浮雲 [DVD]

監督 : 成瀬巳喜男 
出演 : 高峰秀子  森雅之  中北千枝子  岡田茉莉子 
  • 東宝
3.74
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感想 : 54
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4988104032836

感想・レビュー・書評

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  • な、なんじゃこりゃあ〜、というのがこの映画の第一印象。
    まず、冒頭から最後まで、高峰秀子が演じる幸田ゆき子が、どこか人目を避けるような、何かを諦めたような仕草と物言いで、必死に森雅之演じる富岡兼吾に自分を認め愛してほしいと訴えかける。
    で、それを受けてというべきか、これまた富岡が徹頭徹尾、「君は僕なんかと一緒にいない方が幸せになれる」というような「自分にはどうすることもできない」という姿勢を貫き、ゆき子をかわし、放置し続ける。
    結果、画面のこちら側にいる身としては、「ゆき子、富岡と離れた方がいいって! 全てはそこからだって!!」とゆき子に叫びたくなるのですが、それくらい、ゆき子の周りには彼女の女性性を利用、というかはっきり言って虐待する男ばかりで、しかもそんなゆき子に感謝するどころか蔑むような行動ばかりとる。
    特に悲しかったのが、怪しげな新興宗教でもうけた義兄の金を持ち逃げし身を寄せた旅館に、富岡を呼び寄せた場面。
    散々ひどい目にあわされている富岡であるにもかかわらず、彼が到着するとゆき子が、初恋をしている少女のように、心から嬉しそうな無垢な笑顔を彼に向けるんですよね。
    それくらい富岡を愛している、というより、終始恨み事を言い続けるゆき子が求めていたのは、シンプルに彼女に向き合って大切にしてくれる存在で、人間にとって根源的な欲求にただ向き合い続けていたのかな、と思いました。
    それにしても、何もかもが、悲しすぎる映画でした。

  • 戦争中に南方で将来を誓い合った男女が、すべての価値観がひっくり返った敗戦後の日本で、憎みつつも離れられず、ずるずると腐れ縁を続けるさまを描く。
    闇市が栄え、「りんごの唄」が流れ、「食わせろ」デモの人々が行進する戦後の東京で、人も変化しないではいない。回想シーンでは世間知らずのお嬢さん然としていた高嶺秀子が、生き延びるために米兵のオンリーさんとなり、自分をレイプした義兄に頼らざるを得ない状況で、バラックみたいな部屋の中、くわえ煙草でかつての愛人にぽんぽんと憎まれ口をたたく様がいい。魂をなくした抜け殻のようになって次から次に女を渡り歩く森雅之のダメ男っぷりも、妙に味がある。一緒に生きることも、きっぱり別れることもできない腐れ縁の2人の、辛辣で親密な感じがいいなあ。
    なのに、あやしげな新興宗教の教祖になった義兄の金を持ち逃げしたあたりから、一気にヒロインがウザい女になってしまうのが残念すぎ。もう別れる決心をしてる男にすがって屋久島くんだりまで着いていき、男の腕の中で死ぬなんて、あまりに保守的な女のドリーム爆発じゃないですか、情けない。男が言うように、金を持ち逃げした時点で関係を断ち切っていたら、けっこういい話になったと思うんだけどなあ。これは映画の罪というよりも、原作の林芙美子自身がもっていた保守性のせいでしょうが。
    しかし現在見ると、女が自立できない時代というのは、女にとっても男にとっても不幸であると、つくづく思うのです。

  • 小津安二郎に「俺には撮れない」と言わしめた成瀬巳喜男の代表作。

    内容はとてもシンプルで自堕落な男にどこまでも着いていく女の物語。
    内容云々よりも、まずこの映画のねっとりとした雰囲気が凄い。
    女の執念というか情念というか。。。そういうものが映画全体から漂っていて、まるで演歌の世界ですよ。

    そしてなんと言っても一番凄いのが映像力。
    ふたりが並んで歩くシーンや肩を寄せ合って雨を凌ぐシーン。
    たったワンシーンだけでこの作品がどんな映画なのかがわかってしまう。
    ひょっとしたら音声を聞かなくても映像だけでも内容がわかるんじゃないですかね。
    やっぱりサイレントを経験している監督って、映像のチカラが凄い。

    しかし、こんなどうしようもない男のどこがそんなにいいんだ?と、疑問に思わずにはいられないんだけれど、最近読んだ小説に女を虜にする男の一番の魅力は経済力でも誠実さでもなく「色気」だと書かれてあって、なるほどなぁ~と思いました。
    本作の森雅之は確かに色気があるかも。。。

    成瀬作品の中でも名作の誉れ高い本作ですが、自分は他の成瀬作品のほうが好きですかね。
    ただ個人的に大人の恋愛が好みじゃないってだけなんですけど。
    それでも星は文句なく4つです。

    (1955年 日本)

  • 高峰秀子に見とれているうちに2時間が過ぎた。寝床から男を見るときの生霊みたいな顔がきれいだ。

  • 仏印で出会った2人、関係を持ち帰国、
    関係を断ち切れず、伊香保から屋久島まで物語は続く。

    優柔不断で、女にモテモテ、自分の決断をはっきり相手に伝えられない富岡は
    ひどい男でした。でも、嫌いになれなかった。

    ゆき子も最後までこの男の人との繋がりに終始して今では考えられないような女々しさを披露しています。

    作品としては、どこまでもどちらも孤独である描写が上手だなぁと。
    どこまでも幸せになれないのが虚しい。だから小さな歓びに一喜一憂して揺れる気持ちがいい。もう死んじゃえって思っても優しいから離れらないみたいな感じです。

