通産省と日本の奇跡 (1982年)

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感想・レビュー・書評

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  • ・奇跡に関する分析の第三のタイプが主張するところは、日本は戦後の労働者が習慣的に「三種の神器」と呼んだ「終身雇用制」「年功序列型賃金制度」「企業別組合主義」のおかげで特別な経済上の利点に恵まれたということである。
    …それらは間違いなく神器の最たるものでもなかった。その他の独特な制度としては、個人貯蓄制度、流通制度、官僚の天下り、産業界における系列化、二重構造経済と精緻な下請け体制、税制、会社に対する株主の影響力が極度に低い事、100余りの特殊法人、そして、おそらく最も重要なものとして、政府に管理された会計制度、とりわけ、日本開発銀行と財政投融資予算があげられる。

    ・日本がただ乗りを享受したと言われる側面が三つある。防衛支出の削減、巨大な輸出市場への容易な参入、そして比較的安価な技術移転である。…しかし、高度成長の時期に資本形成が国民総生産の30%を超えた日本では、防衛支出が少なくて済んだ事の効果は無視できるくらいのものだ。日本がとった高度投資戦略を追求し、日本と同様ないしそれ以上に素晴らしい効果をあげた韓国と台湾のケースが、この点についての例証と言える。両国の多額の防衛支出は、経済活動にほとんど影響しなかったのである。

    ・市場合理性においてもっとも重要な評価基準は「効率性」である。しかし計画合理性においては、効率性は「有効性」よりも優先度は低い。アメリカ人、日本人ともに、効率性と有効性の意味を混同している。アメリカ人はしばしば、わかったように、官僚の非効率性を批判するが、官僚にとっては効率性は好ましい評価基準では無い事に気付いていない。目標指向的、戦略的活動を評価する適切な基準は、有効性なのである。…アメリカ人は、日本の政治家の発言に注意を払いすぎ、かつ日本の官僚についてよく知らないために、往々にして日本の経済政策に困惑させられる。一方、日本人もしばしばアメリカの官僚の意見に重点をおきすぎ、連邦議会の議員とその広範囲にわたるスタッフに十分に注意を払ってきていない。

    ・アルフレッド・チャンドラーは「日本とドイツの奇跡は優れた経済諸制度と、安い石油でもたらされた」と言っている。この二つの要因のうち、我々の関心があるのは最初の方である。なぜなら、安い石油は日本とドイツだけでなくどの国でも入手可能であったはずだからである。

    ・日本人の経済優先の考え方は、理解するのに困難ではない。日本国民は交戦国のなかでももっともきびしい生活を強いられた上、戦後のインフレの中で苦しさは倍加された。1940年代の悲劇は単に経済復興のために全力投球するインセンティブとなっただけでなく、もう一つの構造的土台を作った。つまり全国民が等しく貧しくなってしまったことである。従って高度成長は、社会の特定の階層を犠牲にして他の者が豊かになるのではなく、全国民が豊かになるためであるから、国民のあいだに亀裂を生じることなく受け入れられたわけである。

    ・国家管理は、経営を所有から分離し、経営を国家の監督のもとにおこうとすることである。この形態の基本的利点は、国家の優先的政策目標が民間企業のそれに優先するという事である。そして、その主要な欠点は、それが競争を禁止する事にあり、それゆえに経済のなかにはなはだしい非効率性を容認し、無責任な経営を助長することとなるこである。


    著者は経済学者でなく政治学者である。それ故、通産省を追いながら戦後の政治の流れも追える。戦後は本当に草の根まで何も無くなった。闇米は食べないと配給制度の法律を貫いた判事が餓死したくらいだ。自動車産業も十数社あったが、トヨタと日産が主に国策で保護され、鉄鋼など主要産業でも外資との資本提携は日本企業の利益となるよう通産省に保護されていた。戦時の物資調達のための軍需省から通産省へ発展していく。強力な中央統制がそのまま維持されたのだ。経済は成長発展し、複雑になっていて制度がそれに追いついていない。これだけ極端なゼロからのスタートであれば、教育、危機管理、政治、制度や文化の層の薄さを感じるのも当然だ。今の政治や社会制度を考える時に、その未熟さに思いを馳せる必要がある。安心してなどいられない。皆が真剣に考えなくてはならない。多分皆、分かっているのだろう。だから維新の会は支持を集めるのだろうね。

  • JC1a

  • 図書館で借りる。
    分量おおすぎ。せめてどこかにサマリーがほしかった。

    日本経済の最盛期にかかれた本であり、現在は目の敵にされるような制度すら成功の秘訣として紹介されているのを読むにつけ、結局は過程というのは結果から判断されるのを免れないのだと感じる。

  • 君臨する企業の6つの法則 よりリファレンス。 戦後の日本がどのように立上がってきたかを知るため、素晴らしい資料といえる一冊。

    経済産業省の前身であり、旧軍需省であった通産省をGHQのアプローチや人事の出身大学別構成など、非常に本質迫る角度から丁寧に分析していく。著者はカリフォルニア大学教授で米海軍将校としても相当回数来日している。

    1970年という年に新日本製鉄が誕生し、1973、1974年に第一次石油ショック。 その頃から、官民の関係は変容しているように感じるし、それ以前にあった、日本株式会社という海外で持たれた概念は、今まさに我々が、隣国に感じているものではないだろうか。

    本書冒頭、燦然と掲げられたピーター・ドラッガーの言葉を、当時の日本が体現していたことが分かる。 「経済を有効に機能させているのは 経済原理や政府ではなく 組織をうごかしている人である」

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著者プロフィール

チャルマーズ・ジョンソン(Chalmers Johnson)
1931年生まれ. カリフォルニア大学バークレー校でPh.D.(政治学)を取得. カリフォルニア大学サンディエゴ校教授, 日本政策研究所(Japan Policy Research Institute)所長などを務め, 2010年逝去. 専門は東アジアの政治. 主著:『帝国解体――アメリカ最後の選択』(岩波書店, 2012年), 『ゾルゲ事件とは何か』(岩波書店, 2013年), 『アメリカ帝国への報復』(集英社, 2000年), 『中国革命の源流――中国農民の成長と共産政権』(弘文堂新社, 1968年)など.

「2018年 『通産省と日本の奇跡』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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