バウルを探して〈完全版〉

著者 :
  • 三輪舎
4.61
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本棚登録 : 136
感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784990811662

作品紹介・あらすじ

「あなたの中にすでにバウルがいるのだよ。こうして私を探しに来たのだから」

ベンガル地方で歌い継がれ、今日も誰かが口すざむバウルの歌。ベンガルの行者バウルは「魂の歌い手」と呼ばれ、その歌と哲学はタゴールやボブ・ディランにも大きな影響を与えた。本作は、何百年もの間、師弟相伝のみで伝統が受け継がれてきた、バウルの謎と本質に迫ったノンフィクションである。

「本書はバウルという歌う叡知の人たちの生ける伝統をバングラデシュに追い求めた記録であるだけではない。作者が、いかに言葉と決定的に結ばれていくのかの道程を記録した稀なる魂の記録だといってよい。この本を書くことによって作者は、言葉を用いる人ではなく、言葉に信頼され、言葉に用いられる人へと変貌した」(若松英輔)

第33回新田次郎文学賞受賞作に、旅に同行した写真家、故・中川彰によるベンガルの写真をおよそ100ページにわたって収録。また、本書のために書き下ろした小編「中川さんへの手紙」、若松英輔による解説「コトバに用いられる者たちの群像」に加え再構成した〈完全版〉。

感想・レビュー・書評

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  • バングラデシュのことを知りたいと思い、手に取った本。
    著者川内有緒さんの本は読んだことがあった。高倍率を見事に突破してパリで国連職員として働き、身分も悪くなく手放すのは惜しいようなポストだと思うが、徐々に違和感を感じすぱっと退職。作家に転身された。
    この方がすごいなと思うのは、そういう決断をできることだ。行動力があり、一度決めたら過去は振り返らない(ように見える、ひょっとしたら葛藤は色々あったのかもしれないが)。正に自分の手で自分の望む人生を切り拓いている感じでかっこいい。

    本書はバングラデシュなどベンガル地方に存在するという幻の吟遊詩人「バウル」を探しに行く旅の記録。
    ツアーや全て誰かに手配してもらった旅と違い、現地の人と一緒に現地の交通機関を使って自分たちの足で歩く。バウルは口承で伝わっているため、紙の記録はなく、人づてで色々な人に出会って話してまた誰かを紹介してもらって。

    最初の100ページくらいは写真集になっていて、さすが写真家の方の撮影でどの写真も素晴らしかった。行ったことがなくても読む前に場所のイメージを膨らませることができる。そして読んだ後には、あの場面で出てきたあの人/風景だ、という風にも楽しめる。製本方法も、背表紙のないカラフルな糸綴じで、こだわりを感じる。

    フィクションのようなノンフィクション。力作で大作だった。バウルについて、一度読んだだけでは良くわかったと言えないが、どんな文化でも、現代でもバウルが出現したという1000年前も、人間の本質はおそらく変わらないのだなと思った。
    いずれにしてもまだまだ自分の知らない世界があるのだということを改めて感じ、道中で会ったバングラデシュの市井の人たちの温かさにも本を通じて触れることができた。

  • 重いかなと思ったけど、やっぱり有緒さん特有の軽い文体ですーっと頭に入ってきた。
    なんだろうなー、なんかやっぱ有緒さんってすごく素直な人なんだろうな〜ステキだー。

    そして、この本は
    装丁というのでしょうか、が
    とーーーってもステキ

    ぜひ、多くの人に
    こちらを読むなら手に取って欲しいです

  • 今まで川内さんを知らなかったのは本当に口惜しいけど、この作品に関しては、この形での出会いが初めてでよかったと思う。
    川内さんのように、中川さんのように、アラムさんのように、そしてバウルのように。自分のどこをほじくっても自分が出てくるような生き方がしたい。

