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感想・レビュー・書評
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極限状態での惨劇。罪、というものについて真正面から対峙する作品です。どこまでも救いはなく、黒々とした問いだけが鋭く突きつけられます。
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『私』がひかりごけを見に羅臼を訪れるところから物語は始まる。中学の校長の案内でマッカウス洞窟で、『光りかがやくのではなく、光りしずまる』ひかりごけを見た帰りに校長が語った話が、ペキン岬の惨劇と言われる人肉食事件であった。その事件に強い興味を持った『私』は、事件の経緯を載せた羅臼村郷土史を編纂したS君に会い、詳しく事件を知る。そして『私』は、事件を戯曲という形に再構築して読者に示す。会話のみで語られる人肉食事件は、船長と西川の二人だけが残った時に、二人で脱出を図らずに食べる、食べられるという関係性で密室の洞窟で過ごす緊迫感は想像すると実に恐ろしい。
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ひかりごけの私を案内する校長の頼りなく自信のない風采を遠藤周作の「おバカさん」の主人公ガストンではないかと思わされ驚く。
著者はキリスト者なのか。
そしてその風貌は仲間を糧にした船長の風貌へと溶け込んでいく。
主人公の我慢を理解するものはなく孤立する構図はカミユの異邦人にも似て不思議だった。そうして、最初の短編、流人島にてから順に読み進めるとそれぞれの主人公を覆うように見えざる大きな存在が感じられるが、その存在は決して彼らを救うことはない。
無常観。そう書いて「無常」の意味を調べてみれば、無常とは仏教の観念なのですね。自分で書いておいて、なるほどなあと思ってしまった。
「野火」を読んだことから、この小説につながり、図書館で借りた。 -
ひかりごけ
コロナさんの影響で、読書会がオンラインになった。
戦時かなのか。漂流して、食べるものがなくてやむなく死体を。て、食べるために殺したのかもしれんけど。て、だれが、そのことを裁くことができるのかって問題。
罪をおかしているかもしれない、自分は罪み深い人間なんだって思わない、思えない人には仏教をいくら学んでも入ってこないって、先生が言ってたな。
悪人正機説、昔習ったな。って思い出した。
それが、裁判のとき判事その他に、人肉を食わないものがみえるはずの、罪を侵してないものがみえるばずのひかりごけが、見えなかったのに現れてるんだな。皮肉だな。罪を意識できない、まさしく善人だな。凡夫。
そしてもちろんわたし自身もとんでもない凡夫。
それにしても船長の孤独が計り知れない。 -
「流人島にて」「異形の者」「海肌の匂い」「ひかりごけ」の四編が収録された短編集です。
「異形の者」以外は全て海に関係しているものでした。
「ひかりごけ」が目的でした。
1944年に実際に起きた死体損壊事件(として片付けられたらしいですが、実際に行われたのは食人です)をモチーフとした作品です。尤も、この作品を知るまではそれが実際の出来事だとは知りませんでしたが。
ひかりごけ・・・戯曲でした(´・ω・`)
ちょっとがっかり。←
前半は取材の記録のような、武田泰淳の評論のような形をとっています。なんと表現すればよいのか。
前半で武田泰淳が、単なる殺人と、自然死の人肉を食べるのとどちらが重罪かとなると、大変難しい問題になると言っています。
殺人はありふれているけど、食人は現在(執筆当時ね)ほとんど行われておらず、人肉喰いは「身ぶるいがするほど嫌悪の念をもよおす」、「何という未開野蕃な、何という乱暴な、神を恐れぬ行為であるか、自分はそんな行為とは無関係だし、とても想像さえできない」と考えるようだ、と述べています。
まったく、その通りに思ってしまいます。
しかしこの戯曲を読むと、なんとも言い得ない気持ちになります。
戯曲の前半は食人に至るまでの経緯です。
極限状態での、「そのまま死ぬか、人肉を喰って生きるか」と言う究極の選択。
戦場のような、死や、死体と隣り合わせの経験をしていない現代人だったら、前者なのかな。でも極限状態になったらどうなるんでしょう。想像つきません。
さらに印象的だったのは後半の法廷の場。
食人をした船長は法廷で裁かれるのですが、自分の罪を認め、反省もしているが、裁判長に裁かれても本当に裁かれたとは思えない、と言います。
「他人の肉を食べた者か、他人に食べられてしまった者に裁かれたい」と言っています。そうしないと裁かれた気持ちにならない、と。なんだか考えさせられました。
「ひかりごけ」以外だと、「海肌の匂い」が良かったです。
「異形の者」は、武田泰淳自身が浄土宗の寺に生まれたそうなので、もしかしたら自分の気持ちが含まれているのかも?なんて想像しました。
いや〜それにしても、古い小説なので読みにくい小説でした。
「人の肉さ喰ったもんには、首のうしろに光の輪が出るだと。緑色のな。うッすい、うッすい光の輪が出るだよ。何でもその光はな、ひかりごけつうもんの光に似てるだと。」