いつかかえるになる日まで

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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784938280338

作品紹介・あらすじ

2009年に亡くなった栗本薫の未発表原稿が発見された。今までの栗本薫作品とは全く異なる童話的世界。異才北沢夕芸の描き下しペン画28点収録。

感想・レビュー・書評

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  • 今日、児童書コーナーでこの本を見て、「えっ!」と思わず手にしました。
    作者は栗本薫さん。
    あの栗本薫さんが児童書を書いてたなんて知らなかった・・・。
    同姓同名じゃないのか?と疑いながらも読む事にしました。

    この本には4つの童話が収録されています。
    最初の話「せかいいち 大きなおべんとう」はほのぼのした、いかにも童話というお話。
    山のがっこうのいちねんせいのくまくんは山のふもとにわすれてあった大きなおべんとうをみつける。
    それからくまくんはこの大きなおべんとうが誰のおべんとうなのか、学校の生徒や先生に聞いていく。

    他の3話、「いつか かえるに なる日まで」、「おたまじゃくしが死んじゃった」、「てんごくへ いった ざりがに」は生と死を考えた、いかにも栗本薫さんらしい話だと思いました。
    もちろん、子供用なので分かりやすく書かれていますが、根底に「滅びの風」で見たような栗本さんらしい生死論が語られていると感じました。
    この3話を見て、ようやく「これ、あの栗本薫さんの書いたものだ・・・」と思えました。
    どこまで疑り深いんだか・・・。

    私がこの本で感動したのは、作品の後の解説文。
    その解説によると、この本に収録された話はどれも出版されるのを目的として書いたものではなかったのだそうです。
    ただ、自分の息子に語り聞かせようという気持ちだけが栗本薫さんに書かせたもの。

    『七夕の短冊に「赤ちゃん」と書いて授かった我が子。(略)それほどに溺愛していた息子のために、この物語は書かれました。
    たぐいまれな才能をもちつつ、一方であまりの感受性の鋭敏さのために不安定な情緒と強いストレスに悩まされていた栗本薫は、母親の役割には決して向いているとは言えませんでした。(略)それでも、彼女は息子だけのために、この物語を書いたのです、まだ人生のスタート地点に立ったばかりのわが子のために。』

    この文章が胸に響きました。
    栗本薫さんって子供がいるイメージって全くなかった。
    作品からも全くそんな香りが漂ってこない。
    そういう人が子育てをするということ、そしてクールで才女だと思われたイメージとは違う、あふれるほどの我が子への愛。
    七夕の願いに「赤ちゃん」だなんて・・・何て、感性でしょう。
    何て愛情深い言葉でしょう。
    今までとは違った栗本薫さんの一面を見れた気になりました。

  • (No.13-48) 栗本さんの遺作。

    1988年5月から6月にかけて執筆したもの。
    出版するつもりも無く、まだ小さな息子に語りかけるためにだけ書いたのだそうです。

    全部で4話。
    最初の「せかいいち 大きなおべんとう」を読んだ時は〈童話ってこういうものでしょう?〉と普通のお母さんが書きました、という感じがしました。
    作家としてではなく私的に書いたものだし、そんなものなのかなあと思ったのですが・・・・。

    2話目は孤独がテーマ。
    3話目の「おたまじゃくしが死んじゃった」で愕然。
    4話目も死を扱ったもの。
    これをまだ小さな子どものために書いたのか。「せかいいち~」ではいわゆる童話を書こうと無理してたのかもしれない。
    筆が進めばやっぱり栗本さんは栗本さんのお話になってしまうのだわ。
    もし、亡くなる少し前に病室で書きましたといわれれば、私は納得してしまうでしょう。
    栗本さんはこんなに前から死が頭から離れなかったのかな。
    まだ小さな子を育てながらも、こういうものを抱えて人生を送っていった栗本さんの心を思うと切なくてたまらなくなります。

    でもきっと今岡さんが、息子さんと栗本さんを両方しっかり見守って暮らしたのでしょうね。
    濃密な人生を駆け抜けていった栗本さんは、幸せだったのだろうと思いたい。

    読めてよかったと思うので、出版してくれてありがとうと言いたいです。

  • 「せかいいいち 大きなおべんとう」、「いつか かえるに なる日まで」、「おたまじゃくしが死んじゃった」、「てんごくへ いった ざりがに」の4編。全体に童話だが、「おたまじゃくしが死んじゃった」の内容は難しめの内容か。私としてはぐっときてしまった。もっとも、内容としては値段が少し高いか。普段値段は気にしないようにしているのですが。

