核兵器

著者 :
  • 明幸堂
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784991034817

作品紹介・あらすじ

核兵器──
圧倒的な破壊力のため、誕生した年に二度使用されただけで、
その後70年間、実戦で使われていない。
しかしその間も改良が重ねられ、
凄まじいレベルにまでその威力を高めていた──。

原子核の分裂と融合が、なぜこれほどのエネルギーを生み出すのか。
またそのエネルギーを、一瞬で消費し尽くすための設計とは。
天然の鉱石から「燃料」に加工するまでの、気の遠くなるような濃縮の工程。
核分裂兵器(原爆)から核融合兵器(水爆)へ──そして究極の核兵器W88の誕生。

20世紀初頭に異常発達した物理学の総決算であり、
人類が元来持っている闘争心と、飽くなき知への欲求が結実した究極の産物──
その複雑で精緻なメカニズムを、
政治的、倫理的な話は抜きに、純粋に物理学の側面から解明していく。

著者自ら作成したグラフやCAD図をはじめ、
本書でしか見られない図版を多数収録。
数式や表、さまざまなデータを駆使しながら、緻密に、定量的に、その実体に迫っていく。
専門書としての魅力、資料的価値を最大限高めながらも、
ユーモラスな喩えやイラストなどを織り交ぜることで、
理系ではない読者にも読み進められる「限りなく専門書に近い一般書」を実現。

多田将のライフワーク、ついに誕生。

【初回限定・函入り特装版】

感想・レビュー・書評

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  • 技術的な観点から核兵器を解説している好著だ.放射線の概要に始まり、核分裂と核融合を解説し、それぞれを活用した兵器の詳細を示している.面白かった.複雑な数式はほとんどなく、グラフで説明しているのが良い.広島へ投下されたLittle Boyと長崎のFat Manはある程度知っていたが、核融合兵器、テラー=ウラム型熱核兵器について知らないことばかりだった.プライマーとセカンダリーを組み合わせた設計は、非常にユニークで特にアブレイションによる爆縮の利用はその白眉だと感じた.情報公開で核兵器に関する資料がほとんど公開されていることにも驚いた.p388で紹介されている資料、The Effects of Nuclear Weaponsはインターネットで簡単に入手可能だ.まず隠すことが常態になっている我が国との差は激しいだろうと感じた.

  • 核兵器の技術的側面について,日本語で読めるこれ以上ないほどの良本。素粒子物理学者が執筆しているだけあって,嘘や臆測がなく信頼性のおける内容。
    平易にと言いつつ原理から丁寧に説き起こし,入念な準備のあと核爆発という現象を詳解。素晴らしい…!

    核兵器の本というと,国際政治に焦点を当てたものか平和追及・核廃絶のスタンスを前面に出したものが大半で,肝腎の「核爆発とは何か,核爆弾とはどのような仕組なのか」については等閑視されている。
    その種の本では,核兵器が破滅的な破壊力を持つことは当然の前提として扱われるだけで,破壊力の源泉が核反応であることだけ述べてそれ以上の詳細には立ち入らない。しかし,「人間がその破壊力を自然界からいかにして引き出すか」という具体的な技術についても,政治や平和と同様,知識を深めたくなるのが人情ではないだろうか。

    以前から,核爆発について個人的に興味があって,書籍やネットの断片的な情報を調べてみることがあった。
    それをまとめたりもしたけれど,こういう知識は専門家によるまとまった著作から勉強する方が良いのは間違いない。
    https://twitter.com/Polyhedrondiary/status/895049560405442563

    数式は多用しているわけではないがところどころ顔を出す。でも高校数学を修めていれば十分ついていけるし,定量的な議論は理解を深めてくれる。グラフも効果的に載せられていて,とても読みやすい。

    核燃料の章,今まであまり知らなかったことが多くためになった。ウランの採掘から,U235の濃度を高める各種濃縮法の話,プルトニウムの原子炉による生産(物理)・薬品による抽出(化学),デューテリウムの濃縮,トリチウムの製造。過早爆発を引き起こすPu240がPu239の中性子捕獲で増えてしまうので頻繁に原子炉を止めて燃料棒を取り出さなければならないこと,DD反応は難しいけどDT反応なら何とかなる件,半減期12年のトリチウムは保存がきかないので核融合爆発のためにはLi6に中性子を当ててその場で作るのがベストなこと。

    本書の最後は,アメリカの核兵器技術の粋を集めた核弾頭の紹介。
    潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)トライデントⅡに搭載されるW88核弾頭は,テラーウラム型の3F爆弾で,核出力475キロトン。
    W88 - Wikipedia https://en.m.wikipedia.org/wiki/W88

    プライマリーがラグビーボール状で,円錐形の再突入体の尖った方に入れられるので,核融合を担う球状のセコンダリーが大きくできる。
    核分裂爆弾であるプライマリーは,主流の原爆と同様にプルトニウムコアを球対称に爆縮させるタイプなのだが,爆縮レンズへの点火位置を僅か2箇所にすることで細長い形状を実現した。

    長崎に落とされたファットマンのような初期の原爆では点火位置は32個(つまりサッカーボールの面の位置)で,これをナノ秒単位で一斉に起爆するのに特別な技術を必要とした。コンピュータの発達により,爆縮レンズを最適に設計することで2点点火が実現したという。

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著者プロフィール

京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。著書に『すごい実験』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学』『ニュートリノ』(以上イースト・プレス)、『放射線について考えよう。』『核兵器』(以上明幸堂)がある。

「2020年 『弾道弾』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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