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感想・レビュー・書評
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三一書房の『中井英夫作品集』読了。昭和30年代当時の東京の雰囲気、風俗の描写が精緻ということで収録順では最後の「虚無への供物」から読み始める。初っ端から舞台が近所の日本堤のゲイバーでテンションぶち上り。一族の多くが非業の死を遂げている氷沼家で、新たに当主の弟の遺体が密室で発見される。事件か、事故か?殺人であれば、誰が、どんな手法で、どういった理由から手を下したのか?友人らは競って自身の推理を披露するが…。ミステリー好きには堪らない謎に次ぐ謎、そして期待に違わず博覧強記な著者による執拗なまでの情景描写が最高だった。当時の流行、事件事故への言及が豊富で、東京各所の様子が手に取るように伝わってくる。「やっぱさあ!!!知りたいじゃん!動機!!!」とはしゃぎながら読んでいた自分に冷や水を浴びせるような展開も納得感があり好き。「アンチ・ミステリー作品」と称される理由がようやく分かった気がする。ミステリーであってミステリーではない感じは、京極夏彦の百鬼夜行シリーズの最新作『鵼の碑』を思い出したり。そういえば関連していそうな『ストーリーが世界を滅ぼす』の方はまだ読んでいないなぁ。途中のミステリー談義(ノックス、ポー、ルルー、乱歩)にも全く付いていけなかったので、一通り読んだ後に再読したい。
後は収録順通りに。「麤皮」バルザックがメフィストフェレスに魂を明け渡し、傑作を残すまでの前日譚。あまり印象深くはないが、著者が20歳頃の時に発表したと知り驚いた。なんて成熟した文章なんだ…。「黒鳥譚」『すべての水禽はある日”恥”の記憶だけを残してこんな形に変えられた』戦後への期待が裏切られ、恥へと変わる。戦後=時間の経過、成長とも取れる。動物園の檻の中に囚われた黒鳥が金貨を一飲みする童話のようなシーンから始まるせいか、欧州が舞台かと思いきや、すぐに煙突からの排ガスや、戦没者の墓に供えられた線香といった、戦後間もない日本の匂いが立ち上ってくる。好きだ…。「恥」をテーマにした作品は他にも多くあるらしく、こちらもそれらを読んだ後に再読したい。「青髯公の城」避暑地の別荘で、麻子は運命の青年に出会うが…。本来大人が未成年に手を出すフィクションはかなり苦手なはずなのだが、あまりの妖艶さに陶酔してしまった。本書の中では一番好きな短編かもしれない。「虚無への供物」の時にも感じたが、著者はとにかく色彩と手触りへの執着が強い。服や紙や色を表す豊富な語彙で覆い尽くされる紙面のごとく、自分の視界も染まるため、没入感が凄まじい。そんな氏が書いた戦中日記『彼方より』を読んだらどうなってしまうのだろう、と期待と不安で未だ手を出せずにいる。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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