  • 読み始めて、なんだ元国連職員のご立派な方の本かー、タイトルからしてノマデックなのを想像してたから、肩透かしを食らって一瞬冷めてしまった。けれど、その点からのいやらしさは感じられず、彼女は単にその時の自分のインスピレーションにそのまま従って、後先を打算的に考えずにやってきた人で、その中でたまたま国連があったって感じで好感を持っていった。  

    バウルが人なのか、料理なのか、なんらかの固有名詞なんだろうなぐらいで何を指すのか、どこの国のものかも知らずに読み出して、初めてバングラデシュの紀行を読めてよかった。全く知らない国だから。

    印象に残ったのは、コスタリカ留学時代に山奥の村に行った話。ちゃんとした宿もないところで、世話になったお母さんにお礼するつもりが、少額札がないと気づいて、とっさにその先の自分の道程優先して、渡せないと判断したところ。で、その後後悔してしまう。分かるなぁって。

    海外にいると、ましてや僻地であり、無意識に普段より生存本能が高まるのか、先のこと考えて守り寄りの行動を選んでしまうことある。その時考えにあった不安要素が解消して考えると、二度とあるとは思えない状況だから、逆の判断すればよかってって、思ったりする。私もそんな経験あるから、人間味、親近感を感じたエピソードだった。(バングラデシュの話でなはないけど…)

  • 「バウルを探して」ずっと読みたいと思っていた。遅くなってしまったが、逆に良かった。「完全版」という素敵な本になって現れてくれた。
    すごく贅沢な本だ。

    まず写真編。一枚一枚が詩のような写真。写真とか写真集とか見慣れてはいないけれど、すごく引き込まれる写真。こんなに連続で見ると、もったいないような気がする。丁寧に見ていたい。さすがの私も(笑)バングラデシュに行きたいとは思ったことがなかったが、行きたい気持ちが募るような写真。特に旅行、それも海外旅行に行けないばかりか、いつになったら行けるのかわからない状態の今、このような写真を見ると、早く行かせてくれーと叫びたくなる。

    本の製本がまた素晴らしい。写真のため、ということなのだろうが、開いたら真っ平らになるのだ。こういう本って全く初めてではないかもしれないが、では「どんな本で?」と考えると、ちょっと思い出せない。そしてそして、糸綴じの糸!何色使われているのだろう。見開きで4つ糸が渡っているのだが、4本とも違う色だったり、3色だったり、とにかくきれい。かわいい。ウキウキする。別のページはまた違う4色とか。
    どんなに大事に作られた本なのか。愛が感じられる。ジーンとくる。
    手に取るだけで喜びがあふれるので、たくさんの人が手にとって欲しい。

    文章も期待を外されることは全くない。とにかく旅に出られない今だから、旅の本というだけでもうれしい。目的のない旅も素敵だけど、この旅は目的がはっきりしている。そして、そういう旅にとても向いた筆者だ。仕事がとてもできる人という意味で。
    「バウルを探して」を読みたかったのは今まで川内さんの本を読んで、すごい人だな、もっと読みたいと思っていたから。「バウル」なんて聞いたこともなかった。「バウルって何?」というところから始まり、川内さんと中川さんのバウルを探す旅に同行させてもらった気分。最後の方までなかなか読んでいても「バウル」がよくわからないのだが、うれしいことに読み終わった時には、わりとスッキリした。生きていくにあたっての指針みたいなものを与えてもらい、この先もしっかり生きていこうと元気が出てくる。もちろん川内さん自身の考えの軌跡、文章の力のおかげであろう。
    わりと普段抜き書きしながら読むのだが、今回読むのに夢中になりすぎたのか、抜き書きできてない。どこを抜こう。

    "そう、バウルの話は、いつでも同じところに帰結する。自分の心を探れと。自分の中にある聖なる場所を探し求めよと。全ての偏見や束縛から自由であれと。自由になって、自分自身を見つけ、人を愛せと。" 330ページ

