『マリヤの賛歌』 城田すず子著
まえがき(抜粋) かにた婦人の村施設長 深津文雄
この告白は、1958年11月15日、彼女が脊髄骨折でたおれてしまった――
その絶対安静の病床で、奉仕女にオムツの世話をさせながら、ポツポツ語り出たものである。
これを読んで、いたく感動した久布白落実女史は、矯風会の事業として、これを映画にしたいと奔走されたが、監督も決まり主役も適材がみいだされ、いよいよクランク・インという段階で中止になった。あまりにも宗教色が濃すぎるーーという重役会の意向である。
出版するあてもなく、日をすごしているうちに、婦人公論が何十頁とさいて抄録した。それが、なんおことはない、更生の記録ではなくて、「転落の詩集」とある。
全文いただきましょうと申し出た。あまり名の通らぬ出版社があったが、いざ出来てみると、顔が赤くなるような装いだった。これでは男共の欲望を刺戟することに役立つだけで、これではいけないーーという否定にはつながらない。
四度目に現れたのが、日本基督教団であった。この清らかな団体なら、まちがっても悪魔の手段には使うまいと思ったのだが、売れないと決めて絶版にしてしまった。ところが、彼女の証言が本当に必要なのは、これからなのである。
飛ぶように売れる本なんて、みんなニセものにきまっている。売れないことを覚悟で、自主出版と決めたのだが、
「そうしてください、サッパリしていいわ」
と、本人はいう。
この、サッパリという意味は少し解釈を要する。印税が入らなくても、損をしても・・・・・という意味なのである。
体をうって金にかえてきた彼女は、文をうって金にかえることも、いやなのである。損をしても、きいてもらいたいというーー
それは一体何なのか?
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読了。
翻弄されて行く独りの女性の生きざまは、わたしの想像してた「からゆきさん」でもなく、いわゆる「従軍慰安婦」でもない。
様々な境遇に翻弄されながらも、彼女は自分の意思をもち生きることに挑戦した女性であり、彼女の愚かさ、弱さ、強さ、いたいたしさ・・・
それらを、ひっくるめて愛おしくなってくるのです。
そして尊敬へと変わり、あとがきで語られた彼女の深い哀しみの重さに直面し
ガーンとどやされたのです。読むべき本でした。
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あとがき(抜粋)
「兵隊さんや民間の人のことは各地で祀られるけれど、中国、東南アジア、南洋諸島、アリューシャン列島で、性の提供をさせられた娘たちは、散々弄ばれて、足手まといになると、放りだされ、荒野をさまよい、凍てつく山野で食もなく、野犬か狼の餌食になり、骨はさらされ土にかえったのです。軍隊が行ったところ、どこにも慰安所があった。看護婦はちがっても、特殊看護婦となると将校用の慰安婦だった。兵隊用は一回五〇銭か一円の切符で行列をつくり、女は洗うひまもなく相手をさせられ、死ぬ苦しみ。なんど兵隊の首をしめようと思ったことか、半狂乱でした。死ねばジャングルの穴にほうりこまれ、親元に知らせる術もない。それを私は見たのです。この眼で、女の地獄を・・・・
四〇年たってっても健康回復はできずにいる私ですが、まだ幸いです、一年ほど前から祈っていると、かつての同僚がマザマザと浮かぶのです。私は耐えきれません。どうか慰霊塔を建てて下さい。それが言えるのは私だけです」
さすが、日本男子総代で、黙々と贖罪の道を歩いているつもりのぼくも、まだ、もうひとつ、しておかねばならぬことを示されたような気がした。
慰霊塔をたてて、亡霊を鎮めるーーという発想もだが、そんなことで住むものでもなかろう。
日本男児がことごとく、老いも若きも、直接そのことに参加したものも、しなかったものも、いままでの考えを改めて、再びこの惨事がおこらないために、新日本男子売春不買運動ぐらいつくる必要があるのではあるまいか。
(一九八五・八・一五 深津文雄)
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すず子さんの詩
「私はアダムの時以来の
わるい代表の蛇です
私はその長い間の汚名をなくすため
種にあわれみを乞いました
涙を流し長い体をまるめ
青みどろの沼からにけ出すため
主にあわれみを乞いました
主はおっしゃいました
そんなに一生懸命ならば
私は貴女にベデスダ(あわれみ)の池をあたえましょう
友が集まってくるでしょう
長い間の汚名をなくすために
一つ一つのうろこの間に染みている
沼の匂いを消すために
主はみつかいにいわれた
きずついた子供達が来たならば
心をいやしておやりなさい
その両手で
涙をぬぐっておやりなさい
愛情で包んでおやりなさい
きっとなおります
につこりとわらうでしょう
自分から進んで仕事もするでしょう
浄いな池の中で充分に泳ぐでしょう
ハレルヤと起きあがるでしょう
長い間の染みはこうしておちるのです」
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