光る風

制作 : 内田 樹 
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (616ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784939138768

作品紹介・あらすじ

「今日の日本」を予見した衝撃のポリティカル・フィクション、 山上たつひこの傑作漫画『光る風』の完全版! !(解説=内田樹)

感想・レビュー・書評

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  • がきデカで有名な山上たつひこの初期代表作。

    漫画に関する本によく出てくる、幻の名作のような印象だったが、きちんと再出版されていたので、読んでみた。

    伝説の漫画だったので、妄想の方がハードルを上げてしまったのだろう、少々しんどかった。

    肌触りとしては、手塚治虫の暗い大人系漫画(MW、シュマリ、きりひと賛歌など)を熱血に、刹那的に、そしてストーリーをとっ散らかした感じ。

    とにかく熱い、筆者23歳だからだろうが、肩に力が入りまくっている。
    酔っぱらったおじさんに何度も同じ説教されているような気分になり、読んでいて少し疲れる。

    権力という巨悪、独裁政治はなんでも力でねじ伏せてくる。
    それに対抗する主人公達は小さく弱いが、行動し、立ち向かう。

    テーマが少し分かりずらく、複雑に、逸話が飛び散らかるので、何をこの主人公は抵抗していたんだっけ?と散漫な印象が残る。

    そして、徹底的な暴力、権力側はすぐ人を殺してしまう。虫けらのように。
    ここがもう少し大人に、陰湿に表現できると、権力の恐ろしさが分かりやすいと思うんだけど。
    高校の不良とかみたいに、ヤクザかヤンキーのように表現されてしまっている。

    なによりも良いのは、あとがきの内田樹。
    的確にこの漫画の本質を言い当てている。

    この漫画が描かれた70年は、まだ戦後25年程度、軍国主義へ、日本がいつ戻るのか、朝鮮戦争を経て、ベトナム戦争へ、冷戦の構図の中での緊張感があったのだろう。

    ただ、一方で、学生運動の情熱先行のなれの果てを歴史として知ってしまっているリアル世代ではない私からすると、少ししらけてしまうというか。
    やはり、その時の空気を感じて、リアルタイムに読んだ人こそ、この漫画を読み返して、またしみじみと価値を感じられるのだと思う。

    現代でも世界では非常に不条理な政治、世界がごろごろある。
    人権のないような国、勝手な倫理感で、親族に殺されたり。民族紛争のように、いままで一緒に暮らしていた仲間が敵味方になって殺し合うような残酷な世界。

    そのようなリアルな不条理な世界が、この漫画を荒唐無稽と呼べるだろうか。
    この漫画の書く、非人間的な強者の論理、弱者からの恐怖感はいまでもリアリティを持っている。

    こういうテーマの漫画を描き、少年誌に発表していたというのは凄いことだなと思う。
    歴史としての価値はかなりあると思う。

    ただし、やはり漫画としてのエンターテイメント性としては、ストーリーや絵柄を洗練させて欲しい。

  • 今の日本、結構こんな感じじゃない?フィクションとしてディストピアとして割り切るには、あまりに切実であった。

    ここから作品とは無関係に壮大な読後感。

    この作品を読んで、主人公側を否定し権力側が正しいと思う人は、ほとんどいないのではなかろうか。しかし、現実において権力に対し怒れる少数派は冷笑され、意見ではなくその存在を希釈される。そしてそれは、大多数の「無関心」な層からなされるのだ。
    もう一つ忘れはならないのは、本作のようなディストピアは「悪」からなるのではない。善悪ではなく、極に振れることでなるのだと思う。人の世は揺らぐ。だからこそ、どちらかに行き過ぎれば戻すことを繰り返し、揺らぎながら前に進むのだ。

  • ううむ。厚さが4センチ強もある力作。
    正直な感想は「なんじゃこりゃ」。
    山上たつひこ版「カムイ伝」とでも言おうか。
    先の戦争のことのようで、今どこかで起こっていることのようで
    これから起こることのようでもある。
    なるほど。「現在」「過去」「未来」はどの順で並べても変わらない、
    という帯ネームはその通りなのか。
    若松孝二監督の「キャタピラー」(乱歩の「芋虫」)に影響されてると思われる個所が印象深い。
    個人的には「奇形」のパートをもっとぐりぐりいってほしかった(笑

    しかし三島の「豊穣の海」シリーズを読んでおる最中だというのに何を読んどるんだ私は。どーゆーチョイスじゃ。

  •  あのがきデカの山上たつひこがこんな異色な漫画を描いていたなんて知ったときは衝撃だった。
    私の中では、全人類必読の書

  • 1970年、23歳でこれをかいたのはすごい。しかも「少年マガジン」に連載していたとは。まるでその後の日本の行方を占うような、戦慄の内容だ!

  • 二十数年ぶりに再読。がきデカの山上たつひこが、それ以前にこんなハードな作品を描いていたのかという衝撃が当時はあったが、中年オヤジになった今読み返すと、掲載からまもなく50年になろうとしているのに、社会情勢がこの劇中に限りなく近くなりつつあることに驚きを禁じ得ない。

  • たまたま憲法記念日の朝に読了。勢いと焦燥感が塊でガツンと来る、著者23歳の初期代表作。近未来デストピア。

    帯と序文の「過去、現在、未来」。そう、ひとは愚かな生き物なのだ。イデオロギーもんだいより、空気に支配される感が恐ろしい。主旨主張した者からバタバタ倒れてゆく。主人公もまた…

    打ち切り扱いだったそうだが、順調だったらどのような結末が用意されていたのだろうか。

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著者プロフィール

山上たつひこ
一九四七年徳島県生まれ。出版社勤務を経て漫画家に。代表作は、『がきデカ』『光る風』『喜劇新思想大系』など多数。特に『がきデカ』は社会的にも大ブームとなり、掲載誌の「少年チャンピオン」を少年誌初の二百万部に押し上げた。一九九〇年、マンガの筆をおき、本名の〈山上龍彦〉として、『兄弟!尻が重い』『蝉花』『春に縮む』などを発表。 二〇〇三年より、再び〈山上たつひこ〉として、小説『追憶の夜』(のちに『火床より出でて』と改題)を発表し、漫画「中春こまわり君」を描く。最新刊は『枕の千両』(小説。小社刊)。原作を担当した『羊の木』(いがらしみきお画)で、二〇一五年文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞。

「2017年 『大阪弁の犬』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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