    このあと、スティーブ・ジョブスの「自分のこころや直感に従う勇気を持って」というスピーチが引用され、ご自身の国連をやめたことを思い出し、それを肯定され、

    "知らない鳥は、こころかぁ。
    人生は目的に向かって行動した結果ではなく、むしろ瞬間、瞬間のきままな鳥に従った結果なのかもしれない。その鳥は、誰の中にもいる。" 331ページ

    と続く。

    最初に写真編から見た時、この中川彰という人はどういう人なのかと気になりネットで調べたら、この本の出版を待たず、急死されたと。えーっ!となる。そのあと本の中で生き生き動く中川さんを知り、なんか信じられない気持ちになる。全く知らない人なのに。無常を感じる。
    でも、こんなにも素晴らしい体裁の本になり、私だけでなくおそらくたくさんの人が写真を見て、心動かされているので、天国で喜んでもらえていたらなと思う。

  • もともと、こういった紀行文が好きなのだけれど・・・

    良かった。
    クスクス笑いながら、いろいろ考えこんでしまうのは
    『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』と同じ。

    で、最後に著者の宛てた手紙に大泣き。
    そんな、そんな・・・

  • バウルの在り方がすごくいいな、と思うと同時に川内さんのこの生き方、考え方もいいな、って思う。

  • 昔、「湘南爆走族」というマンガがあった。
     お前、何者だ?との問いかけられた主人公が、通りすがりの吟遊詩人だ!とボケる場面があった。
     若い頃は、あなたの夢は何ですか?と聞かれあることがあったら、吟遊詩人です!って勢いよく答えようと気構えをしていたが、遂にそんな機会は訪れず、おっさんになった。

     バウルとはバングラデシュに存在する吟遊詩人のことである。
     吟遊詩人のボケをかませぬまま、青春時代をやり過ごしてしまったトラウマを抱えた自分の目に、ある日、飛び込んできたのが「バウルを探して」の文庫本。そして一気読み。こんな面白いノンフィクション読んだことない。以来、著者のファン。全著作読破してしまった。

     で、こちらは完全版。文庫で読んでいるのに何で買うの?という疑問にお答えすると、もう一回新鮮な気持ちで読みたいから、というのと、今回はカラー写真が多数掲載されている、という理由から。
     著者は写真家の友だちともに旅をして、バウルの謎を追った。バングラデシュのいい加減な国民性にちょっとイラッとする著者を、ノホホンとした雰囲気で和ませる中川彰さん。かけ合いの様子が楽しかった。
     でもその後しばらくして中川さんは突然死してしまう。
     文庫本では彼の旅の写真をほとんど掲載できず、しかもモノクロだったことが心残りだった著者の願いもあっての、この度の完全版。多数の写真が、カラーで、大判で、文章とは別ページで掲載されている。だから写真集を新たに買ったと思えばいい。それと、この本、綴じ方や背表紙もすごい凝っていて、カバーをとると、バウル文字が印刷されている。
     巻末には新たに追加された著者による長文の追悼文も載っている。これが感動的なのだ。
     これを読んでから本文を読むと、中川さんの人柄がわかって、文庫本のときには気にもならなかった表現が、味わいのあるものに変わる。

     この本、文庫で読んだ人にも、ぜひ手に取って欲しいなあ。

     えっ? で、肝心のバウルってなんなのさ?

     それがね、よくわからないままでねぇ・・・

     フワッとこんな感じです、くらいは伝えられる気はするけど、レビューで誤解を与えても良くないし、何よりバウルの道を探求する修業者にも、バウルを愛するバングラデシュの人びとにも悪いような気がするから。
     ここは勇気をもって、レビュー拒否します!

