- Amazon.co.jp ・本
- / ISBN・EAN: 9784991271939
作品紹介・あらすじ
鬱のときに読んだ本。憂鬱になると思い出す本。まるで鬱のような本。
84名の方による、「鬱」と「本」をめぐるエッセイ集。本が読めないときに。
(夏葉社さまの『冬の本』にインスパイアされてつくった作品です)
執筆者一覧
青木真兵 青木海青子 安達茉莉子 荒木健太 飯島誠 池田彩乃 石井あらた 市村柚芽 海猫沢めろん 大谷崇 大塚久生 大槻ケンヂ 大橋裕之 大原扁理 荻原魚雷 落合加依子 柿木将平 頭木弘樹 梶本時代 勝山実 上篠翔 切通理作 こだま 小見山転子 ゴム製のユウヤ 佐々木健太郎 笹田峻彰 佐藤友哉 左藤玲朗 篠田里香 柴野琳々子 島田潤一郎 下川リヲ 菅原海春 杉作J太郎 鈴木太一 髙橋麻也 髙橋涼馬 高村友也 瀧波ユカリ 滝本竜彦 タダジュン 谷川俊太郎 丹治史彦 第二灯台守 輝輔 展翅零 トナカイ 鳥羽和久 友川カズキ 友部正人 豊田道倫 鳥さんの瞼 中山亜弓 永井祐 七野ワビせん 西崎憲 野口理恵 初谷むい 東直子 姫乃たま 緋山重 平野拓也 Pippo pha ふぉにまる 古宮大志 増田みず子 枡野浩一 町田康 マツ 松下育男 miku maeda みささぎ 水落利亜 水野しず 無 森千咲 森野花菜 山﨑裕史 山崎ナオコーラ 山下賢二 屋良朝哉 湯島はじめ
まえがき
この本は、「毎日を憂鬱に生きている人に寄り添いたい」という気持ちからつくりました。どこからめくってもよくて、一編が1000文字程度、さらにテーマが「鬱」ならば、読んでいる数分の間だけでも、ほんのちょっと心が落ち着く本になるのではいかと思いました。
病気のうつに限らず、日常にある憂鬱、思春期の頃の鬱屈など、様々な「鬱」のかたちを84名の方に取り上げてもらっています。
「鬱」と「本」をくっつけたのは、本の力を信じているからです。1冊の本として『鬱の本』を楽しんでいただくとともに、無数にある「鬱の本」を知るきっかけになれば、生きることが少し楽になるかもしれないという思いがあります。
この本が、あなたにとっての小さなお守りになれば、こんなにうれしいことはありません。あなたの生活がうまくいきますように。
※本書は、うつや、うつのような症状の方のためのマニュアル本や啓発本ではありません。そのため、例えば「うつ病の具体的な治療方法」などは書かれておりません。ご了承ください。
感想・レビュー・書評
-
現在も「うつ」と共存している屋良さんと、元ひきこもりの小室さん、ふたりで作った点滅社というふたり出版社の本。
「この本は「毎日を憂鬱に生きている人に寄り添いたい」という気持ちからつくりました。どこからめくってもよくて、一編が1000文字程度さらにテーマが「鬱」ならば、読んでいる数分の間だけでも、心が落ち着く本になるのではないかと思いました」(はじめに、より)
病気の「うつ」、日常の憂鬱、思春期の鬱屈、さまざまな「鬱のかたち」のエッセイが84名ぶん。
著名な方も、まったく存じ上げない方も居た。
知ってる本も、全く知らない本もあった。
ほんとに堕ちてるときは本など読めない、みたいなことを書かれてる方もいた。
それでも、本好きは本を読みたいのであり、本に引き上げてもらったり、寄り添ってもらったりする体験をしているものなんだな。
「本の力を信じている」と書く点滅社の方たち。
そんな方たちの本が、誰かの本棚にちょこんと収まって、いつでも開ける「お守り」のように鎮座していてくれればいい、と、思った。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
鬱の時の過ごし方や読んだ本などが紹介されているけれど、この本もその一冊に入ると思います。84人1000字程度なので気兼ねなく、どのページからでも読めます。*自分が思う「鬱の本」とは、回り回って誰かにとっての「希望の本」だと思うのだが、どうなのだろう。*憂鬱で苦しくとも、幸福を拒否してはいけない。真面目に生きることとユーモアが両立するように、憂鬱であることと幸福は両立するのだから。
-
ほかならぬ自分が逐一、熱意をもって買い込んだ本が並ぶ棚をみても、まったく食指が動かない日が、月に一、二度やってくる。長い本をみれば「長く集中は保てない」と退け、短い本をみれば「せっかく乗った波がすぐに崩れるのは嫌」と不平をいう。ふだん自家薬籠中のものとしている、意識を集中するしかたが何者かに暗号化されたかのようで、ひどくもどかしい。意識を集中して読書に打ち込んだらとてもたのしかったはずと朧げに記憶しているだけに、どうにも集中できないとき隔靴掻痒の苛立ちは募る。重厚な本はとても手に取る気になれないので、短文の極致である歌集や句集、詩集をひらいてみるのだが、ぼんやりしている間にその囁きが完結していて、なんの感動も尾を引かない。一言一句に目を凝らすも理解と記憶が及ぶ範囲は二、三文字に過ぎなくて、なにか読んでいる実感に乏しい。感動できることを知っているだけに不感動が苦しい、あるいは、心の平静を知っているだけに泡立つ心情が堪えがたいとき、私は鬱である。飛躍を承知で言えば、死にたさは生きたさを肥料に育つ華だと思う。
