでもないトンチンカンな責任を上司より負わされた時に、どんなふうに行動するだろうか。これは心理学の領分である。それは、必ず責任回避である。会議、稟議、これが最もカッコイイ、そして深く企業に浸透してしまった責任回避法である。

    ・「一倉さん、私は亡父のあとをついで正真正銘の社長になりましたが、それについて質問させて頂きます」と、切り出した。「一倉さん、社長として一番先にしなければならないことは何なのでしょうか」名社長として、二十年近くやってきた社長のご質問が、これだったのである。
    これは、社長の職務や経営に対する質問でないことは明らかである。I社長の肩にズシリと乗っている故会長の責任を引き継いだことに対する、社長のご質問なのである。
    私は、このご質問を受けた時に、無限ともいえる社長の責任の重さを感じた。そして、何もかも知っている社長のご質問に対する私のご返答というのは、「お客様のところを回ることでしょう」というものだった。私は、背中にビッショリと汗をかきながら、ご返答申し上げたのである。

    ・年計とは
    平成8年12月の年計=平成8年1/1~12/31の累計
    平成9年1月の年計=平成8年2/1~1/31の累計
    平成9年2月の年計=平成8年3/1~2/28の累計
    というように、一ヶ月ずらしでまるまる一年間の売り上げを累計したものである。どれも12ヶ月の売り上げを含んでいるから、月々の特殊事情や季節変動の影響をけし、傾向のみを掴むことが可能になる。

    ・ランチェスターの法則は、物量法則であるために計量化が可能である。それには、二つの前提条件がある。
    ①彼我の武器効率は一緒である
    ②地域戦の法則であって、総合戦の法則ではない
    武器効率が一緒だからこそ、ランチェスターの法則は使い物になるのだ。この論理的大欠陥がなければ、まったく使えないのである。
    例えば旧日本陸軍の『作戦要務令』の中にある”戦捷の要”には「戦捷の要は有形無形の各種戦闘要素を綜合して、敵に勝る威力を要点に集中発揮せしむるにあり」まさに、一点の欠陥もない完全無欠の論理である。完全なるが故に、実戦では全く使い物にならないのである。忙しい戦場において、すべての量的、質的条件を同時に考える事は、まったく不可能である。ところが、ランチェスター法則では「量的な条件のみを考えればよい」というのだ。だから、戦闘では、量的条件を、敵に勝るものにすれば、量的なことはまったく考えなくてもよくなってしまう。そして、司令官は質的条件だけを考えればよいのである。

    ・売り場を一巡してみて呆れてしまった。家具什器類は何もかもある。什器類では、スモーキングスタンドからマガジンラック、シガレットケースから、額縁まである。さらに、ベッド、カーテン、ナイトスタンド、絨毯、その上に子供用自転車から滑り台まであるのには呆れてしまった。当然のこととして、品種ごとのアイテムはきわめて少なかった。いわゆる「田舎陳列」である。
    「あなたのところは、問屋の方で何もかも主義で大ピンチに陥り、私がこれを重点主義と商品のグレードアップで建て直してあげたはずだ。その時に、何もかも主義はいけないことを学んだはずだ。それを、なぜ繰り返すのか」と、まずはお説教である。これに対して、「小売店は違うと思いました」という社長の答えである。
    「バカ言え。その証拠に売れないじゃないか。お客様は見比べて買うのだ。見比べるものが無いのでは、お客様は買ってくれないのだ」と教えてやった。
    大型店で一番売れるのは婚礼セット、二番目が鏡台と順位が決まっているのが家具小売業である。T社は市内で売場面積がナンバー4なのだから、工夫を要する。まず、婚礼セットのアイテム数を競合3社のうちのナンバー1よりアイテム数を多くするのだ。これを売り上げの上位から決めていき、スペースが無くなった所で打ち切る。数量を決めたら次に質的条件として、プライスゾーンは競合他社より1~2割高くする。

    ・日本の自然な経済圏は江戸時代の藩である。富山市には飛騨出身者が多く、親戚も多い。だから高山を攻めるには、同じ岐阜でなく富山から攻めるのが正しい。城下町であった都市は保守的で、宿場町であった都市は開放的である。城下町でも御三家のあった名古屋、水戸、和歌山は今でも独立した経済圏を形成していて、県内の経済とうまく溶け合わない。

    ・私は言下に反対した。社員教育などいくらやっても効果などまったくないことを知っている私である。いわく、一人一人が経営者。私は、こういう言葉は嫌いである。このようなことを社員に要求する方が間違っているからである。だから、こういう社長をいただく会社は、必ず業績不振である。
    いったい、社員にいくらの給与を与えているのか、と問いたい。ろくな給料も出さずに、経営者の姿勢を要求するとは何事であるか。そのくせ、社長自身は、社長の仕事など何もやっていないのだ。
    私がこの貴重な紙面を借りて、こんなことを書くのは、どこへ行っても、いついかなる時でも、偉い先生方の言うことは「人材待望論」で、こちらは頭にきてしまっているからである。
    一口で言うと、「会社の中には人材など一人もいないのだ」という認識こそ大切である。「人材は大切だから、人材教育をしなければならないのだ」と、また、こうくる。まったく困ったものだ。バカも休み休み言ってもらいたい。教育の必要性を感じるような社員は、いくら教育しても人材になる見込みなどないのだ。
    では「一体どうしろというのか」ということになる。ところが、その人材候補がどこの会社にも一人いる。その一人とは、社長その人である。社長はどうしたら良いか。誰も助けてくれない、教えてくえれないのだ。ここまで考えてきたら、社長はハラを据えて、死に物狂いの努力をする以外に方法はないことを肝に銘じなければならないのである。すると、ここに思いがけないことが起こる。社長の必死な姿、その後ろ姿を見て、発奮し、懸命になって社長の後を追いかける社員が必ず出てくる。そして、そのような社員が優れた人材となっていくのだ。

    ・世の中に広く行われている管理職訓練では「部下を人前で叱ってはいけない」と教えている。そして、その例に出てくるのが清水の次郎長である。次郎長は子分を絶対に人前で叱らず、そのために子分から慕われたというのだ。
    「クソもミソもいっしょ」とは、このことである。ヤクザという組織には鉄のおきてがあるのだ。この罰則がなければ、組織は崩壊してしまう。だから、これらのルールは必ず守られなけれならず、もしもルールを守らない人間がいた時には、必ず人前で叱らなければならない。人前で叱ってはいけないのは「個人的なこと」なのである。

  • 20/5/1
    事業経営とは「市場活動」である。

    多くの人は、経営とは「内部管理」のここと思っている>的外れ

    日常の次元の低い繰り返し仕事の合理化指導>何の勉強にもならない

    塵を払わん、垢を除かん>シュリハンドク

    目標は、その通りにいかないから役に立つ

    数字は目標と実績との差を読むこと>正しい読み方

    会計的な原価計算は的外れ

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著者プロフィール

1918(大正7)年、群馬県生まれ。36年、旧制前橋中学校(現在の前橋高校)を卒業後、中島飛行機、日本能率協会などを経て、63年、経営コンサルタントとして独立。「社長の教祖」「日本のドラッカー」と呼ばれ、多くの経営者が支持した。指導した会社は大中小1万社近くに及ぶ。1999年逝去

「2020年 『ゆがめられた目標管理 復刻版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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