- Amazon.co.jp ・本 (551ページ)
感想・レビュー・書評
-
『国民経済―その歴史的考察』(弘文堂)を中心に、関連する内容の論文8編と、インタビューや書評などを収録しています。
『国民経済』では、イギリスとオランダの比較を通して、近代社会の生産力の基盤を探っています。自由貿易を推進してきたオランダが「トラフィーク工業」と呼ばれる対外依存的な商業的繁栄を追及してきたのに対して、イギリスでは外国貿易も国内の産業構造の発展の一環に取り入れられ、中産階級の富の形成が着実に推し進められていったことが、両国の道を分けたと論じられます。さらに著者は、イギリスに典型的に見られる「国民経済」の発展が、議会制民主主義を支えるコモンウェルスにつながっていることに触れ、「資本主義、国民主義、民主主義この三者がともに同じ根から出た三つの幹であり、少なくともその形成期には、三者がともかくも互いに絡み合いつつ成長をとげてきた」と述べています。
ヨーロッパの「近代化」を範に取る著者の立場に対しては、早くから厳しい批判が提出されてきました。宮崎哲弥がどこかで、丸山真男、大塚久夫、川島武宜の3人を「啓蒙三羽烏」と呼んでいましたが、思想史の中に「近代」の重層性を掘り下げた丸山に比較すると、著者の近代観がやや平板に感じてしまうのも事実です。
その一方で、経済のグローバル化が進むこんにち、もう一度著者の「国民経済」をめぐる議論を見なおしてみるのもおもしろいのではないでしょうか。そういえば保守派の論客である谷沢永一が著者に対して「偽装したマルクス主義者」といった趣旨の批判をしていた記憶がありますが、現在ではむしろ、いわゆる「分厚い保守」と呼ばれる政治的立場に近い観点から、戦後思想を私たちの「伝統」の一部として捉え返し、大塚史学の思想的遺産目録を作成するような試みがなされてもいいのではないかという気がしています。詳細をみるコメント0件をすべて表示