- Amazon.co.jp ・本
感想・レビュー・書評
-
両性具有の天使が昇天するというお話。北欧の自然描写と
相まって美しいイメージが展開される。ただそれ以上でも
それ以下でもなく、単に天使かも知れない人間が死んで
しまう話と言えばそれまで。著者にすればスウェーデンボリ
の引用も含めて神学的な論述がメインなのかも知れないが、
キリスト者でもなければ、キリスト教圏に暮らしていない
人間には響いてこないというのが正直なところ。セラフィタ
が、なぜ受肉しなければならなかったのか、いかにして受肉
したのか、昇天後この地上の世界に何を残したのか、その
あたりがきちんと押さえられていれば、長々とした神学論も
聞いていられる気がするのだが。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
Honoré de Balzac(1799年5月20日 - 1850年8月18日)
"Seraphita" 1834 -
神学をめぐる話しがかなり長い。主人公の絶対的な存在を描くのに必要な部分ではあるが。
バルザックの作品を多く読むことで本作をより楽しめるらしい。 -
バラ十字会員だったバルザックロマン。観念に走りすぎの嫌いはあるが、神秘主義の精髄を伝える美しさに満ちている。
-
バルザックというオカルティストの手によるこの物語は、同時代の同じ傾向の作家たちの中にあってごくごく清らかで、高潔で、輝かしいと思っている。両性具有者であるセラフィタはだれの求愛も受け入れることはないけれど、ミンナとウィルフリッド、どちらにも深い愛を投げかけている。天使的愛という概念と地上的な愛が対立しつつも融和しているのはセラフィタの存在が天上的でありながらも地上的であり、かつ、男であって女でもありそのどちらでもないという彼(わたしは女だからセラフィタのことを呼ぶときに是非とも彼と呼びたい! それはセラフィタを男としてみているからではなくてわたしが女だから、というだけのことだ)の存在をそのまま映しているようで本当に美しいと思っている。セラフィタはわたしが憧れる人物像のひとつだ。「彼にとってはセラフィータ、彼女にとってはセラフィトゥス」という一説がこの物語のすべてを物語っている。角川の蛯原訳よりも、国書の沢崎訳のほうが好きなのは、セラフィタの不思議な力「スペシアリテ(spécialité)」を蛯原は「特殊」と訳し、沢崎は「実相観入」と訳しているからだ。