本書『鬱の本』はひとりの書き手につき1000字を割り当てている。
84人の執筆陣の身の上は巻末にまとめて記載してあり、自分にとってのビッグネームが署名されていない限り、本文はただただフラットに目の前に出現する。浅はかさに癇癪を起こして全文黒く塗りつぶしたくなるような1000字もあれば、確かな体温の宿る手ざわりで気持をいくらかやさしく揉みほぐして去る1000字もあり、捨て置くのも褒めちぎるのも違うような玉石混淆の一冊に仕上がっている。詩歌や推理小説ほどに描写と思想と意味がぎっしりしていなくて、短編小説ほどに遥かな感動に連れ去るでもなく、そうかといって大長編ほどどっしり腰を落ち着けて読む必要もなく、傑作選ほどいちいち動悸も引き起こさず、画集や写真集ほど目を滑らせない1000字の集積を淡々と追う。「なんだこりゃ」「ふーん、そうかい」云々とぱくぱくつぶやきながらページをめくっていると、ふと気づくのである。文を追えていることに。熱中や没頭とまではいかずとも確かに、目の前の言葉に集中できていることに。
本を読むたのしさを知っていたのに手許から感覚を紛失してしまったときは、ここを訪れたい。少し遠くなっただけのあの不滅の里にまた帰るために。 -
小ぶりな作りがいい感じ。まえがきに、夏葉社の「冬の本」にインスパイアされて製作したとあって、ああそうか!と納得。「冬の本」も好きでたまに読み返したりしている。どちらも小さな出版社の良さがにじみ出ているような本だ。
歌人の穂村弘さんが「他人の孤独感を味わうと心が安らぐのはなぜだろう」と書いていたが、まったく同感だ。本書では、有名無名とりまぜて百人近い人が「鬱」と「本」について書いている。短い文章で、一人見開き二頁でおさめられており、とても読みやすい。当然のことながら明るいタッチのものは少ないが、読み進めていくうちに、いたって穏やかで安らかな気持ちになってくる。実に不思議だ。
また、たくさんの人が書いているので、それぞれ違った文体なのだが(当たり前だ)、それなのに、なにか一貫したトーンが感じられて、これも不思議な気がする。声高に主張したり、共感を迫ってくるようなところがないからだろうか。みささぎさんという方が「同じような人はきっとたくさんいる。生きづらいけど生きていけないほどじゃじゃないし、憂鬱だけど鬱ってほどじゃない」と書いていた、そういう人に静かに届く文章が多いのではないかと思った。
以下は心に残ったところ。
・青木海青子「怪談という窓」
「扉と違って窓はすぐ別の場所に出ていける装置ではありませんが、窓があることで確実に今いる部屋以外の場所が存在していることが分かります」
そうだなあ。窓からは外の世界が見えるし、開ければ外の空気が流れ込んでくる。なんなら窓枠を乗り越えて出ていくことだって不可能じゃない。確かに本は窓だ。
・石井あらた「棚からぼたもち落ちてこい」
「寝転がった状態で『ぼたもち降ってこないかなー』なんて人はつぶやいたりするわけです。でも『それなら立ち上がって棚にぼたもちを取りに行くべき』とか求めてないアドバイスしてくる奴いるじゃないですか」
いるいる。と言うか、世の中そんな声であふれてる。余計なお世話だよ。
・海猫沢めろん「憂鬱と幸福」
本書では、複数の人が当然のことのようにシオランに言及している。「どのページを開いても憂鬱なことしか書かれていない」そうな。読んだことないんだけど、心惹かれる。でも、これって若い頃読んだ方がいい本じゃなかろうか。うーん、どうしよう。
「本当に目指すべきなのは成功ではなく幸福である。幸福はあらゆる人がそれぞれに実現することができる。シオランはカフカと同じくその憂鬱のなかで幸福だったのではないだろうか」「憂鬱で苦しくとも、幸福を拒否してはいけない。真面目に生きることとユーモアが両立するように、憂鬱であることと幸福は両立するのだから」
・篠田里香「本は指差し確認」
「刊行第一弾の『人生相談を哲学する』という哲学エッセイの帯に私は『その場しのぎの〈処方箋〉から全力で遠ざかる』というコピーを書いた」
そう、「ライフハック」とかいうのを目にするたびに言いたかったのはこれだった! -
落ち込んで本が読めない。起きているのに何も出来ない。消えてしまいたい。そんな憂鬱な気持ちに寄り添う言葉が散りばめられたエッセイ集です。私たちはどんなに落ち込んでも本がきっかけでまた前に進む事が出来る、と信じたくなる本でした。これは本当にたくさんの人におすすめです。
-
鬱って思っているより身近にあって、思っていたよりこんなことを考えている人はいるんだ、とどこか安心できた本。明るくてエネルギーに溢れている日はこの本は読みたくならないけれど、暗い時とか静かになりたい時はきっとまた読みたくなるだろう。
-
鬱と本についての84名のエッセイ。
1名につき見開き2ページ書かれていて短い文章はするりと読めた。
憂鬱なのは自分だけじゃないんだなと思えて読むとなんだかホッとする。
また何かの度に開くであろう本。