雪深く、江戸から遠く離れた越後の地に、こんなに才能あふれた人がいたのかと思う。
今よりももっと田舎が田舎だったころ、古典に造詣が深く、歌を詠み、書を書き、絵の才能に秀でた農家のご隠居。
しかし彼の「雪国のくらしや風習を暖かい土地の人たちに知らしめたい。そのために本を出版したい」という野望は、30代の頃からすでに抱いていたものだった。
雪掘りや屋根の雪下ろし、雪崩や地吹雪の恐ろしさ、子どもたちの冬の遊びなど、挿絵入りでわかりやすく書かれている。
それを読むと、穏やかで品の良い老人の語りが聞こえてくるかのよう。
時にそれは幽霊話であったり、過剰に説教臭いふしぎ話だったりもするけれど、明らかに迷信だったり勘違いであろう出来事については、きっちりとその旨断言しているところも信頼がおける。
そのうえで、
”およそ物の得がたきは珍しく、得易(やすき)はめづらしからざるは人情の常なり。(中略)ただいつまでも飽(あか)ざる物は孝心なる我子の顔と、蔵置(をさめおく)黄金(こがね)の光なるべし。”
電車の中で笑いをこらえて身もだえする。
牧之よ、お前もか。(ToT)
読み下し文なのでそれほど難しくはないはずなのに、やはり現代文とは違うのか時間がかかってしまいました。
山東京山の注釈がないほうが読みやすくて面白いと思うのですが。