中江俊夫詩集 (1971年) (現代詩文庫〈39〉)

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  • ●夜と魚

    魚たちは 夜
    自分たちが 地球のそとに
    流れでるのを感じる
    水が少なくなるので
    尾ひれをしきりにふりながら
    夜が あまり静かなので
    自分たちの水をはねる音が 気になる
    誰かにきこえやしないかと思って
    夜をすかして見る
    すると
    もう何年も前に迷いで出た
    一匹の水すましが
    帰り道にまよって 思案もわすれたように
    ぐるぐる廻っているのに出会う

    ★夕方

    なにか
    ーーーーーー
    「それから」
    と言おうとして
    まだなにもいっていない
    だれか
    それをきいていたのだろう
    「それから」と
    すぐうしろでひきつぎ
    わたくしにかまわず話してい

    わたくしはとまどいして
    理由もないのに
    仲間はずれにされた子供のように
    この不意の人に
    それでも それをとがめることが出来ず
    そのときの部屋に もう
    わたくしがいないのを感じる


    ★街

    ここに街がある
    だが わかっているものはなにもない
    私は振り返ってみなければならない
    人がてているかもしれないから
    私はときどき目をつぶる
    すると そのまま夜になってしまって
    突然 ひろい海岸に出たりする

    そこでは星もなく 水もなく 魚もいない 死んでしまって
    そして私自身 ひょっとしたら
    いないかもしれない
    誰かが 私たち 人間のことを
    おしえたようだ
    (君らなんか ずっとさきに)

    ここに家並がある
    私が歩いてゆくのだ
    私はなにを求めているのか いま
    私はなにを失ったのか いつー
    (私のうちに 街がある
    独りの
    別の 街がある)


    ★窓

    窓に 船が入ってくる
    白いかげを焼きつけながら 海から
    空に手をかけて
    僕の部屋に 船がはいってくる
    波立てながらゆっくりと
    その帆柱を 窓枠に引っ掛けぬよう
    天までものばした手を 小さく 縮ませ

    そして今 空と
    僕の部屋の間で 行きまどいして
    刻々 船は
    海に姿をかえてゆく
    僕等が 刻々失くしているように
    広がる天の窓の下
    波打つ都会の部屋で
    蒼ざめた額を 仰向けてー


    ★山

    山は夜
    深い谷間の
    せせらぎを聞かせまいとして蔽う
    暗い笹むらのなかに
    海のような明りを包む

    この 闇に消えてしまった山
    誰にも見えない山
    どこからもみえない山
    ただ山にいるものだけが
    ひとりひとりの 山を感じるのだ

    しかし そこに自分がいるということも
    山を 自分のほかの誰かが そうやって
    見ているからなのだと
    眠りのなかで
    人は 小さな動物たちの記憶などをもって
    その明るい部分へはいってゆこうとする


    ★椅子

    沈黙にのいてもらって 君は
    こしかける
    だがすぐ君が立ち上がる
    そして沈黙が またこしかけている
    言うな 君らのあとの闇に
    君らのことばがかき消える


    ●夕暮れの

    夕暮れの並木道を歩くと
    君らは並木のようになる

    さあ 君らは並木だ 両脇に立て
    ずうっと並べ 君らひとり ひとりで 遠くへー

    それから話をしよう そこを通る人と
    ひと言ひと言

    だが君らは話せない
    人のように話そうとするからだ
    並木の一本として話せ ことばでなしに


    ●田園

    静かな家の 窓がもうしめられて
    柿の実は絶え間なく畠に落ちる

    堅い青い実は
    朝までに大地がその生をすっかりどこかにひいてゆく

    六月 誰の手が落とすのか
    多くの枝から選び
    風もない夜 誰の意志が落とすのか
    柿の実を まだ溢れる力をいきなり切って

    やがて死を柿の実がはらむのを
    誰がしり どの手が打ち
    生はどこに逃げるのか

    手はどれをどこに追う 土の処まで送りとどける
    若い実が死を同時にもつことは許されない
    大地からあやまって吸い上げた死を 実は率直に受け
    どのような驚きで 手は落とすのか

    六月の果実には純粋な誰かの眼が光り
    夜 容赦なく落とす
    だがしっとりと濡れた初夏の田園は
    他の音もなく 樹々は非情に 枝をひきしめてふるえる

    ぽっかり一人の明りが点いている
    時たま見られる少年の 窓からもれる
    あの明りは そしてどんな生だろう

    少年は 決して考えたりはしない
    大地の死が連れてゆく生を
    死としばらくは一緒に枝にあた
    まだ青い柿の実の 落ちた音を

    唯 はっと驚き 落としたあの驚きと同じように
    そしてまた遠く海の物語など読みながら
    知の中のいろんなものがとおる気がする


    ★夜と牙

    夜が 牙を大地に入れる
    冷えきった
    濡れた大地に
    その尖をくいこます

    手で大地をなでる
    奇妙に温かい風
    牙の尖はぐいぐいはいる 奥深く
    あなたのあたっまもそれをうける 眠った人よ

    地球は大空に浮ぶ
    遠い太古の宇宙から獣がきて
    生の牙をいれる あなたの
    血はまわり
    地球はまわる

    この古い獣の
    はげしい意志に
    あなたの体の すべての血管をとおって
    叫びが 沈黙のなかから
    ほとばしる

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