中江俊夫詩集〈1〉 (1973年)

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  • ●雑木達

    みんな
    耳をふさいで
    (がやがやぺちゃくちゃ)

    私の話をきいてください
    どうか
    私の話をきいてください

    みんな
    耳をふさいで
    (ふふふおほほ)


    ●物音

    そっと
    物たちがふり向く
    すると 「誰れ」? と言うことばが
    もう両手をあげて
    小闇にはしっていく

    その時
    私たち二人の 世界がわからなくなり
    お互いの心臓と ふれあったりして
    思わず
    「どうしようか」 となんか
    ためらいがちに 笑ったりする


    ●夜と魚

    魚たちは 夜
    自分たちが 地球のそとに
    流れでるのを感じる
    水が少なくなるので
    尾ひれをしきりにふりながら
    夜が あまり静かなので
    自分たちの水をはねる音が 気になる
    誰かにきこえやしないかと思って
    夜をすかして見る
    すると
    もう何年も前にまよい出た
    一匹の水すましが
    帰り道にまよって 思索もわすれたように
    ぐるぐる廻っているのに出会う


    ●街

    ここに街がある
    だが わかっているものはなにもない
    私はふり返って見なければならない
    人がたっているかもしれないから
    私はときどき目をつぶる
    すると そのまま夜になってしまって
    突然 ひろい海岸に出たりする

    そこでは星もなく
    水もなく 魚もいない

    そして 私自身
    ひょっとしたらいないかもしれない
    誰かが 私も死んだ人間であることを
    おしえたようだから

    ここに家並がある
    そして 私が歩いてゆくのだ
    私はなにを求めているのか
    私はなにを失なったのか
    (私の内に 街がある
    独りの
    別のー街がある)


    ●孤独について

    森のなかの 一羽の鳥を見るな
    それらはひとりでいても
    遠くのものと結ばれ合っているのだから

    一匹の魚を見るな
    その川でもう 魚は
    どの魚とも話せないだろうから

    一つのことを思っているな
    そのとき 夜がくる

    あなたはその夜について語れなく たおれる

    あなたがそこにないものを見るとき
    そこにあるものについて
    ためらいがちにかたるものがある

    あなたの中の気がつかないひとりは
    そのとき 帰るのを忘れている
    森の中の 一羽の鳥のように


    ●身体

    たしかに誰かが
    あなたにさわっている
    僕が眠っているとき 心よ
    あなたは夜だろうか
    あなたのなかで
    いろんなことがあるが
    僕には よくわからない

    僕が目をさましていると
    あなたのなかの見しらないものたちが
    いないふりをする
    そして いきなり叫んだり
    ふりむいた途端に
    急にだまったりして
    僕をとまどいさせる
    あなたには
    僕がどんなに見えるだろう

    僕はあなたのための
    一つの窓
    または一本の樹だ
    色んなことを黙ってきくための


    ●廊下の窓

    ひとりが 戸を開けてはいると
    廊下には風がのこっている

    先刻 その男がいた
    窓のある部屋では
    誰もいなくなると
    何が起こるかわからないので
    見張りを 確かにその男と同じはずの
    もう一人の僕がする
    風は その部屋に帰ろうとしても
    僕を見て もどれない

    男は別の部屋にはいったまま
    急にしずまるから
    風は 不満で
    自分でも 何かわからないものに つきあたったり
    廊下の裏側から ひっぱったりして
    何もないのに 音たてて男に
    問わせる

    「どうしたんだ
    こんな時間に
    誰がいたずらするんだ
    裏の靴屋はまだ寝ているし
    霧がはれて
    あの街路樹と
    人間の間をとおっていく奴にしては
    まだ早すぎるじゃないか」

    その 音だけは
    その時
    第三の部屋 柱のむこうなどからきこえるので
    こんどは窓のある部屋で 相変わらず
    僕が問う
    「誰だ だれがその部屋でいたずらするのだ
    そこには僕がしのこした仕事があって
    まだ 道具をかたずけていないのに」


    ●もとの景色

    風がとおるたびに
    沼地のどろの中で
    身動き出来ない不満な
    野草の小さな生命が
    たった一つ ひそかに目覚めて言う

    「もう一度 太陽の見ている前で
    自分自身の力をためしたい
    あらゆる生命を 僕の上でやわらげてやろう」と

    その意図は大切なのだが
    あなたひとりで出来はしない

    いつかの家畜たち
    何羽かの鳥たちよ
    手つだっておくれ
    お前たちの見た幾本かの木は
    誰にも思い出せないだろうから


    ●記憶のない薄明

    岸をなくした川が 流れている
    さがそうにも もう 岸は
    ないのだから

    あつまれない 森の木々が
    まだ 仲間を求めている
    呼ぼうにも もう
    一枚の葉が 声にならないのだから

    空の鳥が 魚が 泉を そして
    誰もそれが かつて大地であったことをしらない
    土くれを もとめている
    大地のひときれを

    どこにいったというんだ
    この 残された 
    野草の草たちは
    いったい そうしたらいいんだ
    かぞえきれない連中たちは


    ★●空とひかりのひと

    「街のかたちが 花びらのようにのこっている
    それは 次第に遠のいていく わたくしの心だ
    わたくしは 行く方向をまちがったのだろうか
    山が 幾重にもとおりすぎたり
    流れる音のような
    音のない 川に出会ったりして