     バウル、奥深い。

  • バウルを探し、その歌を聴くために
    バングラデシュを訪ねるという内容の紀行文です。
    バウルについて
    なんの予備知識もないまま読み始めましたが、
    とても興味深く、すぐに惹きこまれてしまいました。

    バウルとは
    ベンガル地方の吟遊詩人、
    風狂の旅人などと呼ばれたりしますが、
    実際にはベンガル地方の放浪修行者なのだそうです。
    バウルになるためには、
    身分や俗世間のしがらみなど一切を捨てて、
    定住せず、風のような存在となって放浪し、
    修行を重ねなければならないようです。
    世捨て人となって修行に励むバウルですが、
    いっさいの宗教宗派には属さず、
    対立することもありません。
    また、どのカーストにもあてはまらず、
    アンタッチャブルな存在ともいわれているようです。

    生活の糧は托鉢で得られるものだけ。
    托鉢の際には家の前で歌ったりすることもあり、
    そこから神秘的詩人、芸術的修行者などと
    呼ばれるようになったのかもしれません。
    識字率の低かった当時、経典みたいなものもなく、
    師の教えは歌で語り継がれたようです。
    歌詞にも深い意味があるらしいのですが、
    読んだだけではよくわかりません。

    またバウルとなったひとが
    みんな歌うのかというとそうでもないらしく、
    歌わずに瞑想するだけのバウルもいるようです。
    ですから教義が世に広く伝わることも
    なかったものと思われます。
    そもそも風のように自由で、
    形式にとらわれず枠に収まらないバウルは、
    その定義自体明確なものがありません。
    起源すらわからないようです。
    バウルとはどのような人を指すのか?
    どこを探せば出逢えるのか?
    どこへ行けば歌を聴けるのか?
    わからないことだらけです。

    バングラデシュはご存じのように
    世界で最も貧しい国といわれていました。
    北海道と同じくらいの国土に、
    1億6,650万の人々がひしめき合っています。
    その中でバウルと呼べる人はわずか数十人程度。
    存在自体が貴重なバウルですが、
    なぜかしらその歌は、
    ユネスコ無形文化遺産になっていたりします。
    謎だらけの存在に興味は尽きません。

    ベンガル地方は、
    かつては豊かな土地だったようです。
    だからこそイギリスに植民地化されたのでしょう。
    文化の交流も盛んだったのではないでしょうか。
    宗教のように形骸化しない
    バウルという生き方、思想、哲学が生まれたのは、
    土地柄だったのか?民族性だったのか?
    おそらくその両方のような気がします。
    本書を手に取り、
    バウルの存在を知れたことは幸運でした。



    べそかきアルルカンの詩的日常
    http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
    べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
    http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
    べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
    http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2

  • 暑い夏の夜、就寝前の「夏休みの読書」によく似合う旅の本。
    南アジアの伝統的口承文化は様々あり、バウルもそのうちのひとつ。この本は研究書ではないが、同じものに興味を持った人には導入としても良い。川内さんたちが出会った多様なバウルの一端を垣間見ることができる。
    あることに強い関心を寄せた際に起こる、マジックと呼びたくなるほどの奇跡の連鎖が描かれており、こんなふうにできたらいいだろうなという対象に迫る旅をこのように結実させることのできた、とても貴い本ともいえる。それは三度も形を変えて出版されたことからも明らかで、中川さんの写真と川内さんの文章を同等に扱った今回の三輪舎版は「完全版」に相応しい。若松英輔さんの解説も付く。
    造本は美しく、敬意に溢れ、でもカジュアルで、触れるたび開くたびにため息が出てしまう。

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著者プロフィール

川内 有緒/ノンフィクション作家。1972年、東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業後、米国ジョージタウン大学で修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏の国連機関などに勤務後、ライターに転身。『空をゆく巨人』(集英社)で第16回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『パリでメシを食う。』(幻冬舎)、『パリの国連で夢を食う。』(同)、『晴れたら空に骨まいて』(ポプラ社/講談社文庫)など。https://www.ariokawauchi.com

「2020年 『バウルを探して〈完全版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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