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- / ISBN・EAN: 4523215007962
感想・レビュー・書評
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なんて無駄のない見事な映画!
音楽も、演出も、情緒も、演技も完璧です。なにより、極めてシンプルなストーリーながら、それぞれの登場人物たちの行動が意図せず影響を及ぼして絡まり合っていく「三軸構成」が絶妙に噛みあいながらも全く破綻なく完璧にまとめられ、始終ハラハラさせる展開はこびが素晴らしいです。
これを、たった90分程度の枠の中で作りきったなんて。
最初から最後まで、息もつけないほどに見入ってしまいました。
勤めている会社の社長夫人・フロランスと不倫をしている元軍人のジュリアン。
彼は、フロランスと共謀して、彼女の夫で社長でもあるカララを殺害することに。
殺害はオフィス内で一人で行い、その後、フロランスと街でおちあう手筈だったジュリアン。しかし、殺人を終えてオフィスから出、車に乗り込んだところで、重要な証拠隠滅を忘れていたことに気づく。
慌ててオフィスに戻ったジュリアンは、エレベーターに閉じ込められてしまう。
彼はなんとか脱出しようと試みるけども…。
同じ時刻、車を置いてオフィスに戻ったジュリアンを見ていた不良青年ルイとその恋人ベロニクは、彼の車を盗む。その後彼らがとった行動は、彼らにとっても想定外のもので…。
そして、ジュリアンとおち合えず、また、あるきっかけから、彼が自分との約束を破ったあげくに別の女を選んだと勘違いしたフロランスがとった行動は…。
ジュリアンによるカララ殺害と、その後のエレベーターへの閉じ込めをきっかけとして、三者それぞれがとる行動が絡まり合いが、結果的に、さらにジュリアンを追い詰めていきます。
そして…。
一種のサスペンス映画であり、これ以上のネタバレは避けたく、うまく説明できないのですが、なんていうか、偶然と混迷の絡まり合いが、どうなるか予想もつかない、こんな息もつけない展開になっていくなんて、本当にすごい!と大感心の映画でした。しかも、その進行に全く無駄がない。
(とはいえ、ラストは意外と古典的であっけないのですが…。でも、終盤ギリギリまで楽しませてもらったので、それも良しか、と納得できる質の高さです。)
そして、フロランスを演じたジャンヌ・モローの、悪女らしいあだっぽさと、反して、どことなくくたびれて物憂げな感じを兼ね揃えた独特の色気と哀愁が、この作品に華を添えています。
昨今のサスペンス映画の場合、速かったり視覚的に派手な展開ばかりに注力されて、情緒や哀愁に欠ける作品もありますが、ジャンヌ・モロー演じる恋に狂った女・フロランスの存在のおかげで、この作品はその点は心配ご無用です。
情緒、哀愁、そして、余韻が、彼女のおかげで、見事に表されているばかりか、際立っています。ラストシーンで目に飛び込んでくることになる、フロランスとジュリアンの幸せいっぱいの笑顔との対比も、その無残な結末と相まって、強い印象を残します。
(もちろん、ジュリアン役のモーリス・ロネと、不良カップルを演じた若い二人もいい味出しています。)
しかも、最後まで見終わると、独特のタイトルにもすごく納得するという見事さ…。どこまでも完璧です。
90分と短く、とてもよくできた作品なので、ぜひ多くの方に観ていただきたいですね。
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映画の好みが20世紀志向(=うるさくなく目がチカチカしないから)で、特に本作は冒頭の公衆電話の不思議に白く光る背景や、まるで切り絵のような取調室など、その極北といえるかもしれない。杜撰な犯罪を軸にゆったりじわじわ進むサスペンスで、話自体はまあ、暗いのにいつでもずっと見ていたくなる不思議な魅力。ジャンヌ・モローは本作が特に良く、夜のパリを彷徨う姿は20代らしくない目の下のクマや毛穴の見える肌から滲む孤独と静かな焦燥感が(撮影ともども)素晴らしい。映画を見る前にサントラCDをよく聞いていて、ジャケットの白いジャガードのようなスーツ姿の彼女が印象に残っていたがその衣装は作品中には登場せず、マイルス・デイビスが即興で音楽をつけた際に撮影されたものらしい。全体の2/3が過ぎてからぬっと出てくるリノ・ヴァンチュラも渋い。若いカップルやドイツ人旅行者他、1時間半に結構多い登場人物誰もが馴染んでいて引き締まった展開が心地よい。最後に浮かび上がる現像写真とモノローグにはじんと来ると同時に、元戦争の英雄で産業スパイという切れ者設定なのに小型カメラに収められたのはなぜか探偵に撮影されたような不倫ピクニック写真?とか適度に突っ込みどころもある。
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さいきん吉瀬が主演でリメイクされたみたいだが、本家は58年の作品。ハリウッドに対抗してパリに毒気に満ちた華々が開いた。
原作を90分にまとめた脚本もみごとだが、なんといってもドカエのカメラとマイルスの音楽は出色である。モローが夜更けの街を恋人を探して駆け回るシーンは、総合芸術としての映画の最良の果実。ずっと見ていられる。暗い心の見る思い出はモノクロームなのである。
この時代の仏映画は、見終わると必ずジタンが欲しくなる。 -
いちおうカテゴリ「バディもの」に入れとくけれど、「なぜやったのか」かもしれない。
話の筋立てとしては、フランス小話というか、人を食った話なんだと思うのです。
しかし、主役二人が真剣に演じているので、この映画の格が上がっていると思います。
とおりすがりのドイツ人を殺した場合は懲役十年あるいは五年。
職場の上司、あるいはじぶんの良人を殺したばあいは死刑あるいは無期懲役っていうのは刑罰としてバランスが悪いのではないかと思いました。
なんでだろう。共謀罪がつくからか?