    やっぱり最後がぐぐっとくる、最初は仏印の過去はもう過去のことだと忘れていた富岡がゆき子の姿を見て、仏印の過去を思い出すシーンにはすんごい深さを感じました。
    捨てシーンのない傑作です。

  • 原作:林芙美子『浮雲』 監督:成瀬巳喜男 脚本:水木洋子

    「俺にできないシャシンは、溝口(健二)の『祇園の姉妹』と成瀬の『浮雲』だ」小津安二郎

     瀟洒な台詞。無駄が無いカット。男と女の淪落をあれほど美しく描いた映画は他に知りません。『めし』の大阪と東京の描写も素晴らしかったけれど、『浮雲』も仏印ダラット・東京・伊香保・屋久島の風景が匂い立つかのような描写。高峰秀子の清冽な美貌や圧倒的な演技力と、森雅之の鬱屈としていながら何処か飄々とした雰囲気が素晴らしい。森雅之演じる富岡は顔から言動までまるで太宰治にそっくり。岡田茉莉子のクールビューティーぶりも印象に残ります。斎藤一郎の地を這うようなやるせないメインテーマも耳にこびりついて離れません。観る度に今迄気付かなかったことに気付きます。一生を通して『浮雲』を観続けて、観る度に新しい感想を抱いていけたら良いと思います。林芙美子の原作の同名小説も読みたくなりました。

     画質は綺麗で、音声もハッキリ聞こえるし、日本語字幕も付いているので親切だと思います。

  • エロティックで魅力的。
    セリフがいい。
    人間のダメさ

  • 日本映画チャネルの「成瀬巳喜男劇場 ファイナル ~キネマ旬報ベスト・テン入り作品 一挙放送~」特集で、『晩菊』、『めし』に続き、「成瀬巳喜男」監督の『浮雲 /1955』を観ました。

    -----story-------------
    戦時中、赴任先のインドシナで、妻ある男「富岡」と出会い愛し合った「ゆき子」。
    終戦後、妻と別れて君を待っている、との言葉を信じ「富岡」のもとを訪れた「ゆき子」だったが、「富岡」はいつまでたっても態度をはっきりさせようとしない。
    途方に暮れた「ゆき子」は外国人の愛人となり、「富岡」のもとを去る。
    しかし、ある日、「富岡」が訪ねてくると、「ゆき子」の心は再び「富岡」へと戻って行く。
    ところが、二人で行った伊香保温泉で、「富岡」は今度は飲み屋の若妻「おせい」に手を出してしまう……。
    理屈では割り切れない男と女の業と性を冷徹なまでに妥協のない眼差しで描き切った名匠・成瀬巳喜男の代表作。
    全編を通して一瞬たりとも緩むことのない息詰まるほどの張りつめた緊張感をぜひとも味わっていただきたい。
    -----------------------

    『浮雲』は20年近く前に劇場で観たことがあるので二度目の鑑賞なのですが、、、

    初めて観たときは、広島にあるサロンシネマというミニシアターの≪一期一会シリーズ≫というイベントのオールナイト上映(「フィルムマラソン」と呼ばれていました)で、『生きる(小津安二郎監督)』、『東京物語(黒澤明監督)』、『鴛鴦歌合戦(マキノ正博監督)』との四本立てのイチバン最後の上映だったので、集中力が落ちていて残念ながらあまり記憶に残ってないんですよねぇ。

    ということで、初めて観る感覚で鑑賞しました。


    とめどなく落ちぶれていく自堕落な男「富岡」と、そうと分かっていながら結局どこまでも「富岡」に着いていってしまう「ゆき子」の宿命を描いた愛と悲劇の物語。

    暗くて、重くて、やるせない… そんな内容の作品でした。


    男と女の関係(気持ち)って、≪好き≫か≪嫌い≫かのどちらかにデジタル的に割り切れれば簡単なんでしょうけど、、、

    実際は、その中間帯が幅広く存在していて、スパッと割り切ることができず、複雑に縺れているものなんですよねぇ。

    そんな微妙な男女関係が巧く描かれていたと思います。

    こんな関係って、絶対にイヤだって思うんだけど、その気持ちがわからなくもない… そんな映画でした。


    それにしても、「高峰秀子」ってキレイですよね。
    この時代の女優さんの中で、お気に入りのひとりです。



    -------------------------------
    監督: 成瀬巳喜男
    製作: 藤本真澄
    原作: 林芙美子
    (『浮雲』)
    脚本: 水木洋子
    撮影: 玉井正夫
    美術: 中古智
    編集: 大井英史
    音楽: 斎藤一郎
    監督助手: 岡本喜八
    特殊技術: 東宝技術部
    出演:
     高峰秀子 幸田ゆき子
     森雅之 富岡
     中北千枝子 妻・邦子
     岡田茉莉子 おせい
     山形勲 伊庭杉夫
     加東大介 向井清吉
     木匠マユリ 飲み屋の娘
     千石規子 屋久島の小母さん
     村上冬樹 仏印の試験所長
     大川平八郎 医者
     金子信雄 仏印の所員・加納
     ロイ・H・ジェームス 米兵
     出雲八枝子 下宿のおばさん
     瀬良明 太田金作
     木村貞子 兼吉の母
     谷晃 信者
     森啓子 仏印の女中
     日吉としやす アパートの子供

  • 成瀬巳喜男の代表作にして、日本映画史上屈指の名作。高峰秀子が素晴らしい。そして、日本映画史上最低クラスの男!を森雅之が演じる。ゆったりとした演技、室内の陰影、昭和の雰囲気を醸し出すアイテムの数々、二人で歩く画面などなど。見どころ満載。

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