  • これは出版するつもりもなく、栗本薫が自分の息子のために書いた童話なんだそうです。
    子供向け童話なので、ひらがなばっかり。すぐに読めてしまいますが、内容は濃いです。子供向け、とありますが手加減ありません。素晴らしい。つくづくこの才能が無くなって(亡くなって)しまったのは残念に思います。。。
    イラストも良い感じです。

  • この本は、息子さんが産まれた時に彼の為だけに書かれたもの。出版する気はなかった物を、何故旦那さんが出版したのかはわからないのですが…。
    最初の「せかいいち おおきなおべんとう」は、通学途中のくまくんが大きなおべんとうの落とし物を見つけ…という、ともだちいいな!なほっこりするお話。
    あと3作「いつか かえるに なる日まで」「おたまじゃくしが死んじゃった」「てんごくへ いった ざりがに」は、なんていうか、遺していかなければいけない息子さんへの手紙っていうか、遺書みたいな感じでちょっと読んでるの辛いです。
    って言っても、書かれたのは1988年で最初の癌である乳がんになる2年前の事なので、なんか予感めいたものがあったのか、それとも本当に我が子に生命について語りたかっただけなのか…。
    今となっては確かめようもないんだけど。

    「だれにでも みんな それぞれの ときというものがあるの
    そうして それは ひとつでは ないのよ
    その ときが こないうちは
    だれも むりをしては いけないの
    いそぐことも あせることもないの
    ゆっくり ゆっくり のぼっていきなさい
    あなた ひとりの あなただけの
    とき を たいせつに」

    「いつかかえるになる日まで」より。
    なんだか心に染みました…。

  • 幼児向けかな。
    栗本 薫が、自分の子どものためにだけ綴った物語。
    多分、子どもが経験したり、これから経験するであろうと母親である栗本 薫が、感じていたいろんなことが入っています。

    でも、ときどき、ドキッとする言葉あって、この母が子どもになにを願っていたのかが伝わってきます。

    そのままのキミでいて。
    現状の全肯定は、子どもにとってはとても大切な宝物なのだと思います。

  • 栗本薫がわが子のために残した話だそうです。
    一作目のお弁当の話はほのぼのと皆仲良く的な児童文学。
    二作目は成長の遅いおたまじゃくしが皆それぞれの成長の仕方があるんだよ、かえるになるのが遅くてもそれはそれでおたまじゃくしの時間を長く過ごせるから大丈夫だよ、と個々を認める物語。
    三作目は飼っていたおたまじゃくしの死を悲しむ息子に母親が生き物は死ぬ定めなのだ、それがいつかは分からないけれど生きている時間をちゃんと生きることが大事なのだ、と教える物語。
    四作目は行方不明の夫ざりがにを探す途中で事故死したざりがにが天国の神様の元で夫と再会して幸せに暮らす物語。

    前二作で明るく生きる姿を語った後、三作目で子供に生と死を真っ向から胡麻化しなく語り、最後に死後の安寧を語る…。
    我が子に母親の死を母親が自分の言葉で残す、悲しみや辛さをぶちまけるのでは無く理で語る姿に栗本薫の凄さを今さらながら感じました。
    この物語群を書きながら子供に生きる意味を教えようとしたのだろうか、成長してこの物語の意味が分かるようになったら『母親は与えられた時間をしっかりと生き切った』と感じられるようにこれらを残したのだろうか、と色々と考えてしまいます。
    子供への最後の大きなプレゼントだったのでしょうか。
    …幼い子供にはやや大きくて重過ぎる感じもしてしまうけれど。


    『グイン・サーガ』は私の中で夢枕獏のキマイラシリーズと並び『途中まで読んでいたけれどシリーズが長過ぎて続きが読めていないが続きが気になる本』なのでいつかまた再挑戦したいなぁ、と懐かしく思いました。スカールさんが好きだったなぁ。

  • 栗本薫が我が子へ贈った物語。
    親の思いがたくさん詰まっている。

  • 栗本薫が自分の子どものために書いたお話。
    冒頭の「せかいいち大きなおべんとう」は、ほのぼのとかわいいお話だったが、後半のおたまじゃくしや、ざりがにのはなしは、哀しい。
    こんなお話をプレゼントされた子どもはつらい。

    栗本薫って、本当に生きていくのがつらい人だったんだろうなあ。だから、自分の子どもも心配で心配で…。

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著者プロフィール

東京都生まれ。早大卒。江戸川乱歩賞、吉川英治文学新人賞受賞。中島梓の筆名で群像新人賞受賞。『魔界水滸伝』『グイン・サーガ』等著書多数。ミュージカルの脚本・演出等、各方面でも活躍。

「2019年 『キャバレー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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