タベルニエさんはたぶん自首したことになっているだろうから、少し情状酌量がつくのではないでしょうか。 -
久しぶりに『死刑台のエレベーター』を観たくなり、押入れからLDを取り出してきました。
サスペンス映画、恋愛映画の両方の側面を持った、素晴らしい映画。
ストーリー、演出、カメラワーク、キャスティング、音楽、、、
全てにおいて大好きな作品で、時々、観たくなるんですよねぇ。
-----story-------------
土地開発会社に勤める技師「ジュリアン(ロネ)」は社長夫人「フロランス(モロー)」と通じており、邪魔な社長を殺す完全犯罪を目論んでいた。
だが社内で社長を殺した帰途、残してきた証拠に気づいた「ジュリアン」は現場へ戻ろうとするが、週末で電源を落とされたエレベーター内に閉じ込められてしまう。
しかも会社の前に置いてあった車は、若いカップルに無断で使われており、彼らは彼らで別の犯罪を引き起こしていた……。
徹底したドライなタッチと、即興演奏で奏でられる「マイルス・デイビス」のモダンジャズ、モノクロ映像に封じ込まれた都会の孤独感によって描かれる完全犯罪の綻び。
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「ルイ・マル」の監督デビュー作なんですが、若干25歳でこの映画を撮ったなんて、ホント信じられないですねぇ。
ちょっとしたミスと偶然が重なり完全犯罪が崩れるストーリー展開は秀逸。
「フロランス(モロー)」のアップで「ジュテーム、ジュテーム」という囁く場面から始まり、、、
「ジュリアン」との不倫写真を見ながら「誰も私たちを離せない」で終わるまでの、揺れる心情が見事に描かれていますね。
「モーリス・ロネ」も大好きな男優さんで、イイ演技をしていますが、、、
「ジャンヌ・モロー」の存在感は、群を抜いています。
「ジュテーム、ジュテーム」という囁きが、耳から離れなくなりますねぇ。
あと、「マイルス・デイヴィス」の音楽は素晴らしい… のひと言。
何度聴いても飽きませんねぇ。
個人的なお気に入り映画のBest5に入る傑作です!
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監督: ルイ・マル
製作: ジャン・スイリエール
原作: ノエル・カレフ
脚本: ロジェ・ニミエ
ルイ・マル
撮影: アンリ・ドカエ
音楽: マイルス・デイヴィス
出演:
モーリス・ロネ
ジャンヌ・モロー
ジョルジュ・プージュリー
リノ・ヴァンチュラ
ヨリ・ヴェルタン
ジャン=クロード・ブリアリ
シャルル・デネ -
大企業社長の側近ジュリアン(モーリス・ロネ)と社長夫人のフロランス(ジャンヌ・モロー)は不倫関係にあり、社長殺害を計画。完全犯罪を成し遂げたはずだったが、ミスに気付いたジュリアンは犯行現場に引き返す途中、無人となった会社のエレベーター内に閉じ込められてしまう。そのころ、彼の車を盗んだ若いカップルが別の犯罪を引き起こしていた…。
最初はストーリーがとっちらかっている感がありましたが、それぞれのパートが密接に絡み合い収束していく展開は非常にスリリング。終始哀愁を漂わせるも時折感情を爆発させるなどメリハリを利かせたジャンヌ・モロー演技、ジャズの帝王マイルス・デイヴィスによる即興トランペットも光ります。 -
戦争の英雄にして石油会社のエージェントである男と社長夫人のペア、街の花屋の娘と不良青年のペアの罪の交錯。
話自体は面白いんだけど、結局みんな不道徳な人たちなので、感情移入しにくい話。 -
全然関わりのない事件の犯人として逮捕されるも、自分のアリバイを証明しようとすると別の犯罪が犯人であることが発覚してしまう。古い映画ですが、今見てもプロットが斬新です。
苦悩する男がこのまま罪を着せられるのかと思いきや、彼を愛する女の行動により、また新たな展開に。悲しき余韻の残る愛の物語として、この映画の幕が引かれるわけですが、最後の2人の写真がとても良かったですね。
完成フィルムに合わせてアドリブで吹いたというマイルス・デービスのトランペットも唯一無二の独特の雰囲気を出していました。 -
「禁じられた遊び」の少年役ジョルジュ・プージュリイが出ているので見る。公開時18歳。役としてはチンケなチンピラ役ルイ。前科があり自動車を盗み恋人を乗せ走り出してしまう。このあと4,5作に出たほかは声優として活躍し2000年に60歳で亡くなっていた。ジャンヌ・モローとその夫の暗殺を目論むカップル、そしてチンピラのルイとその恋人、この4人が同等に事の成り行きを左右している。この役で光っていたら、後々俳優でやっていけたのかなあ。鬱屈したチンピラという感じは出ていたのだが、そこから感じる俳優としてのオーラが無かったかなあ。
筋書きとしては、車を道路に置き建物に戻ったという、ひとつの行動があれよあれよという展開に。「眼には眼を」を思わせる。
1958フランス
2018.12.14レンタル