世界幻想文学大系〈第30巻〉秘密の武器 (1981年)

制作 : 紀田 順一郎  荒俣 宏 
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  • コルタサル短編集。現実が異世界に侵食されていくことを止めようもない、神経がチリチリするような感覚を味わえます。


    ルイスは、兄ニーコの恋人だったラウラと結婚した。ニーコが結核で死んだあと、夫婦はアルゼンチンを離れてパリに来た。最近ルイスの母親からの手紙にはニーコの名前が出てくる。ただの母の間違いなのか、しかし二人の生活はもう元には戻れない。まるでニーコが戻ってきたかのようだ。
    /「母の手紙」

    素朴な女中の語りから浮かび上がる、社交界のもう一つの人間関係。どうやらゲイ関係を象徴しているらしいんだけど、それを読み取るのは難しい(ーー;)
    /「女中勤め」

    寸前で阻止された誘惑の現場を撮った写真は、部屋に飾られた後、起こるはずだったおぞましい展開を示す。
    …題名の「悪魔の涎」とは、スペイン語では空中に浮遊する蜘蛛の糸を示す言葉だそうです。同じものを日本語では雪の季節の前に漂うことから「雪迎え」といいます。「ロミオとジュリエット」の中ではフラフラ浮く恋心のたとえとして出ています。
    同じものを見ても各国における捕らえ方が違うのが面白い。
    /「悪魔の涎」

    天才にして薬物中毒のサックス奏者は、演奏を通して時間の観念を超えた感覚にいた。エレベーターで、地下鉄で、その感覚は蘇る。彼は追い求めた場所へ行きつくためにさらに壊滅的な生活、演奏を繰り返すがしかしその彼岸へは決してたどり着けない。/「追い求める男」
    サックス奏者チャーリー・パーカーの訃報によせて書かれた作品と言うことで、YOUTUBEで聴きながら(笑)
    他の幻想的短編とは違った作風です。

    ピエールはガールフレンドのミシェルの別荘に行く。もちろんその気だった。しかし初めて行く別荘のイメージがピエールの脳裏に浮かんでくる。
    どうやらミシェルは、過去に男性に嫌なことをされた事があり、その男性を…してしまったようだ。そしてピエールの脳裏にはその男の記憶が侵食してきたようだ。
    コルタサルの「異なるものが同化する」タイプのお話。
    /「秘密の武器」

    ===
    コルタサルの本のあとがきに必ず書かれるコルタサルの言葉があります。
    <自分は悪夢を見ると、とりつかれたようになってどうしても頭から振り払えなくなる、それを払いのけるために短編を書いている、つまり、ぼくにとって短編を書くというのは一種の≪悪魔祓いの儀式≫なのです。P259>
    悪夢を払うのはもっと強烈な悪夢なのか。似たようなことはガルシア・マルケスやイザベル・アジェンデも言っていました。
    本を読んでいると「この作品は作者に憑りついている物を祓う行為だろうな」と思うことってありますよね。
    そしてコルタサルの短編小説が、ただでさえ合理的に説明の付かない悪夢の、さらに合理のつかない悪魔祓いなら、読者としては意味とか解釈とか深く考えず、「悪魔祓えたなら良かったね。私も面白かったです」と楽しめばよいのかなと思っています。

  • 非常に良く書けているし、面白くないわけではない。全体を
    通して物語の雰囲気は素晴らしいし、「母の手紙」の狂気が
    じわじわと現実に浸透していく感じや「悪魔の涎」の反転、
    「秘密の武器」の真相への収斂など特筆すべき点も多い。
    だがなぜか私は今一つ乗り切ることができなかった。他に
    短編集も読みたい本にリストアップしてあるのでゆくゆく
    そちらも読んでみて確認したい。

  • 「悪魔の涎・追い求める男」と重複したものは割愛。

    ■母の手紙
    結核病みの兄の恋人を奪う弟。
    兄はひっそりと身を引き死んでいく。
    ブエノスアイレスを去りパリに暮らす二人の元に
    母からの手紙が届き始め、兄が実体化してくる。

    ■ 女中勤め
    パーティのお手伝いに呼ばれていったら犬の世話。
    亡くなった遠方からの招待客の葬儀に母親役を頼まれる。
    ・・・これは割のよい仕事なのか?

    ■秘密の武器
    恋人ミシェルに両親のいない別荘へ招かれたピエール。
    一線を越えさせてもらえないその理由は・・・
    ストーリーありがちなのに、なんだか世界が違う。

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