ルネサンスの思想家たち (1963年) (岩波新書)

  • 1963年9月20日発売
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  • 十四世紀のロレンツォ=ヴァラから十七世紀のガリレイまで年代順に哲学者の思想を辿り、西洋の人びとの世界観・宇宙観が一新されたルネサンスという時代を考える。


    書かれたのが六十年代であることを考えれば当然と言える文章の古めかしさを除けば、とてもわかりやすい入門書だった。特に最初の中世からルネサンスに至る西洋思想の流れを整理した章が助けになる。イギリスとフランスが十五世紀半ばまで百年戦争を続け、スペインは十五世紀終わりまでイスラム駆逐に力を注いでいたことによって、十五世紀の思想の中心はドイツとイタリアにあった。本書で紹介されている思想家も多くがこの二国の出身である。北欧の人たちもドイツの大学で学び、やがて宗教改革者のルター、神秘主義者のベーメ、天文学者ケプラーらがドイツから出てくる。イタリアでは、アラビア経由で逆輸入的に入ってきたギリシア古典の原典に影響を受けてネオプラトニズムが発展し、キリスト教的なものに限らず幅広い知識を持ち、大宇宙と小宇宙(人間)の合一を説くヒューマニズムが謳われた。
    しかし、ルターによる宗教改革後は旧教側による異端審問が厳しくなり、コペルニクス天文学を発展させ無限に広がる宇宙像を提示したジョルダーノ・ブルーノが火刑になり、法王庁が一度正式に出版許可を出した本についてガリレイが理不尽な宗教裁判にかけられるなど、イタリアの思想情勢は怪しくなってくる。そこで百年戦争を終えたフランスからラブレーやモンテーニュ、イギリスからトマス・モアやフランシス・ベーコンらが出て、十七世紀にはデカルト、ニュートンが続き、思想の中心は英仏へと移り変わっていく。
    ピコ=デラ=ミランドラのような神秘主義者と、マキャベリのような政治的リアリストと、はたまたティコ=ブラーエやケプラーのような天文学者を同じ「思想家」として語りうるところにこの時代の面白さがある。「この世界はどのような姿をしているのか」を探究し、「理想的な世界はどうあるべきか」を考えたという点において、マキャベリとケプラーは同じなのだ。それにしても惑星の軌道が正円ではなく楕円だと発見した人と、太陽系のモデルをプラトン立体に求めた人が同一人物というのは、ケプラーって面白い。完全にネオプラトニズムの世界観を保ったまま錬金術で培った実験精神を医学に応用して、結果的に科学的な正解を導き出していたパラケルススも。ドイツの変人は独特。
    キリスト教の教義と思想とのあいだに折り合いをつけたりつけなかったり、の歴史を眺めているうち、キリスト教自体の面白さについても新しい発見があった。ブルーノの無限宇宙論では世界が無数存在することになり、そのような宇宙ではキリストの救いもまた唯一無二ではなくなってしまうから異端とされたということや、魔女裁判の盛んな時代には悪魔や魔術を否定することもキリスト教不信と結びつけられたことなど。犠牲になった人びと(ケプラーのお母さんも魔女裁判にあっている)のことを考えると面白がってもいられないが、一神教の歪みが表れていて興味深い。
    澁澤や種村さんの本によく名前が出てくる人たちを、やっと体系的に眺めることができた。書き口がとてもニュートラルで、前述した通り神秘家も科学者も分け隔てなく、構成の目から見た優劣を感じさせずに書いているところに好感が持てる。かと思えばたまに個人的な一文がひょいと顔を出し、「モンテーニュにはよく搗いた餅のような味わいがある」と書かれているのを読んで、初めて『エセー』を読んでみようかなという気になった。

  • [ 内容 ]
    ルネサンスは、伝統と信仰にとらわれない人間的立場にたつ思想家が輩出した時代である。
    彼らは権力に抗して思想の自由を守るとともに、思想自身の自由な可能性をひらいた。
    本書は、フィテーノやマキァヴェリ、ルターやエラスムス、ブルーノやガリレイら二十四人の思想家を描き、ルネサンス思想の流れを一望のもとに収める。

    [ 目次 ]


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