大塚久雄著作集〈第6巻〉国民経済 (1969年)

著者 :
  • 岩波書店
4.50
  • (1)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 3
感想 : 1
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (551ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『国民経済―その歴史的考察』(弘文堂)を中心に、関連する内容の論文8編と、インタビューや書評などを収録しています。

    『国民経済』では、イギリスとオランダの比較を通して、近代社会の生産力の基盤を探っています。自由貿易を推進してきたオランダが「トラフィーク工業」と呼ばれる対外依存的な商業的繁栄を追及してきたのに対して、イギリスでは外国貿易も国内の産業構造の発展の一環に取り入れられ、中産階級の富の形成が着実に推し進められていったことが、両国の道を分けたと論じられます。さらに著者は、イギリスに典型的に見られる「国民経済」の発展が、議会制民主主義を支えるコモンウェルスにつながっていることに触れ、「資本主義、国民主義、民主主義この三者がともに同じ根から出た三つの幹であり、少なくともその形成期には、三者がともかくも互いに絡み合いつつ成長をとげてきた」と述べています。

    ヨーロッパの「近代化」を範に取る著者の立場に対しては、早くから厳しい批判が提出されてきました。宮崎哲弥がどこかで、丸山真男、大塚久夫、川島武宜の3人を「啓蒙三羽烏」と呼んでいましたが、思想史の中に「近代」の重層性を掘り下げた丸山に比較すると、著者の近代観がやや平板に感じてしまうのも事実です。

    その一方で、経済のグローバル化が進むこんにち、もう一度著者の「国民経済」をめぐる議論を見なおしてみるのもおもしろいのではないでしょうか。そういえば保守派の論客である谷沢永一が著者に対して「偽装したマルクス主義者」といった趣旨の批判をしていた記憶がありますが、現在ではむしろ、いわゆる「分厚い保守」と呼ばれる政治的立場に近い観点から、戦後思想を私たちの「伝統」の一部として捉え返し、大塚史学の思想的遺産目録を作成するような試みがなされてもいいのではないかという気がしています。

全1件中 1 - 1件を表示

著者プロフィール

1907年京都に生れる。1930年東京大学経済学部卒業。東京大学助手、法政大学講師、助教授、教授を経て1939年東京大学経済学部助教授、1947年教授。1968年定年退職。東京大学名誉教授。1970年国際基督教大学教授、1978年客員教授、1985年退職。1996年歿。著書『大塚久雄著作集』(全13巻、岩波書店、1969-86)『宗教改革と近代社会』(1964)『生活の貧しさと心の貧しさ』(1978)『社会科学と信仰と』(1994、以上みすず書房)。訳書 マックス・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫、1989)同『宗教社会学論選』(共訳、みすず書房、1972)ほか。

「2019年 『宗教社会学論選 【新装版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大塚久雄の作品

最近本棚に登録した人

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×