    そして それももう わたくしのなかの
    記憶なのかもしれない
    わたくしが 地上に毎日すごしていた頃
    ふと 朝方におりてきた鳥が
    今 わたくしの中にいるのに
    わたくしは 声をかけることが出来ない」

    「人の思念は 鳥を蒻めて
    其処まで行けそうもないのに
    しかし 同じ場所にいることが出来ないので
    私は いつも
    記憶の野にはいっては
    大声でさけびながらくずれていく
    鳥は 私のさけびをきくだろう
    だが私は その時
    人の気配をかんじてたおれる」


    ●地上で

    もうきっと 時間は
    やんでしまったのに違いない
    窓を
    馬車が通ってゆく
    馬はくびをたれて 疲れているらしい
    曳いている車は 誰のものなのだろうか
    それは又 馬が曳いているものとも思えない
    馬は足を動かしていない
    大地が動かしているのか
    馬が行っているのではない
    たしかにみんながいっているのだ
    いつからか 誰の顔も
    あまり「君」と はっきりしなくなり
    呼べもしない


    ●街

    それから
    夜は叫ぶだろう

    畠々が昔のように虫と
    ながい物語を 低い声ではなす

    ひとりが走ってゆく
    そして

    四億年も後から
    また一人が発ってゆく

    いったい街では
    何があったのだろう

    その時の間で
    声をたてずに眠っているものは

    この大きな空なんだろうか


    ●わたしは

    いつも「わたしは」というとき
    ほんとうはわたしでない他のものが
    わたしに話しかけてきているのだ

    わたしはそしらぬふりをして 近づく
    そして「誰かが よんでいますよ」と言う
    ほんとうはわたしの中のものが呼んでいるのに

    それから かれらが どこにいるのか
    はっきりと確かめるため
    沈黙の奥深く 夜明けのように 白くなりながら
    世界の朝で知る

    ● 
    私のなかの どこか見知らない谷間に
    あかあかと陽に照らされて 立ちつくす
    一本の樹を思う


    ●海

    あなたは あなたの目を閉じた顔を
    見たことがありますか
    あなたは 眠ったときに
    外が明るくなっているのを
    気付いたことはありませんか

    あの時 うしろで消えていた家
    あのとき 横にそれていた道
    箸の上から眺める川は ないのです
    窓の中のかおは 白くなって遠のきます

    どうして顔をふせようとするのですか
    あなたは 夜のなかで
    どうして目をとじようとするのですか

    あなたの顔が
    ぼんやりと空をうつして
    揺れる 海になる
    あなたの瞼が 鳥になる

    あなたはどうしたのですか
    あなたはどこに行ったのですか

    あなたは言えないのですか
    鳥はどこの海におちたのですか
    あなたは いつも
    どこの岸を洗っているのですか

    あなたは 眠ったときにはてなく
    外が明るくなっているのを
    気付いたことはありませんか

    波がしぶいて
    そこかの岸にあなたが立っているのに
    忘れたことはありませんか
    船が見えなかったですか
    私に 言えないのですかー


    ●街路

    手をかしてください
    私は 老いた老目です
    夜更けの街を月光に照らされた
    金魚のようによろめいているのです

    通りすぎた私を ふりかえらせないで下さい
    私を落葉をさがして歩かせてください
    裏道の水たまりに手をひたして 時折 呑む
    あの姿勢を決してみないで・・


    ●車

    秋は どこかで空気を押している
    車があるに違いない
    私は不意に忘れ
    新しく土地の人となる

    畑の道をあるき
    車を押している人の透けた手を見つめ
    人が住んでいるのかわからない家の
    木の繁った庭に休む

    その人は
    梢の間や 幹の間
    谷間から彼方の平野へと
    家々の壁を押している

    山のかげりの過ぎたあとの
    その人の黒い長ズボンの後ろ姿は
    目の見えない 農夫のようだ
    明るい 耀く盲目だ



    ●椅子

    沈黙にのいてもらって 君は
    こしかける
    だがすぐに君は立ち上がる
    そして沈黙が またこしかけている

    言うな
    君らのあとの闇に
    君らのことばがかき消える


    ○古びた靴

    古びた靴を
    僕らははかされている
    大地がそのうえ 足を引っ張る
    僕らはいつか 昼間
    ようやく谷をこえたと思った
    平野はとっくに過ぎたつもりだった
    いたち きつねの愉快なメルヘンで

    太陽が頭上で
    始終 僕らをあざ笑う
    まだかと あれはまだかと、、、


    ●言葉

    いつも言葉の横に
    人がいて 私が話そうとすると
    その人の顔があおざめるのだ

    いつも言葉をつつんで 昼がいて
    私が近づくと行ってしまうのだ
    言葉から そして夜が残るのだ

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